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【読書記録】戦争というもの

おすすめ度 ★★★☆☆

近現代史をちゃんと学びたいな、と最近思っている。
出口治明さんの「人生を面白くする本物の教養」で、歴史を読むなら半藤一利を読むのが良い、と書いてあったので、図書館で読みやすそうなものを借りて読んでみた。

とても読みやすいけど、力強さがあり、次の世代に残したいという確固とした意志を感じる。
90歳を超えて書かれた「最後の原稿」。
知っておかなきゃいけない、背筋を伸ばされるような、そんな気持ちになった。


理想のために国を滅ぼしてはならない

日米開戦に最後まで反対した若槻礼次郎の言葉だ。
開戦の決め手になったハル・ノートが出された後、政府や日本の重臣で開かれた懇談会での議論が書かれている。
相手は、開戦したい当時の東条首相。

若槻「理論より現実に即してやることが必要ではないかと思う。力がないのにあるように錯覚してはならない。(略)たとえそれが不面目であっても、直ちに開戦などと無謀な冒険はすべきではない。」
東条「理想を追うて現実を離るるようなことはせぬ。しかし、何事も理想を持つことは必要である。そうではないか」

これに対する反駁が「いや、理想のために国を滅ぼしてはならないのだ」

今なら、東条の言葉が間違いで、若槻の言葉が正しいとわかる。
けれど、当時そういう冷静さをもつこと、そして発言することがどれだけ難しかったか想像したい。
不安や恐怖を抱えた人は理想に弱い。素敵な名言で導いてくれる人は、正しい気がする。付いていきたくなる。
私ならどうしていただろう。
若槻の言葉を「怖気付いている」「水を刺すようなことを」と貶してたんじゃないだろうか。

バスに乗り遅れるな

当時大流行したスローガンらしい。ナチスドイツの快進撃に熱狂し、今こそ自分たちもチャンスを掴むべきだという気分が国中に溢れていた。

ここで半藤さんが語るのが「国民的熱狂をつくってはいけない」ということだ。

一言で言えば、時の勢いに駆り立てられてはいけないということです。熱狂というのは理性的な物ではなく、感情的な産物ですが、戦時下の日本において何と日本人は熱狂したことか。
マスコミに煽られ、一旦燃え上がってしまうと、熱狂そのものが権威を持ち始め、不動のように人々を引っ張っていき、押し流していきました。

これは、今でも十分通用する教訓だと思う。もう長いことテレビのワイドショーは見ていないけど、多分今もそういう煽りはある。
テレビだけでなく、ネットの世界ではもっと小さな熱狂が沢山生まれて、ぶつかり合って燃え上がっている。カオスだ。

熱狂に対抗する方法も、とても難しい。
私はなるべく見ない、参加しない、盲信しない、にしているけれど、本当は熱狂と戦って鎮静化させるべきなんじゃないか、とも思う。
若槻礼次郎のように正面切って。

うーん…いや、難しいな。できる気がしない。

なんで教えてくれないの?

半藤さんの書籍は初めて読んだけど、戦争反対という姿勢を貫きつつも、政治的に偏りがすくなく、冷静で中立的だと思った。
誰かを極端に悪役にして、それこそ熱狂を煽るようなことがない。

私は、日本史好きだったけど、近現代史に疎い。
ほとんどの人がそうではないかと思う。
学校の教科書は近代史が薄い。受験前に押し込むように一気にやるから、暗記中心になる。

「日独伊三国同盟」が日米関係にどういう影響をもたらしたのか、「ハル・ノート」に何が書かれていたのか、近衛文麿が何をしたのか、この本で初めて知った。

なぜか考えると、やはり今に近いから政治的な思想で賛否両論起こりやすいんだと思う。特にアジアの歴史が絡むとありとあらゆるところから文句が出てくるんだろう。
そう思うと、教科書としてできる限界はアレなんだろう。

でも、学びたい

でも、あかんよなぁと思う。私はもっと早く知っておきたかった。
それは、どっちが正しかったとか、誰が悪かったか知りたいからじゃない。
戦争という過ちを繰り返さないためだ。

多分この先も私は一般市民で、できることは少ないだろうけど、知ることで変わることはできる。教訓にできる。

最後の章で半藤さんが書いていた教訓を引用して終わりたい。

当時の日本陸軍の戦争指導層の大半が楽観していたのは、正確にはソ連が出てきたら太平洋戦争における今後の全作戦構想は壊滅する、であるから、ソ連には出てきてほしくはない。こうした強烈な「来たらざるを恃む」願望が”でてこないのではないか”という期待可能性に通じ、さらにそれが”ソ連は当然出てこない”となった。つまり起こってほしくないことはゼッタイに怒らないという、根拠のない確信になっていったのです。
(中略)
もはやどうにも手の打ちようもない、という絶望的状況に陥った時、人はいつでも根拠のない幻想でしかないことに、確信とか信念というものを見つけるもののようです。

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