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「任意」について

日本国では私権の侵害は行ってはいけないらしい。そこで、日本のCOVID19感染(伝染)病対策はジョン・スチュアート・ミル『自由論』(1850年)によるところの「他者危害原則」が肝のようである。つまり、当事者の健康もだが、他人に伝染させないようにと、感染者は一定期間指定の医療機関、施設で隔離(公費負担)。そして感染者が多数判明 (PCR検査にて)すると、軽症、無症状者に至っては自宅静養(自粛)を求められることになった。加えて、それは私たちの生活のあり方にも様々な制限(自粛)を求めてきた(何らかの補償も伴った時期、対象者もいたが・・・)。マスク着用然り・・・。そのマスク着用は当初から「任意」だったはずだ(当初の・・・マスク配布以後補償なし〈微笑〉)。しかし、この3年間、日本社会は見事に一億総マスク着用時代となった。昨年(2022年)秋あたり、オミクロン株が主流となったころから恐る恐るだが移動制限、生活様式の緩和が行われるようになってきた。マスク着用に関しても屋外なら外しても可といった緩和の広報がなされても相変わらず、一億総マスク着用で今日に至っている。そして2023年3月13日からマスク着用は「個人の判断」だそうだ。

そこで「任意」arbitraryだが、「当人の自由意思に任せる」ってこと。「お気に召すまま」とか、関西弁なら「好きにしなはれ」、長崎弁では「よかごとせんね」だ。繰り返しになるがマスク着用は当初から「任意」であったはずだが、いつの間にか一億総マスク着用社会が当たり前になっている。そして、今度は「個人の判断」に任せるそうだが、それは「任意」と同じ意味だと思うのだが・・・如何なものだろうか?

では私が生業とする精神科領域の「任意」についてもふれておこう。これまでもブログ上で何度も何度もふれてきた「任意」入院だ。1988年の法改正で精神保健法第20条で「・・・精神障害者を入院さえる場合においては、本人の同意に基づいて入院が行われるように努めなければならない。」と明文化されている。それは当事者の権利擁護の上でとても大事なことらしい。でもこの20年という時代の中でその任意入院は減少の一途をたどっている。それは「一目瞭然」と題したブログでの報告の通りだ。ご再読いただきたい。それに反して増加しているのは医療保護入院(強制入院)。だが近年、その医療保護入院をどこかの国のゼロ・コロナ政策の如く「無くせ」と唱えている方々がおられる。それもいいだろう。しかし、その医療保護入院の増加をもたらしたのは、精神保健指定医の作文と書類人権主義者の精神医療審査会によるのは明白だ。それも、高額の入院費が支払われる精神科救急制度を維持するため・・・患者の人権とやらは何処かに吹っ飛んでいる。措置入院制度もその点からすると五十歩百歩。ただ「お気に召すままで」を、つまり「説得より納得」で入院の同意を取りつけたり、治療関係を築くことが如何に大変で、大切、かつ根気のいる精神科領域の生業であるかを「医療保護入院・・・ゼロ」もいいが、是非ご理解いただきたい。昨今の精神医療臨床の重要な課題は「否認」への取り組みになっている、と言っていいだろう。そんな「否認」の問題への対処について「24時間・365日救急対応」は、依存と退行を助長させるだけだし、時に訴訟の対象にもなりかねない。ほぼほぼ無力である。その無力なことに早く気付く必要がある。精神科医療従事者はもう少し大人になってほしい・・・。

何れにしても「任意」ってのは、皆が「お気に召すまま」の行動をとれば、個々人が全て安心できるわけではない。多くの人が不安なんだろう。だが、国民に義務化されたかのようなマスク着用が2022年の超過死亡の激増、とくに8月の増加は、マスク着用等に伴う高齢者のフレイル(衰弱)と結びつけたくなる。「国民の生命を守る」といった国、自治体の呼びかけが何か空しく聞こえる。
また、精神科領域でもまさしく「氷山の一角」なんだね。本来任意入院にすべきだったのを医療保護入院としたことで、不当入院と当事者側からの訴訟案件を幾つか見聞するようになった。当然といえば当然のことだ。
どうも「任意」とやらは日本では、馴染まないのかもしれない。

最後に余談になるが、長崎県行政当局による摩訶不思議な精神保健福祉法に基づく行政指導について紹介しておきたい。2019(令和元)年度精神科病院実地指導結果が県の福祉保健部長名で送られてきた。その文書指摘事項として、『一部の任意入院時の診察録について「入院(任意入院)に際してのお知らせ」により告知しているが、誰に説明、誰が受領してか確認できない事例が見受けられた。・・・』と。任意入院は、本人のみとの契約に基づく入院だ。本人以外に誰がいる。この疑問ついて県当局への問いかけてみた。県当局の返答は「説明不足だった」と・・・。だったらこちらから回答しておいた。「個人情報は守らんといかんけんね」とね。
そうそう10数年前、当時の県当局が反社団体から受けた当院を誹謗中傷する1本のメールのみで、直ちに所轄保健所経由で医療法25条第1項の規定により当院への立ち入り調査が行われた。もちろん、それは事実無根だった。直ちに行政へ説明を求めたところ回答は「独自の判断」と・・・。そこで県当局へメールの情報開示請求を行った。そこでは送信者の個人情報保護の立場か開示を拒まれた。なるほどこんなもんなんだね・・・。

まぁ~「国民は国家を信じているが国家は国民を信じていない」とでも言っておこう。

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