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いつか、親になった私に伝えたいこと

「親の愛が十分でなかったんですね」

友達のことをそう言われた私は、無性に腹が立った。

なんて暴力的な言葉だろう。

たとえその子を心配して、哀れみの気持ちで放った言葉だとしても、第三者が軽々しく言ってはいけない言葉だと思った。

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私には双極性障害の幼馴染がいる。

その症状が出始めたのは高校生の時で、段々と変わっていく彼をそばで見るのはすごく辛かった。

何気ない一言から突然の自己嫌悪に陥ったり、激怒したり。かと思えば、急にテンションが上がってまるで幼児のようにはしゃいだり。

ただ、急激に変化する彼について行くのは大変でも、私は彼から離れることができなかった。

まるで兄弟のように育った彼が私は大好きだったし、たとえそれでも一緒にいたいと思っていたから。

いつかは治ると、そう信じて。

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実際、彼の症状は少しずつ回復へと向かっていた。

極端に動く感情の波は徐々になだらかになり、薬の量も減っていると彼自身も言っていたから。

ただ、それでも完全に治ったとは言えなくて、社会生活に戻ってはまた抜け出したりを繰り返していた。

年齢的なこともあって、彼自身も今のままではいけないと不安を感じていただろうし、彼を心配する大人も何人か周りにいた。

その中の一人が、こう言ったんだ。

「親の愛が十分でなかったんですね」

彼の親のことは、私も知っている。

両親ともエリートで才能に優れていて、それゆえ天然で変わってる所もあるとは思うけど、愛が欠けているなんて思ったことは一度もない。

彼が見せてくれた誕生日の動画では、ロウソクの灯ったケーキと、楽しそうにハッピーバースデーを歌うお母さんの姿が映っていたから。

進路が決まった時は、お父さんやお兄ちゃんがアドバイスをしてくれたんだと、彼は嬉しそうに話してくれたから。

親の愛が足りないなんて、そんなわけない。

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ある時、私の母が言っていた。

「うちにはさ、私たち両親がいて、母方と父方で二人ずつ祖父母もいるでしょ?あなた達の周りには6人の大人がいて。それでもね、子育てはものすごく大変だって感じたの。私たちだけではできない。だから、あなた達には学校とか、学童クラブとか、教会とか、習い事とか、その他色々な所で関わる大人たちがいて。子育てを丸投げするわけじゃないけど、でもそういう人たちの力もあってあなた達は育ったんだよね」

子どもは、家族だけじゃなく色んな大人と関わって成長していく。

それなら、親の愛情だけじゃどうにもならない事だってあるのかもしれない。

家族以外のコミュニティから影響を受けることだってあるし、その障害が先天的なものであれば尚更だ。

子どもを育てる大人は、親だけじゃない。

大人になって、親と対等な目線で話せるようになった今だからこそわかる気がする。

独りよがりになることないんだ。





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