雪かき仕事(地味で目立たないけれど大切な仕事)
先日、雪が降りました。雪と言えば、雪かきです。
みなさんは雪かきをしましたか?
私は「雪かき仕事」と聞くと、必ず思い出す本があります。雪が降るたびに思い出しますし、雪が降らなくても、ときどき思い出します。今日はその内容についてお話しします。
その本は、『下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち』内田樹(2009,講談社文庫)です。
「本書の主題は「学びからの逃走・労働からの逃走」
である。」(p.9)と冒頭で述べているように、第一章、第二章では「学びからの逃走」について考察し、第三章では「労働からの逃走」についてニート論を展開します。
本書が世に出されてから15年以上が経ちましたが、今改めて読んでみてもおもしろいと感じます。私の中に特に強い印象を残した「雪かき仕事」に関する記述は、「労働からの逃走」の部分の「青い鳥症候群」(p.151)という節で出てきます。
この節では、入社してわずかな期間で辞めてしまう人が多いことが取り上げられています。当時は、長く勤めることがまだ当たり前だったので、3年以内に辞めてしまう若者のニュースなどをよく聞いたなぁと懐かしく思い出しました。転職を肯定的に捉え「自分探しの旅」をすることは自然な流れだという言説が生まれたことの影響も書かれています。
「雪かき仕事」はその次に出てきました。
確かに世の中には、そういう仕事があります。どのくらいの仕事がこれに当たるのだろうと思いました。
私はこの一節を読んではっとさせられました。教員という仕事はクリエイティブでやりがいのある仕事ですが、「雪かき仕事」もたくさんやらなくてはいけません。この「雪かき仕事」が大変なんですよね。公立の教員や公務員の仕事には「雪かき仕事」がかなり含まれます。
最近は、教員だけでなく公務員の人気も下がっていると聞きます。そこには、そういった地味で目立たない、多様な人たちの受け皿となるための仕事が増えている現実が影響しているのかもしれません。公共の仕事は、中立性や国の示す方向性に縛られており、相手を選べません。自己実現に向けた自由さが明らかに足りないのです。
本書で内田樹さんはこう述べています。
こう述べた上で、「青い鳥」を探しに行く人たちは、「雪かき仕事」をする人に対して敬意を払うべきではないかと提起しています。
教員という仕事の中にも、クリエイティブでやりがいのある部分と地味で目立たないけれど大切な部分があります。前者を優先し、後者を軽視することは学校を維持する上での障壁になります。
若い頃はそれに気付かず、自分のクラスのことしか考えていませんでした。そのせいで随分、周りに嫌な思いをさせたり、迷惑をかけてしまったなぁと思います。
持久走週間にみんなが来る前に引いてあった校庭のライン。さりげなく印刷してくれていた配布物。時間外に取ってくれた電話。印刷機の故障の対応。…教員になりたての頃には気付かなかった周囲の人々の気配りに、今は気付くことができます。
目立つこと・自分がやりたいことばかりを優先させ、地味で目立たない裏方の仕事は「私の仕事ではない」と他人に押し付ける人がいます。自分のクラスや自分のテリトリーだけを充実させ、後の人や周りの人のことを考えない働き方は自己充実にはなりますが、社会人として十分とは言えません。
最近は働き方改革が叫ばれていて、「時間が来たら帰る」と決めている人がいます。これだけ仕事量が肥大化していては、「ここまでにする」と決めて終わらせないときりがありません。私もそうやって決まった時間に帰ります。
でも、早く帰れない人、早く帰らない人を「仕事ができない人」と決めつけ馬鹿にするのは、してはならないことだと感じます。自分が「ここまで」と割り切った「その先」の仕事をしてくれている人が必ずいるはずなのです。
「教員になんかならない方がいい」「こんなにブラックな教員という仕事に就くのは、馬鹿げている」というような言説も最近多く見受けますが、その人たちも公教育の崩壊を望んでいるわけではないはずです。
公立を辞めて、より良い仕事を探すのも素敵です。そういう生き方もいいなと思うこともあります。あまりに息苦しく、理不尽な状況に置かれたときにはそう思いますし、それは悪いことではありません。でも、その状況で踏ん張っている人もいることを忘れないでほしいと思います。
公立の学校にはたくさんの問題点があるし、それを変えていかなくてはいけないと思っています。たくさんの矛盾を感じながら働いています。我慢して病気になってしまう教員仲間を見て、他人事ではないなと感じます。それでも、この仕事を続けているのには、「雪かき仕事」の大切さを心の深いところで感じているからなのかも知れません。
自分の通勤経路を雪かきしてくれる見知らぬ人たち。そういう人たちの善意が世の中を支えているんだと思うと勇気づけられます。
目立たないけど大切な仕事の存在に気づき、自分にできることで少しでも社会貢献する。また、そういった目立たない大切な仕事をしている人に感謝し、リスペクトする。
雪の季節になると、いつも心にそう誓うのでした。