見出し画像

「精神科の強制入院の課題」とは、精神科医が任意入院に努め、その腕をみがくこと

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
「第二十条 精神科病院の管理者は、精神障害者を入院させる場合においては、本人の同意に基づいて入院が行われるように努めなければならない」

精神科の強制入院の課題(下)毎日新聞2023年7月12日付で、平田豊明・千葉県精神科医療センター名誉院長は、強制入院の一つ「医療保護入院」の患者数を減らすにはとして、四つの条件を上げている。

  1. 入院患者の対象の患者を絞り込む

  2. あらかじめ入院期間を決める・・・

  3. 入院中に良質な医療を提供する体制に変える・・・

  4. 外部審査機関の強化

精神科の強制入院の課題(下)平田豊明医師(毎日新聞2023年7月12日付)

おっしゃる通りだが、彼の述べるところと私との違いは、彼は私がこれまでブログ等で語ってきた「精神科疾病構造の変化」図①にふれていないことである。

【図①】西脇病院の初診患者疾病、この60年間の比較

それなくして、1.と2.は語れない。精神科疾病構造の変化を踏まえ、現場の精神科医療をしっかり行っていれば現行法による強制入院の対象患者は大幅に減少、そして精神科救急病棟における入院期間はもっと短縮されているはず・・・。また、3.においても、概ね全国全ての精神科救急病棟は、精神科救急病棟の要件(3ヶ月以内・医療保護入院6割)を満たすため図②に示すように様々な精神科疾患を同一病棟内で入院処遇している。

【図②】ある救急病棟の疾患別割合 最近14カ月間の入院患者

これだと混在病棟だ。多少なりとも精神科医療に関心をお持ちの方なら、そんな病棟で良質な医療提供は期待できない、とお分かりのはずだ。とくに、精神科救急病棟は、これまで精神科医療に対する意識が高いとされる医療機関が取得しており、早くから児童思春期への取り組み、また、最近では依存症拠点病院にも手挙げしているところが多い。これでは良質な医療提供どころか、専門性においても疑義が生じる。

関連ブログ(note)

一目瞭然(2023年1月6日)
小さな記事だが「氷山の一角」(2023年2月7日)
私見としてのあるべき精神科救急について(2022年2月25日)
精神科医療における、「適応性」、「説明責任性」、そして「受容性」(2022年1月19日)

では、4.「外部審査機関の強化」だが、これに関しては、制度疲労の極みと言っていいだろう。そこで、2019年1月(幻冬舎)発行の小著『依存するということ』の一部を紹介。内容は精神科医療における依存症などの「否認」に対する取り扱いに関する件である。

いくつかの自治体の精神医療審査会では、「否認」を非自発的入院の要件を満たす精神症状としてみなしているようにみえる。
しかし、精神医療審査会が認めているからといって、否認の病(プライドの病)の持ち主である依存症者を同意なしで入院させることなど、私には空恐ろしくてとてもできない。彼らの多くは良くも悪くも高機能精神疾患なのである。
「悪くも」を想定してみよう。そんな理不尽な処遇を強いられたことに対するクレームや訴訟ならまだいい。場合によっては恐喝、あるいは徒党を組んでの暴動も起こしかねない。
しかし、精神保健指定医が診察し、精神保健審査会が判定するそういった非自発的入院、特に医療保護入院は毎年増加の一途である。となると、彼らを受け入れる精神科病院に勤務する精神科医は拳銃所持とまではいかなくとも、自らと職員を守るために何かの防衛策を講じなくてはなるまい。
精神保健指定医取得に関して不正があったとして取得要件が厳しくなったと聞くが、では取得しさえすればやりたい放題なのだろうか。なぜだろう?本来、医師と患者の関係は、医師からの十分な説明を患者が受けたうえで、患者がその治療に同意をする。「インフォームド・コンセント」が鉄則である。そして精神科医の場合、その治療の王道は、外来、入院を問わず、任意契約であったはずだ。私は昨年秋、5年に1度の受講が義務化されている精神保健指定医資格更新のための研修会に出席した。そこではさまざまな事例が挙げられ、その質疑応答では、「いかにしたら非自発的入院(主に医療保護入院)にすることができるか」ということに多くの時間が費やされていた。なんとも本末転倒、摩詞不思議な世界に身を置いていたと表現するほかない。いつからこんなにも非人道的になったのかと、憤りを覚える。

『依存するということ』西脇健三郎著(2019年1月 幻冬舎発行)
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づく入院形態について

締めとして、強制入院は「医療保護入院」だけではない。「措置入院」にも課題があることを伝えておきたい。

最近、当院で受け入れた「措置入院」について
▲「拉致されたかと・・・」:離島に暮らす30歳代男性、会社員。不眠で地元総合病院精神科通院。夕刻、島の波止場で海を眺めていたところ、保護され緊急措置鑑定にて措置症状ありと、当院移送。当院受入れ、まず72時間後の2名の精神保健指定医による措置鑑定まで入院処遇。経過観察するも穏やか、睡眠良好、食事摂取にも問題ないし、疎通、これも問題ない。ただ、離島より夜間の移送、「拉致された」かと・・・怯えた、と。当院処遇後の精神保健指定医(2名)の正式措置鑑定で、あっさり措置入院該当。この措置鑑定を行った1名はこれまで患者の人権擁護に熱心、「精神病院はいらない」派だったはずだが・・・。その後、患者は何ら精神症状みられず、むしろ短い入院期間ながら処方薬は減量ができた。10日前後の経過をみて措置入院解除、任意入院に切り替え、折角だからと数日長崎市内散策していただき、退院、帰島へ。
▲「飲み過ぎたのね・・・」:50代女性 主婦。不眠、不安、心気的な症状を訴え、市井のメンタルヘルスクリニック通院。多剤処方を要求、結果大量服薬。措置症状ありと、当院入院。入院後、措置症状は認めず、薬剤調整(かなりの減薬)と、これまでの生きづらさを吐露することができる当院で行っている「女性の集い」(週1回)へ導入。同時に措置入院は速やかに解除、任意入院に移行、そして退院。現在、入院前のメンタルヘルスクリニックで治療継続。時に当院「女性の集い」にも参加、先行く語り部としてその語りは、自らの回復に寄与すると同時に、参加メンバーの良薬にもなっているようだ。
▲「不法拘禁かな?」:40代男性 ニート。近隣住民とトラブルとなり、相手の手先を傷つけている(軽症・傷害事件かな?)。異様な風貌からか措置鑑定、鑑定結果は措置入院。診断・統合失調症。当院にて受け入れるも入院当初より、穏やか、食事摂取も問題なし、睡眠は取れるとのことで処方薬なしで2週間経過観察。その間、入浴、整髪等を行うも協力的、また当初は寡黙であったが、次第に会話も増え、現実検討能力にも問題ないと判断。よって、薬物療法も行うことなく2週間で措置入院解除、任意入院とした。そしてその後、本人の同意を得て市井での生活支援を行うことになった。

余談、「任意」について

◎マスク着用の任意:以下ブログ(note)で・・・
任意」について(2023年3月8日)
「思いやり」、それとも「保身」?(2023年3月14日)
◎コロナワクチン接種の任意:2回目まではほぼ全国民・・・この秋も無料だとか
◎マイナンバーカードの任意:来年秋までに保険証紐づけ!それとも資格認定書?
◎X子さんの任意事情聴取:早々に聴取側から打ち切りと・・・(週刊文春より)
◎精神科医の任意:表①を踏まえ、任意入院に努め、その腕をみがくこと

結論:なぜ、我が国民は「任意」に関心を持ち、大切だと思わないのだろうか??

今、日本がおかしい!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?