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子どもにとって安全かつ健康な屋外空間づくりに関する基礎研究

范 理揚
日建設計総合研究所 環境部門 研究員

日建設計総合研究所(NSRI)では、社会課題解決のために自主的・戦略的に研究を行うことが出来る仕組み『自主研究』に取り組んでいます。
その自主研究の中からピックアップしてご紹介する第2弾です。興味がある、協働したい、という方からのご連絡をお待ちしております。

子どもは大人より屋外で熱中症にかかるリスクが高い

公園などの屋外空間は、子どもたちが楽しく遊び、高齢者が安心して休める場所と考えがちです。しかし、近年の地球温暖化の進行によって猛暑日が増加傾向にあり、都市公園であっても炎天下では身体に危険な場所となりかねません。そんな屋外温熱環境を緩和するため、日射遮蔽、保水性舗装、ミストなど、様々な対策が検討されていますが、主に大人の活動空間を対象としており、子どもへの効果は、ほとんど検証されていません。子どもの活動空間は、大人と比較して地表面により近いため、地表面からの熱放射の影響を強く受けます。よって、熱中症などにかかるリスクが一層高まります。
本研究は東京工芸大学と共同で実施し、屋外温熱環境実測を通じて、子どもたちが活動する空間の温熱環境を把握するとともに、その温熱環境を形成する要素から、屋外での温熱快適性の改善に最も寄与する要素を探りました。

子どもと大人の活動空間の温熱環境の比較

保育施設において、子どもと大人の活動空間(子ども:地上1.0mまで、大人:地上2.0mまで)を対象に、温熱環境4要素である気温、湿度、風速、放射の測定を行いました。

図1 測定器具配置図
図2 計測項目と機器

温熱環境に影響を及ぼす放射は、複数の要素から構成されます。そこで、4成分放射収支計を用いて、上向き及び下向きの短波長放射量と長波長放射量の測定を行いました。測定結果より、上向き長波長放射量の平均値は、他の種類の放射量より多い結果となりました(実測当日は曇っており、9:00~15:00における下向き短波長放射量の平均値は、上向き長波長放射量より少なかった)。この結果より、地表面からの上向き長波長放射量の適切な抑制は、人体の熱的快適性への改善に繋がると考えられます。

図3 温熱環境に与える影響要素のイメージ
図4 上向き及び下向きの短波と長波長放射量

さらに、気温、湿度、MRT(平均放射温度:Mean Radiant Temperature)と風速を用いて、SET*(標準新有効温度:Standard new Effective Temperature、空間の快適性を評価できる指標)を算出しました。その結果、子どもの活動空間のSET*は、平均値は41.6℃、最大値は46.2℃となりました。子どもは地面に近いため、同時間における大人の活動空間のSET*より最大4℃高く、非常に暑い状況となっています。まちなかでよく使われる温熱環境対策は、子どもの活動空間を考慮した対応が必要と考えられます。

図5 SET*の結果

地表面被覆が子どもの活動空間の屋外温熱環境に与える影響

次に、地表面からの長波長放射量を抑制できる緑地と日射遮蔽に着目し、これらの導入効果を実測して定量的な評価を行いました。

図6 実測対象

細砂で覆われた保育園の園庭と、大学キャンパスの緑地で実測を行なったところ、4成分放射収支計で測定した結果、緑地の上向き長波長放射量は、細砂より低くなりました。緑地は水分を含んでおり、水分が蒸発する際に地表面の熱を奪うので、表面温度の上昇を抑えることが出来ます。

図7 上向き及び下向きの短波長と長波長放射量

子どもの活動空間でのSET*を、日向と日陰で比較しました。細砂の場合は10℃、緑地の場合は6℃と、日陰の方が日向より低くなっています。日射遮蔽は、緑地など土地被覆材料を問わず、SET*の抑制に効果的であると考えられます。

図8 SET*の結果

子どもの活動空間を配慮した安全と健康を守る屋外空間づくり

屋外温熱環境実測の結果、以下のことが明らかになりました。

  • 地表面からの長波長放射量が、大人より地表面により近い、子どもの活動空間の温熱快適性に大きな影響を及ぼす。

  • 日射遮蔽は、下向き短波長放射量と上向き長波長放射量、MRT、SET*の抑制に効果的である。

  • 子どもの発汗機能は未発達であるため、日射を遮り表面温度が上がりにくい材料を用いるなど、“顕熱緩和型”の対策が効果的である。

図9 公共空間整備のガイドラインイメージ

子どもにとって屋外で遊ぶことは大変重要です。今回の実測から得られた知見を踏まえて、公共空間整備のガイドラインを提案するとともに、将来的に子どもの屋外活動を促進するため、まちなかの環境観測や熱中症見守りシステムなど、屋外活動運用に関するソリューションも提案して行きたいと考えています。
保育園・幼稚園の散歩動線や、子どもがよく遊んでいる公園にワイヤレスのWBGT(暑さ指数:Wet Bulb Globe Temperature)測定機器を設置し、各場所の環境観測によりリアルタイムのWBGTを可視化し、危険度を提示することによって、夢中で遊ぶ子どもたちを熱中症から守ります。

図10 まちなかの環境観測と熱中症見守りシステムの提案イメージ


范 理揚
日建設計総合研究所 環境部門 
研究員 博士(工学)
2014年日建設計総合研究所に入社。エネルギーの面的利用、環境計画が専門で、近年はスマートシティ計画、地域の再エネ導入に関する調査、大学キャンパスのカーボンニュートラル計画策定などにかかわっている 。



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