「もしもステッカー」|参加型意見収集ツールの新しいかたち (後編)
田口元香
日建設計 企画開発部門 コモンズグループ パブリックアセット部
3.参加型意見収集ツールとしての応用・展開事例
「もしもステッカー」方式の応用として、下記のような他事業への展開も行ってきました。
【あったらいいなこんなてつみち】
▷プロジェクト:調布駅前パブリックスペース“てつみち”
※現在は再整備済
▷主催:トリエ京王調布
▷期間:2023年5月6日(日)~5月28日(日)
日建設計が手掛けた屋外パブリックスペース“てつみち”にて、オープンから5年経過した2023年に利用者がてつみちに「あったらいいな」と思うアイデアから新たな利活用の可能性を探るべく実施した意見収集企画です。
てつみちは商業施設(トリエ京王調布C館)に隣接した、鉄道跡地につくられたパブリックスペースです。子育て世代や学生など、地域住民を中心とした多くの方に利用されています。
再整備前当時の敷地内にはかつて実際に使われていた鉄道のフェンスが残存しており、そこに5つの“てつみちでこんなふうに〇〇したい”というテーマに分けたボード(あそびたい、イベントしたい、くつろぎたい、たべたい、〇〇したい)を分散して設置しました。
ボードは上半分が半透明のポリカ素材で半透明のフキダシ型ステッカーを貼り付けた形式とし、利用者はそこに意見を書きこみます。また下半分は文字がまだうまく書けない小さなお子さん向けに黒板に絵を描けるエリアになっており、てつみちがオープン当初より取り組むチョーク貸出文化を生かしたものになっています。
結果としては「クッション付きハンモックがほしい!」「移動式遊具を設置してほしい!」 といった公園的なパブリックスペースならではの遊具・什器に関する意見が特に多く見られ、また「家族で楽しめるビアガーデン」「マインドフルネスをやりたい!」といった新しい企画のアイデアもあり、てつみちが利用者から親しまれ、利用者自身が場をより過ごしやすくしてほしいという思いを強く持っていることを改めて感じることが出来ました。
この企画後に再整備が行われ、私田口含む日建設計チームが設計を担当し2024年9月14日に新てつみちとしてグランドオープンしました。利用者の方々の意見の一部を実際に取り入れ、利用可能性が更に広がる多様性のある空間へとアップデートしています。
【みつけて・実つけた!すごしかたアイデア】
▷プロジェクト:東京駅前八重洲パークレット社会実験“YAESU st.PARKLET(ヤエスストリートパークレット)”(※日建設計は意見収集ボードの企画・コンセプト設定を担当)
▷社会実験主催:東京駅前地区駐車対策協議会、一般社団法人東京駅前地区まちづくり推進協議会
▷期間:2023年10月3日(火)~10月31日(火)
東京駅前の八重洲通りの一部をパークレットにし、ワークスペースや休憩スペース、キッチンカーやDJイベントなどを実施した社会実験“YAESU st.PARKLET”にて、八重洲通りの利用者ニーズを探るための意見収集企画を実施しました。
企画名は社会実験のキャッチコピー“いこえる。みつける。つながれる。”から“みつける”というキーワードを引用しており、利用者が他の人のアイデアを“見つけて”、自らもアイデアを書くことでアイデアが溜まっていき、やがてそれらが“実をつける”ようにという意図を込めています。
また問いかけのフレーズは『YAESU st. PARKLETに「 」がほしい!』としており、これは今回のパークレットで過ごしてみて良かったところ、また改善してほしいところについて問いかけることで、本質的に八重洲通りの利活用ニーズが得られるのではないかと考えました。
ステッカーのデザインは“実つけた!”のフレーズに合わせて果実の形となっており、パークレット全体のトンマナに合わせたカラーとなっています。(※意見ボードやステッカーのデザイン・仕様は東邦レオ様による制作です。)
結果として分類ごとの回答数の偏りが小さかったことから、八重洲エリアの地域性として幅広い世代・属性のユーザーがいて、それにより多様な視点からの意見を得ることができたのではないかと分析しました。実際の意見としては「立ち飲みできるバーが欲しい」「キッズスペースが欲しい」といった、より充実した飲食提供・くつろげる場を求める声や、「常時BGMが欲しい」「フリーwifi・コンセントの充実」など雰囲気づくりや滞在のためのより充実したインフラサービスを求める声も多くありました。幅広いユーザー層から具体的にどのようなニーズがあるかを捉えることが重要であり、今回の企画で今後の八重洲エリアの空間利活用にどう生かしていくか、アップデートしていく要素を絞りながら考察することが出来ました。
このように、意見ボードの設置場所や意見収集の目的、また利用ターゲットなどによって、ステッカーやボードといった製作物のデザイン・仕様・フレーズの設定を変えていくことも試みとして続けております。
4.“もしもステッカー方式”のこれから
“もしもステッカー方式”の大きな課題の一つとして挙げられるのが、「意見集計後の分析結果をどのように次の取り組みにつなげるか?」という点です。
不特定多数の人から集めた意見を可視化して町にひらく、という点では効果が見込める方式ではありますが、意見を集めた後の分析・活用方法はまだまだ検討の余地が残ります。
今までは人の手で集計し主観的な考察をしていましたが、今後はAIやマーケティング等の領域で、また違った視点から効率的で的確な分析ができないかと検討しています。
またハードのデザインに関しても、プロジェクトごとにその個性に合わせて変化させていくため、より多くの事例へと展開していくことで“もしもステッカー方式”の活用の可能性を探り続けていきたいと思います。
共創パートナー募集中
“もしもステッカー方式”を使ったフィードバック企画を自分のプロジェクトでもやってみたい、活用方法のアイデアを一緒に考えたい、と思った方、ぜひお気軽にご連絡いただければ幸いです。弊社の東京オフィス3階コレクティブフロアPYNTでは「もしもステッカー」の実物を展示しておりますので、機会がありましたらぜひ足をお運びいただけるととても嬉しいです!
PYNT GARAGE|NIKKEN SEKKEI LTD
▲PYNT展示紹介HPリンク
最後までお読みいただきありがとうございました。
田口元香
日建設計 企画開発部門 コモンズグループ パブリックアセット部
2022年に日建設計入社、2024年現在コモンズグループ所属。地元秋田のまちづくり活動に参画してきた経験から、地域のポテンシャルを引き出し、利用者の心理や行動原理に着目した空間デザインの検討に取り組む。業務では主にパブリックスペースの設計や空間利活用社会実験の企画運営に携わる。
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