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【読んだ】ちっちゃな科学

おすすめ度 ★★★★★

かこさとしさんと福岡伸一さんの共著。どちらも好きなので、大好きすぎる。
二人の視点がとてもフラットで、まっすぐな知識欲と探究心に溢れていて素敵。読んでいてしびれる憧れる。
読んだ後、とりあえずかこさんの絵本をいっぱい図書館で予約しちゃった。

テーマごとにかこさん、福岡さんそれぞれが執筆された文章、お二人の対談、QA方式の問答集から構成されている。
どれもそれぞれ良いのだけど、一番好きなのはかこさんが担当する第一章「戦争の『死に残り』の僕が、世界の端っこにぽつんといる子どもさんに伝えたいこと」。

かこさんの絵本は子どもの頃から読んでいたし、我が子にも何冊か与えているけど、どういう方なのかはあまり知らなかった。
戦時中の自分の思想に対する後悔や、子どもたちに対する想いに涙が出そうになった。

「子どもはみんなカブトムシが好きだろう」というのは、大人の浅はかな考えです。どんなに立派なカブトムシやクワガタを用意したって、アリが好きな子はその辺に歩いているアリを見る。(中略)
僕自身が繰り返し「大勢」を描くのは、自分が世界の中心だとはとても思えないからです。この世界は多様であり、自分はどこか端っこにいる。でも「端っこでも世界の中なんだ」といいたいのだと思います。

昭和20年、僕は戦争で死ぬはずだった生命を残してもらった。自分の判断力のなさと勉強不足を猛烈に反省し、次の世代を生きる子どもさんたちが、僕と同じ過ちを二度と繰り返さないように自分の「余命」を使おうと考えました。

一つひとつの言葉が謙虚で温かいのに、強い意志を感じる。こんな大人になりたい、と思いながら読んだ。


QA方式の問答集では、20の質問にお二人がそれぞれの回答をしているのだけど、違いや共通点があり面白い。

例えば、デジタルネイティブと言われる今の子どもたち、大人もスマホなしでは生きていけない時代環境で子どもの教育をするに当たって気をつけるべきことは?という問いに対する答えはこうだ。

かこ:連絡交流や記録保存、目的とする事項を直ちに探索解明して、時間労力の浪費を除くことができるのは、有効ではあるけれど、事故の単純な好みや流行分野のみに短絡変更する傾向に陥りやすく、隣接分野やより重要因子への配慮を欠く恐れがあります。また一途に目的の自責のみを知っただけで、考察や他との対比検討を失う事となりやすいのです。(後略)

あの優しい絵本の語り口とのギャップに思わず痺れる。

福岡:(前略)しかし、私はこれについてそれほど心配していません。現代の子どもたちは現代の子どもたちなりに、このインターネット環境の中で適応し、彼ら彼女らの五感に寄って、私とは違う形で痛みや匂い、粒立ち、異音、損傷、肌触りを感得しているに違いないのです。
第一、大人がこれだけネット環境を便利に使い、半ば依存している今日にあって、子どもにだけネット環境を禁じたり、ここから遠ざけることなど不可能ですし、またフェアな態度とも思えません。(後略)

これも福岡さんらしいフラットな視点が感じられる。
お二人とも教養と思索の深さがハンパじゃないのに、それをひけらかしたり攻撃するために使うことはない。だから読んでいて気持ちがいい。

200ページにも満たない薄い本なのに、読み終わるととても充実した気持ちになれる。
夏バテ気味の疲れた頭におすすめだ。

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