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夏の屋外を涼しく過ごすためのアイデア~ゼロエナジークールスポット「COOL TREE」~

豊村 幸毅、大西 宗太郎
日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ

新型コロナウィルスの流行は長期化し、真夏の酷暑環境下でもその生活は続いています。換気のために扉を開け放ったまま営業することを余儀なくされる飲食店等も見られ、室内の温熱環境の悪化と空調エネルギーの増加も懸念されます。
こうした生活を体験してみると、さわやかな自然の風が吹き、密の心配の少ない屋外に、気持ち良く快適に過ごせる空間を創ることの意義を改めて感じます。そこで、日本の暑い夏に、屋外で快適に過ごすためのアイデアとして私たちが取り組んでいるゼロエナジークールスポット「COOL TREE」の取り組みについて紹介したいと思います。

そもそも「COOL TREE」って何?

COOL TREE(クールツリー)は、パブリック空間に設置する休憩所(クールスポット)として開発したプロダクトです。2020年夏に開催される予定だった東京オリンピック・パラリンピックでは、当初から屋外の暑さ対策が大きな課題となることが予想されていました。そこで、私たちはCOOL TREEを提供し、来訪者の方々に利用してもらいたいと考え、プロジェクトを開始しました。これはCOOL TREEを通して、木材利用の促進とパブリック空間のコミュニティプラットフォームづくりをめざした社会貢献活動でもあります。建築設計で培った技術やアイデアをプロダクトという形で、国内外の多くの人々に体験していただきたいとの思いで活動を行っています。

COOL TREEのデザインコンセプト

デザインコンセプトは、「日本らしいデザイン」「究極のエコロジー」「完全自立システム」の3つです。積層させた木材が美しい木陰を織りなし、太陽光をエネルギー源に、クールデバイスをゼロエナジーで稼働させ、リユース・リサイクルが可能な素材・形状によりライフサイクルにおいてエコロジーなシステムを考えました。デザインの実現には、アーキテクト、設備・構造エンジニアに加えて、銘建工業㈱、㈱村田製作所、㈱光栄が参画し、それぞれの分野(木材、ゼロエナジー制御、クールデバイス)の英知を結集させて開発しています。

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図1 COOL TREEの構成

COOL TREEのクールな技術

COOL TREEでは屋外のパブリックスペースにクールな空間をつくり出すため、様々な工夫をして計画しています。

◇クールデバイス
ウエルカムミスト
:気化熱によって空気を冷やすとともに、視覚的な涼感を演出します。
クールベンチ:ペルチェ効果※1 を利用した「クールベンチ」に座ることで身体をクールダウンさせます。
シェード:開放感のあるヒノキ材の格子日除けが、木陰のように直射日光を遮ります。
※1:ペルチェ効果:異なる金属を接合し電圧をかけ、電流を流すと、接合点で熱の吸収・放出が起こる効果

04_クールデバイス

写真1 ウエルカムミスト(左)とクールベンチ(右)

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図2 シェード/日なたの地表面温度が60℃超、外気温37℃の条件下で、クールツリー幹部の表面温度は32℃。

◇ゼロエナジー
涼感を生み出すデバイスの動力は全て太陽光発電によるものです。太陽光パネルからの電力は、蓄電池に蓄えられ、デバイスの稼働に使われます。効率的な省電力の工夫によって都市エネルギーインフラから完全に自立したゼロエナジー・システムを実現しました。

◇エコロジー
COOL TREEは3R(リデュース・リユース・リサイクル)を徹底的に採用し、エコロジカルなシステムを実現します。
リデュース:間伐材活用によって、建築材料生産エネルギーを削減
リユース:各部材をボルトで接合し、繰り返し組立・解体が可能
リサイクル:木材をバイオマス発電の材料に循環利用

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図3 COOL TREEのエコロジーサイクル

COOL TREEはみんなでつくる

COOL TREEの開発は、コンセプトデザインを具現化する実施設計と並行して、実物大モデルを作成し、その取り組みを社会にアピールするとともに、一般市民や専門家から広く意見を取り入れながら改良を繰り返すリビングラボ※2 の手法を取り入れて進めてきました。その結果、現在まで多くの方に関心を持っていただき、ご意見をいただけたことで、COOL TREEをより良いものにしてくることができたと感じています。
※2:「新しい技術やサービスの開発にて、ユーザーや市民も参加する共創活動。またはその活動拠点」

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写真2 中学校における課外授業の様子

中学校における課外授業として柏の葉キャンパスの COOL TREE を見学していただき、モノづくりの楽しさと、環境教育の一環としても活用されました。

COOL TREEに会いに行こう!

この夏も COOL TREE は国内2カ所(東京・名古屋)に設置され、稼働中です。興味のある方はぜひ現地にお越しいただき、実際にCOOL TREEを体験していだければ幸いです。皆様のご意見を参考に、これからもたくさんのCOOL TREE を植えて「クールな体験」を届けられるように、今後も活動を続けていく予定です。

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写真3 愛知県名古屋市 名古屋港ワイルドフラワーガーデンブルーボネット
設置予定期間 2019年7月~2021年夏(予定)
2020年は9月末頃までクールデバイス稼働(予定)

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写真4 東京都千代田区 アイガーデンエア
設置予定期間2020年3月~2020年9月末頃(予定)


豊村

豊村 幸毅
日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ
京都市新庁舎等の環境配慮型建築の空調・衛生設備設計を担当。また、関電ビルディングにおける環境共生技術の維持・改善の継続的取り組み(空気調和・衛生工学会特別賞「10年賞」受賞)等の建物の性能検証業務も担当。設備設計一級建築士。

大西

大西 宗太郎
日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ
保育園から障碍者支援施設、オフィス、空港、ホテル、データセンターなどの電気設備設計に従事。「ゼロエナジークールスポット COOL TREEの開発」にて電気設備学会賞技術部門優秀開発賞受賞。



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