Vol.56 人的資本開示がもたらす企業価値への好循環
2022年6月
金融ソリューションコラムVol.56をお届けいたします。
日経リサーチは毎年コーポレートブランドに関する評価サービス「ブランド戦略サーベイ」を実施しています。昨年、あたらしい試みとして対象企業の売上高、営業利益、海外売上高、広告宣伝費と時価総額のデータも追加しました。今回はその財務データとブランドデータとの関係性についてご紹介します。
「市場で問われる人的資本の開示姿勢」
今年4月より東京証券取引所が再編され、プライム市場がスタートしました。プライム市場に上場し続けるためにこれまで以上に企業価値の向上が求められます。その中でもホットな話題が「人的資本の開示」です。積極的な開示を見せる企業がある中で、まだ様子見をしているところも少なくありません。時価総額との関係性を見ていくと、「人的資本」のアピールが重要なことがわかります。
下記は時価総額とブランドデータの関係性を示した表です。計算には相関係数を使用しました。
相関係数が強いと言われる0.5以上なのが「優秀な人材が多い」と「国際的である」の2項目でした。ESGが投資のテーマとなっている昨今、上記データはあくまでもコンシューマーのイメージではありますが「S」の部分である「人材」を意識した投資行動ともとれます。
それでは「優秀な人材が多い」と評価されているのはどのような企業でしょうか。下記は「優秀な人材が多い」評価上位15社です。(2021年・ブランド戦略サーベイより)
トヨタ自動車、ソニーグループとともに総合商社が上位を占めています。
続いて「優秀な人材が多い」のイメージが高い上位企業群は、他に比べてどのような違いがでているのかをご紹介します。
下の表は優秀な人材が多い上位18社の平均とブランド戦略サーベイ測定全社(600社)について、当社がブランドロイヤリティの総合指標と位置付けている評価項目ごとに比較したものです。特に上位18社で際立つのが「独自性」。全体平均の25.3%に対して13ポイント上回る38.3%に達しています。独自性は製品・サービスをはじめ様々な要素で評価をされ、それを支えるのも「人材」であることを反映しています。
最後に、「優秀な人材が多い」というイメージと連動しているブランドイメージ項目を見ると、「国際的である」「一流」との相関が高いことがわかります。やや相関は弱くなるものの、「優れた技術・ノウハウ」という製品・サービスの差別化の源泉であったり、「将来性」にも関係していることがわかります。
人材の強さをアピールすることで、企業の力を市場に訴求できます。人的資本の開示を保守的にとらえるのではなく、積極的に行うことで、市場で評価され、さらに、優秀な人材の獲得にも寄与できるのではないかと考えます。
■今週の執筆者■
小池 拓郎(アカウント第1部)
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