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「作家の時間」実践記録(R4・1学期)

「作家の時間」の実践を始めて今年で4年目になります。毎回、楽しさと難しさを感じるのですが、子どもたちが「書くこと」を学ぶのにとてもよい方法であるということについては確信があります。「作家の時間」では、子どもたち自身が「書く」ということにとても自覚的になります。今日は、1学期の実践を記し、「作家の時間」の1事例として紹介できればと思います。

「作家の時間」とは

まずは「作家の時間」について簡単にご紹介します。「作家の時間」のもとになっているのは「ライティングワークショップ」という海外の実践です。これを日本で実践した人たちが「作家の時間」という本を出しました。そのため、日本では「作家の時間」という名称で取り組みが広がっています。

(私が持っているのはこちらの本ですが、最近、増補版も出版されたようです。)

「作家の時間」で私は書くこと全般を扱っています。1コマの授業展開は、本の中ではこのように紹介されています。
1.ミニレッスン(書くことに関するレクチャーをする時間)
2.ひたすら書く(書く活動に没頭する時間)
3.共有(数名が作品をみんなの前で読む時間)
※詳しく知りたい方は、書籍をご覧ください。

この授業が特徴的なのは、「書くことに取り組む」という枠組みがあるというだけで、何を書くか、どのくらいの長さのものを書くか、いつ完成させるか…などを子どもが自由に決められるという点です。
(もちろん、授業ですから評価もしなければならないし、他クラスとの兼ね合いなどもあるので自由に若干の制限がかかるという問題もあるのですが、基本的には子どもが自分で選択したり決定したりすることがとても多い授業形態です。)

個別最適な学びと「作家の時間」

「個別最適な学び」というキーワードが最近よく聞かれますが、作家の時間は個別最適な学びそのものだと感じます。教科書の「書くこと」の単元でも、子どもの書きたいという気持ちを高めるよう工夫されているとは思うのですが、全ての子が「書きたい!」と思うわけではありません。また、明らかに子どものレベルに合わないことがあります。

例えば、「すがたをかえる大豆」という教材の後に、「食べ物のひみつを教えます」という単元があります。子どもたちの中には、「大豆について学んだぞ。他の食べ物も大豆みたいにすがたを変えているのかな?自分でも調べてみんなに知らせたいな。」と教科書のねらい通りの思考をする子もいます。

でも、「食べ物のひみつなんてどうでもいい」と思う子もいます。
「これは、書くことの勉強なんだから、嫌でも書くんです!」
「苦手でも、『すがたをかえる大豆』と同じように書けば完成するんだから、がんばってやりなさい。」
そんな関わりをしていたら、書くのが嫌いになって当然だと思いませんか?

(とは言え、わたしも「『食べ物のひみつ』を書きましょう」とすることがあります。同じ教材で同じように評価しないと学年の先生とうまく連携が取れない場合があるからです。そういった教員間の連携やバランスはとても大事だと思っています。)

「作家の時間」では、自分で選ぶというプロセスが入ることで、子どもたちの書くことへのモチベーションが上がります。(そのモチベーションも常に高い状態というわけではなく、授業の工夫が必要なのですが、それは、一斉指導の時とは異なる工夫です。少なくとも、先生の求めに応じて、作品を書かされている感覚にはなりにくいと思います。)

自分の書きたいことに応じて、課題の量を調整しながら自己選択して学ぶ。「個別最適な学び」とつながっていると思いませんか?しかも、個々が勝手に書いて終わりではなく、教室で友だちと場を共有しながら書くことで、読み合いやフィードバックが自然に起こり、「協働的な学び」も同時に実現できます。

1学期の「作家の時間」

さて、前置きが長くなってしまいましたが、ここからは、私が3年生で実践した1学期の「作家の時間」について書きたいと思います。
本当は、週2~3時間を「作家の時間」に充てられればよいのですが、週1時間確保するのがやっとでした。(6月などはできない週も…。)

4月:「作家の時間」のスタート

「作家の時間」をスタートさせました。「作家の時間」では、どんなことをするのかを話しました。日常の出来事を書く作文、物語、詩、俳句、紹介文など今まで書いてきたものを振り返り、「『作家の時間』では、どれを書いてもいいよ」と話しました。

教室の引き出しに、いろいろな種類の紙を用意しておきました。そこから、紙を自由にもらって書くことができます。また、国語ノートを後ろから使うという方法も可能です。(国語ノートを後ろから使う場合は、横書きにするか、ノートを縦に開いて縦書きにして使うか選ばせました。)

書くことが思いつかない子は、読書をしてもよいことにしています。ただし、「書くためのヒントを見つける」という目的を意識するように言っています。詩を書いてみようかなと思う子が詩集を読んだり、探偵ものを書いてみたいという子が探偵ものの物語を読んだり…という具合です。

4月の「作家の時間」では授業の最後に、共有の時間を設けました。前に担任していた2年生では「自分で読むのが恥ずかしい」と言って私に読んでもらいたがる子が多かったですが、今年は「自分で読みたい!」という子が多く、みんなの前で自分の作文を嬉しそうに音読していました。

5月:ちょっと停滞している子も…

「作家の時間」は自分の好きなことができる。それがとても嬉しいようで、「先生、次は『作家の時間』いつ?」と頻繁に聞かれるようになりました。「週に1回なんだ。ごめんね。」と返事をしながら、もうちょっと時間を取ってあげたいなあといつも思っていました。

5月の「作家の時間」では、自分の書きたいことを見つけて猛烈に書き続ける子と書くことが見つからない子がいました。猛烈に書く子は、家でもやってくるようになり、とても楽しんでいる様子でした。一方、書くことが見つからない子は、本をめくってばかりでなかなか書くことに向かえていない様子。一人一人に声を掛けて、「今どんな感じ?」と聞いてみると、それぞれ異なる返答が返ってきます。

自信がない子には「いいアイディアだよ!」と励まし、書き方が分からない子には「この本を参考にしてみたら?」と提示します。漢字が分からない子には、国語辞典を使うよう促します。5月の時点で、何も書けない子はいませんでした。ほっと一安心。

6月:初めての出版に向けて

「作家の時間」の大事な活動が「出版」です。出版し、多くの人に読んでもらうことで、新たな作品への意欲が沸いたり、振り返りができたりします。
出版方法としては、2つ考えられます。
1つ目は、文集形式。原稿を集め、全員分(または、発行部数分)印刷して製本します。1冊にいろいろな人の作品が載っているという形式です。
2つ目は、1作品を1冊に製本する方法です。こちらは、個人作品を作るというイメージです。

今回は、後者にしました。その判断には、十分に授業時間を確保してあげられなかったということが影響しています。6月は、成績処理の時期で、他の教科の授業も立て込んでいました。印刷日程から逆算して締め切りを設定すると、子どもたちが書くことに追われてしまい、楽しくなくなってしまうと考えたからです。

1人1冊方式では、早めに完成する子が出てもいいし、じっくり取り組みたい子は後から出版しても良いので、ストレスが少ないと考えました。今回の状況では、この選択は正しかったように思います。

今回の出版でこだわったことは、「下書きをした後、手直しをし、最後に清書する」というプロセスです。子どもたちに出版について説明した後、このプロセスについても説明しました。

《手直しの仕方》
①自分で読み直して赤鉛筆で修正箇所を書き入れる。
②友だちの誰かに読んでもらい、文法上の間違いや漢字表記などの修正箇所を青鉛筆で書き入れてもらう。(感想も自然と伝え合っていました。)
③担任(私)に見せて、手直しが必要な点を赤ペンで書き入れてもらう。
※ここでは、この子に今教えるべきポイントを絞って、その点のみを指導します。内容に関して疑問点や矛盾点がある場合は、原稿を一緒に見て質問しながら書きたいことを整理したり、助言したりします。

推敲については、教科書などでは重要視されていますが、子どもからすると「めんどうくさい」と思うことが多いものだとこれまでの指導で感じていました。でも今回は、子どもたちが根気よく推敲していたなと思います。赤が入った下書きを清書用紙に書き写す際にも、よりよい表現を見つけたと言って推敲を重ねている子がいました。

7月:いよいよ完成!

7月初旬はテストが多いですが、テストが終わった後の時間を「作家の時間」に充てている子が多かったです。書き上がるペースが個々で異なるので、教員のところに行列ができることはなく、1日に数人ずつが見せに来ました。

清書が終わると、表紙をつけます。色やデザインを自分で決めるのも楽しそうでした。仕上げの時点で本物の本と見比べて、目次を付けたり、あとがきを書いたりする子もいました。自分の本を大切に思う気持ちが伝わってきます。

書くのが遅い子は、テストも時間がかかるので、作品がなかなか仕上がりません。そこで、7月半ば(夏休み前)には、まとまった時間を取り、作品を仕上げる時間にしました。既に作品が仕上がっている子は、友だちの推敲の手伝いをしたり、仕上がった作品を読み合ってコメントを書いたりしました。

2学期に向けて

1学期、出版できた子はクラスの4分の3ほど。完成していない4分の1の子も2学期に出版できるようにフォローしていきたいと思います。

1学期は、俳句集や詩集に取り組んだ子も多かったです。短くて気軽に取り組めるのが良かったのかなと思いました。たくさん書き溜めた中から、どれを自分の俳句集や詩集に載せるのか選ぶという活動にも大きな価値があると感じました。2学期は、俳句や詩を味わう活動と俳句や詩の創作活動をつなげていきたいと思います。

2学期は書くことの単元として、物語創作と説明文を書く学習(前述の「食べ物のひみつ教えます」の単元)があります。これを「作家の時間」とうまく結びつけて評価するということが必要になってきます。2学期のカリキュラムマネジメントと子どもたちへの周知がとても大切です。夏休み中に計画したいと考えています。

夏休み中にもう1つやりたいことは、個々の作品へのフィードバックです。「作家の時間」(ライティングワークショップ)の実践をされている石川晋さんの子どもたちの作品へのフィードバックがとても素敵で、自分もやってみたいと感じました。子どもたちの作品1つ1つと向き合ってメッセージを書きたいと思います。

おわりに

書くことが苦手な子は確かに存在します。また、書くことと読むことは深くつながっています。語彙力がないと文章を書くのは難しい。子どもたちの言語の力を伸ばしていくために、読む力と書く力を楽しく身に付けていける方法を模索しています。その点で「作家の時間」は、とても有効な指導法だと私は考えています。そして、読書も並行して推進していくことでその効果はより高まるように思います。

このような授業スタイルは、なかなか受け入れられないかもしれませんが、工夫して行っていく方法は必ずあるはずです。また、今求められている教育とも合致する点が多いです。今後も、様々な方の実践に学び、自分自身もこの授業法を探究していきたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。