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誕生日の思い出

「東京に戻ったら、銀座で買ってきなさい」
父はそう言って、数万円渡してきた。

先日の数年ぶりの旅行。浮かれて普段つけないアクセサリーをつけたら、「買ってもらった」ときのことを思い出した。

21歳の誕生日をちょっと過ぎたゴールデンウィーク。実家に帰省して家族で出かけた先にティファニーのお店があった。
流行り好きでブランド好きな父が、誕生日プレゼントにと選んだのが、アップルのシルバーのネックレス。
「あなたはちゃんとケアができないだろうからゴールドがいい」とすかさず母。しかし、あいにくその店にはないという。

そこで冒頭の父の言葉である。

言われた通り東京に戻った私はひとりで銀座のティファニー本店へ。
20歳そこそこで恐ろしい話である。
当時の私もそれを自覚していたのだろう。怪しまれないように店員さんにも事情を説明した記憶がある。そして「お誕生日おめでとうございます」を回収し、無事購入できた。

アクセサリー類に興味がないのに、もったいないな。
東京で一人暮らし。その上私立大学に通わせてもらっている。大学生活後半に入っても、第一志望の国立大学に落ちてしまったことを後ろめたく思っていた。他のことにお金を使ったほうがいいんじゃないか。
それに自分で自分の誕生日プレゼントを買いに行くなんて。

でも言う通りにしてよかった。
理由はふたつ。
ひとつはこのネックレス自体をとても気に入ったこと。りんご丸ごとではなく、断面というところがまたいい。可愛らしくて毎日のようにつけていた。
今でもアクセサリーというとこればかりである。
もうひとつは、この約2年後に父が他界したこと。
もう買ってもらうこともかなわない。









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