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念願のアルバイト

遠い昔のことです。学校生活もあと少しで卒業。就職も決まって母とはよく三宮に出かけました。同級生はアルバイトで忙しく、私は暇な毎日。何かしたい!働いてみたい!と思っていました。

大正生まれの親、父はアルバイトを許してくれず当時三宮のセンター街に出来たパン屋さんは制服も可愛くて今はなんでもない風景になったトレイで好き好きに選んだパンをレジまで持って行くシステムでした。

大変な人気で長蛇の列。味はもちろんですがその若いスタッフ見たさの人もいたとか。就職が決まって東京に行くまでの期間中のことです。これから同僚となる予定の顔見知りが2人レジの前で忙しそうにしていました。入社試験で同郷ということで話すようになった人たちです。

私の顔を見るなり「一緒に短期間だけおいでよ!」と誘ってくれましたが、すぐに父の顔が浮かんでしぶしぶパンの袋を持って帰ったことがありました。

なので就職するまで他の仕事をしたことが無く、ある意味世間知らずの箱入りでした。

そんなことをすっかり忘れていたのですが、還暦を過ぎて「さあ今からやってみたいことをしてみよう!」とすぐに思いつき、家の近くの町のパン屋さんにアルバイトに行くことにしました。もちろん誰も反対するどころか美味しいパンが食べれる!と。

小さなお店でしたがパンの種類は50ほど。ひとりで対応しないといけません。価格を覚えられるだろうか?と不安で学生時代に使っていた暗記カードを買ってきて表にはイラスト、裏には価格。と毎日格闘しました。久しぶりに猛勉強!

レジに持ってこられたパンの値段が分からないとすっ飛んでその棚に確認に行く。食パンはあの電気のこぎりみたいな機械で切らないといけないし、耳を切る切らない、5枚6枚と常連さんの好みも覚えて、厨房ではクッキーの袋詰め。パンの耳でパン粉を作るといった、すべての工程を任されていました。目の回るとはこういうことだと知りました。

今までに感じなかったちょっとした緊張は新鮮なカンフル剤でした。
2年ほどしてそのお店は店長の体調が良くないということで閉めることになりました。

還暦になっても当然働けるものとは思っていましたが、毎日が楽しくて
今までになかった経験もすることが出来ました。

顔見知りになると数分立ち話するお客さんもでき、やっぱり私は働くことが好きなのだと再確認しました。

いろんな仕事は私に色を変えて知識や経験をもたらしてくれました。
初めから「できない。」ではなく「まずはやってみよう!」という気持ちが知らない世界に連れて行ってくれたように思います。

夕方は庭のアジサイもちょっと頭を下げて暑そうです。
日が暮れかけたらたっぷりのお水を撒いて涼しげな風を楽しむことにします。冷えたビールが冷蔵庫で待っていると思うとなんだか幸せです。

明日もいい日にしましょう!




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