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【20代退職者の本音に迫る】 浮かび上がる課題と対策 組織・上司の意識改革が不可欠


「一身上の都合で退職させていただけないでしょうか――」。近いうちに、この言葉を残して会社を去るのは、あなたの部下かもしれない。唐突で、本音がわかりにくい若年層の退職。胸の内に何を思って辞めていくのか。地域銀行、信用金庫を退職した20代4人の声から、その傾向と対策が浮かび上がる。同世代の若手記者が本音に迫った。

承認されず「うつ」

「(半笑いで)契約も取らず一日何してたの? 地域のパトロールご苦労さん」。地域銀で預かり資産の渉外係だった男性Aさん(当時25歳、2022年2月退職)を追い込んだのは、部下の仕事ぶりを認めない支店長の言動だった。

Aさんは大型案件の獲得が多いものの、契約件数は少なかった。一日の獲得がゼロ件で支店に戻ると「ガソリンの無駄」と罵声を浴びた。「行内で平均以上の契約を獲得しているのに、なぜこんなふうに言われるのか」。次第に獲得の喜びを忘れ、支店長の顔色ばかり気にするように。最終的にうつ病で職場を去った。

24年度上期中に退職を予定する信金の女性職員Bさん(27)も「上司は私たちを出世のための数字にしか見ていない」と。努力や成長に目を向けない姿勢に嫌気が差した。

常に転職の選択肢

金融機関の組織構造への不満も退職の要因だ。「『新卒で入社した企業で働き続けるのが一番の幸せ』という昔の考え方と違い、今の若手は転職が常に選択肢にある」。こう話すのは人事経験がある地域銀役員。勤務先の職場環境や給与が他社より見劣りすれば、若年層が見切りを付けるのは早い。

23年2月に地域銀を退職した男性Cさん(当時26歳)の転職理由は「組織の持続可能性の無さを実感したため」だ。渉外業務に熱心に取り組み、契約実績は同期でトップクラス。だが、55歳で定年退職を迎えた管理職の年収が約1000万円と知り「理想の人生を送れない」と退職した。

成長意欲の高いCさんに追い打ちをかけたのは、ある役員の一言だ。銀行決算のランキングで下位評価となったことに対して「仕方がない」と責任逃れの声。「上に立つ人間がこれでいいのか」と怒りを覚えた。
営業現場では、行内評価を意識して事業性評価シートの作成に追われる先輩・同僚ばかり。役員と組織への不満が退職の引き金となった。

皆が持つ「仕事愛」

管理職以上の役席者にとって、若手は仕事愛や熱意に欠けると思われがち。だが、退職時に感じた心残りを聞くと、退職者全員が「もう少しお客さんを支援したかった」との回答がそろった。

内に強い情熱を秘めていたからこそ、許せないこともある。22年度に信金を退職した男性Dさん(当時24歳)のきっかけは、担当企業への支援方針に関する上司とのズレ。上司が店舗実績を優先し、明らかに高い金利で融資を実行する姿勢に「地域貢献の理念を疑った」。前出のAさんも「支店の実績のために投資信託・保険の販売を強いられ、やりがいはなかった」と振り返る。

「若年層は、将来の管理職を目指すより、今の業務のやりがいを求めている」(ある地域銀役員)。金融機関では、担当する業務・顧客が短期間で変わることが多い。期間内に成果を生み出す必要があるため、顧客ニーズとミスマッチした商品の提案がジレンマとなりストレスになる。

前出の地域銀役員は「今の仕組みでは、同じ企業を長期間、担当できるコンサルティング会社などへの転職が多いのは当然」と話す。

退職者の本音

男性Aさん(20年度地域銀入行、22年度下期退職)
多様な業種の法人を支援できる銀行業務にひかれて入行。希望し続けたが4年間、預かり資産販売を担当。同期が半数以上退職したので抵抗はなかった

女性Bさん(19年度信金入庫、24年上期退職予定)
入庫5年目で年収450万円に満たない待遇が理由。窓口係の渉外係化など「女性活躍」を掲げているのに、営業店でも女性が雑用を担い、待遇や給与は改善されない

男性Cさん(20年度地域銀入行、23年度下期退職)
企業の経営を根本的に改善するコンサル業務に取り組みたかった。①コンサルを手がける部署で異動無しの配属②年収800万円以上――の条件があれば銀行に残った

男性Dさん(20年度信金入庫、22年上期退職)
元々、融資事務希望で、営業が苦手だった。ただ、顧客と会話し必要な商品を提案して力になれる時は楽しさを感じた。その分、契約件数を意識した商品提案や取引先からの融資を断ることがつらかった

三つの視点で対策を紐解く

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