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[ ノンアルコール ]:いい時間とお酒

↑↑コチラのお題に参加してみました。
どうなんだろ? お題の範疇になってるのかな〜😊?
3000文字くらいあります。のんびりどうぞ。

画像:MILMOFY/illustAC


[ ノンアルコール ]

 今日はサークルの飲み会。
 私は、大勢の飲み会が苦手。
 お酒飲めないし。

 最初はいいの。
 ソフトドリンク飲みながら、それなりに美味しいものが食べられて、皆んなとも話ができて。

 でも、1時間もしないうちに、ドリンクは飲み飽きるし、お腹いっぱいだし、皆んなの話のテンションについていけなくなってきて、どんどん退屈になって、眠くなって、愛想笑いもだんだんと面倒になっていく。

 シラフの皆んなといるときは、あんなに楽しいのに。

 1時間を過ぎたあたりから、もう、帰りたくて仕方なくなる。
 だから、大勢の飲み会にはなるべくなら参加したくない。

 でも、参加しちゃうんだよね。 
 やっぱり来るんじゃなかった、っていっつも思うのに。

 なんでかな〜。

 そんな嫌な大勢の飲み会だけど、今日は、唯一いいことがあった。

 ハヤトくんがいる。

 いつも飲み会に参加すると、まずハヤトくんを探す。
 前に参加した時は、いなくてガッカリしたけど、今日は見つけた。
 近くの席に行きたかったけど、それは叶わなかった。

 いつも通り、明るく皆んなと話してるハヤトくん。
 遠くから眺めているだけなのに、お酒も飲んでないのに、火照ってきちゃう。
 なごむなー、あの楽しそうな顔。
 面倒な愛想笑いに疲れた私の顔も、ひとりでに目一杯の笑顔になっちゃうよ。
 
「じゃぁ、オレはこれで」

 えっ?
 驚きと同時に火照りも笑顔も一気に沈む。

 ハヤトくん突然立ち上がって、帰るだなんて、言ってる。
 なんで、なんで。

 周りの皆んなからも、非難の声が上がる。
 もちろん冗談のノリで。

 そうだ!そうだ! もっと非難しろー! ハヤトくんがいなくなったら、もう、この飲み会に、なんの希望もなくなっちゃうよー。

 帰らないで!
 そう心で願いながら、必死にハヤトくんを見つめた。

 わりぃ、わりぃ、と周りの皆んなに謝っていたハヤトくん。
 必死に引き留めようと見つめてる私。

 ふと、ハヤトくんと私の視線が重なった。

 その途端、

「あ、長谷川〜」

 と、私を名字で呼ぶ。

「お前も用事があるって言ってなかったっけ?」

 えっ、この後の用事なんて無いよ。
 と、困惑する私。

 周りのみんながざわめき出す。
 なんだふたりで抜け駆けかー、なんだなんだ、そう言う関係? などと勝手に盛り上がっている。

 ちげーよ、と言いながらハヤトくんは止める皆んなを振り解いて、笑顔で手を振って店を出ていった。

 あー、ハヤトくん行っちゃった〜。
 この飲み会唯一の希望を失った私はしょんぼりです。

 よっぽど肩でも落としていたのか、

「長谷川、あんた予定があるなら、帰んなー」

 と、隣の子が言ってくる。

「長谷川さん、コッチは盛り上げとくから」

 と、周りの皆んなも声をかけてくれた。
 いやぁ、でもー、なんて社交辞令を言ってはみるけど、なんだか皆んな帰れ帰れで、

「じゃぁ、ごめん、先に上がらせてもらうね」

 と、言って荷物を持ってその場を離れる。
 皆から見えないところまで来ると、足を早めてお店の出口に向かった。

 早く解放されたいという気持ちもあったけど、早く店を出ればハヤトくんに追いつけるかも、って思いもあった。

 さすがに、追いつけるわけがないよ、と思いながらも、お店を出て辺りをキョロキョロ見渡してみる。

 ここが都会の繁華街なら、まだまだ夜も浅い時間、寒空の下でも気分を高揚させた人たちが大勢行き交っていることだろう。
 でも、ここは田舎の町外れ、昼夜問わず、行き交う人も車もまばら。

 だから、すぐに見つけられた。
 歩行者信号の前で、街灯に照らされて、ボンヤリと立っているハヤトくんの姿。

「ハヤトくん?」

 近寄って、声をかけた。
 でも変だな。ハヤトくんは電車のはずだから、駅は逆方向だよ。

「あ、長谷川も帰りか?」

「うん、帰って来ちゃった、──予定なんてないけれどね」

 って、少し笑いながら言ってから、続ける。

「ハヤトくんが言ってくれたから、帰りやすかったよ」

「そっか」

 そう言って赤信号の横断歩道を見る。

 吐く息が白い。

 私はこの信号をよく使うから知っている。
 駅から来るハヤトくんは、きっと気づいていないのだろう。
 だから、追いつけたんだね。
 押しボタン信号、ありがとう。

 このまま赤なら、ハヤトくんと並んでいられる。
 でも、こんな所を誰かに見られたら何かと厄介だ。
 私は、少し横に移動して、ボタンを押す。
 すぐに車道側の信号が黄色になる。

「あのさぁ」
「えっ?」

 唐突に声をかけられて、少しびっくりした。

「飲み会、苦手なら参加しなくても、いいんじゃないか」

 横断歩道の信号が青になった。
 ハヤトくんは続ける。

「オレも、あんまり好きじゃないけど、無理して付き合わなくても、いいと思うよ」

 そう言って、横断歩道を渡り始めるハヤトくん。

 少し、ポーっとなる私。
 信号が点滅し始めたので、慌てて走る。

 渡った先の歩道で立ち止まっているハヤトくんに追いつく。
 横顔が目に入る。

 その横顔に向けて、考えた訳じゃ無いけど……、
 今の思いを声にしてみた。

「ありがとう、──そうだね……、そうする」

 笑顔で言えたか分からないけど、私は、感謝の気持ちを目一杯、声に込めた伝えた。

 バレてたか。
 そうだよねぇ……。
 だから、予定があるだなんて、声をかけてくれたんだよね。

 ───ありがとう。

「なぁー」

「うん?」

 今度はなに? 

「あのさー」

 なによ、

「よければさー」

 なんだよー、

「ノンアルコールを豊富に扱ってる店知ってるんだけど、酒が苦手な者同士、どう?」

「えっ?」

「本当に予定ないなら、これから行かない?」

「───。」

 まさかのお誘い。

「あー、嫌なら、いいけど〜」

 あ、ハヤトくん顔赤い、照れてる、絶対、照れてる。
 そういう私は、心臓ばくばくばくばくばくばく………

「───うん、行こ」

「よかった……」

 白い息と、いつものハヤトスマイル。

「じゃ、コッチ」

 と指をさすハヤトくんと並んで歩き出す。

 人も車もまばらな夜の街をハヤトくんと並んで歩く。
 嬉しいし、緊張するし、心臓はばくばくばくばくばく、だし。

 ハヤトくんはずっと無言だし。
 あー、なにか話さなきゃ、と思って口を開く。

「ところで、お酒が苦手だからって、なんでソフトドリンクじゃなくて、ノンアルなの?」

 おい、なに言ってんだ。
 もうちょっと、気の利いたこと言えよ私!

「あー、知り合いがやってる店なんだよ」

 と、いつもと変わらない表情で話をしてくれるハヤトくんに感謝。

「そいつさー、酒は好きなんだけど、アルコールぜんぜん受け付けない体質で」

「そうなんだー」

「そうなんだよ、それでも居酒屋やりたーい、とか言って始めたんだわ」

「へーぇ、面白い人だね」

「だろ」

 なんだコレー、楽しく会話できてるー!

「あー、それと……、まぁ、お題がアレだからな……」

「へーぇ、アレか〜」

 と、最後は意味が分からなかったけど、でも、なんだか楽しいからなんでもいいやー。

「よし、じゃぁ、ノンアルコールで楽しんじゃおう!」

 夜の街を二人で歩く。

 飲み会に参加するのは苦手だけど、いいこともあるんだね。
 
 そう思える夜になったよ。
 ありがとう、ハヤトくん。 


おしまい。

#いい時間とお酒

いつも楽しい記事を執筆しているスズムラさんの記事で、募集を知りました〜。
ぜひぜひ読んでみてくださいね。
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福島さんと一緒に掲載されてて、ふたりともすごいです〜😊♪

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