【読書記録】わたしで最後にして: ナチスの障害者虐殺と優生思想
おすすめ度 ★★★☆☆
ナチスの障害者虐殺と優生思想といういかにも重いテーマ。
以前読んだ小説「ベルリンは晴れているか」が面白くて、ナチス・ドイツの歴史に詳しければもっと楽しめたよな、と思って借りてみた。
ナチス・ドイツの行った障害者虐殺「T4作戦」を軸に、世界の優生思想の歴史、日本の歴史、優生保護法のことなど、体系的にまとめてあり勉強になる。
ただ少し教科書的すぎて、「勉強になったな」以上の感想が出にくい。障害を持つ著者の当事者としての想いと、歴史描写の正確性のバランスが少しチグハグな印象で、もったいなく感じた。
優生思想は今でも
前半は「T4作戦」の話で、著者が実際にドイツを訪れて体験したことを綴っている。
実はドイツ国内でも「T4作戦」というか障害者虐殺自体があまり知られていないらしい。
なぜかというと、他の被害者と比べて、戦後に告発する遺族が少ないから。
障害者が家族にいることを隠したい心理があるから。
周りに障害がある人がいない私には、いまいち実感できないのだけれど、現代でも「結婚相手に兄弟に障害があると知られたくない」とか「生まれた子に障害があったら、義両親に自分の遺伝じゃないかと責められた」などという話はあるのだという。
外野から見ると「そんなのひどい、差別だ」と思うことでも、実際にそういう思想=優生思想が簡単には消しされないものなのだと考えさせられる。
本の後半では、やまゆり園の事件も語られていて、その中に「遺族の要望で名前が公表されなかった被害者がいる」という事実が述べられている。
ドイツでおきたことと、根底は同じだ。
受け止められない優生保護法問題
優生保護法のニュースも時々目にするが、客観的に見てひどすぎて、とても近現代の日本で行われていたことだと思えない。
どう考えても「基本的人権の尊重」がされていないような法律が、戦後憲法のもとでまかりとおっていた。しかも、2016年に被害女性が告発するまで国も政府もまともに補償しようとしてこなかった。
遠い国で昔あった悲劇の歴史じゃないかと考えたくなる。日本の政府にはムカつくことも多いけど、さすがにそんなひどいことする?車椅子でも乗れるバスがあって、駅にエレベーターもあるこの国で?
事実として知ることはできても、心が受け止められないのを感じた。
だけど、それが事実だ。
きっと、自分は一面的にしか見れていないのだと思う。
当事者から距離があるから、知らないことがたくさんあるんだ。
謙虚に受け止めなきゃいけない。
今、できることはなんだろう
優生思想といえば、ナチスドイツの狂気で自分とは関係ないと思いがちだ。
だけど、今も世界中でその思想は息づいている。
ちょうど読み終えた日にこんな記事を読んだ。
この記事のコメントからも、優生思想を無くすことの難しさを感じる。
実際に、負担(という言い方は嫌だけど)するのは税金だと言われればそのとおりだし、このご家族もいろんな苦労があるだろう。
私の中にも「確かにな」と思ってしまう部分がある。
思想ごと変えることは難しいし、信条の自由はあってよいと思う。
文句を言いたい人は、自分自身も恵まれていないとか、行政の補助を受けられていないとか、そういうジレンマを抱えている人も多いだろうし。
でも。
だからと言って、差別や迫害という言動は許されない。
ナチス・ドイツは社会的弱者のために税金の負担が増えること、当事者が不幸であることを主張して、迫害を進めた。そして、悲劇がおきた。
日本の優生保護法も、やまゆり園事件も同じ。さっきのYahooニュースのコメントも同じ。
同じことをしてはいけないことを学ぶのが大事だと思う。
考えることは自由でも、理性的な言動はできるはずだ。
知識や教養を持って、他者にエンパシーを感じられるように、そういう人間を育てるのが教育だ。自分自身と我が子にできる、数少ないことだと思う。
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