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「向上心」は目指す場所によって異なる

「新妻くんって、本当に向上心がないよね」

会社員時代、とある先輩に言われていた言葉だ。その先輩には、とてもお世話になった。ちょっと考え方に偏りがあったり、物の言い方がきつかったりしたけれど、分からないことがあれば何でも教えてくれた。

兄貴肌で、仕事が終わったあとはよく飲みに連れていってくれた。会社では同僚と衝突することの多い人だったが、仕事に対する姿勢は誰よりも真摯だった。ぼくは会社を離れた今でも彼のことを尊敬しているし、毎年2、3回は必ず飲みに行っている。

しかし、である。ひとつだけ「嫌だな~」と思うところがある。それは、飲みに行くと決まって「新妻くんには向上心がない」という話に行き着くことだった。

確かに、ぼくは向上心がないと思われがちだ。「年収1000万円まで上げたい!」「会社で偉くなりたい!」などといった気持ちは会社員時代からまるでなかった。

広告営業をしていたから、もちろん売り上げは意識していた。が、例えば大手のクライアントを積極的に担当したり、自ら手を上げて大きな案件を引き受けたりするようなことはなかった。

それよりも、「新規開拓のため」というそれらしい理由をつけて展示会に行き、面白そうな商品やサービスを見つけることが楽しかった。たまにそこから本当に新規開拓することもあったから、会社からとくに何か言われることもなかった。

でも、その先輩だけは違った。

「新妻くん、もっと大きな企業を担当しないと!」
「同じ部署の○○さんにばっかり案件を譲っていいの!?」

飲みに行くと必ずそう言われた。そして最後には「もっと向上心を持って働こうよ!」と言われるのが、いつしかお決まりになった。確かに、先輩の言うことはもっともである。

でも、「何だかなあ~」とモヤモヤしながらいつも帰路についていた。果たしてぼくは本当に向上心がないのだろうか?というかそもそも、「向上心」って何だろう??

フリーライターになってこの1年で、自分の思いを言語化するときは辞書を活用しようというのをいろんな場所で学んだ。ということで、「向上心」という字を広辞苑で調べてみた。こう書いてある。

より優れた状態を目ざそうとする心。[広辞苑 第七版]

なるほど。何となく自分のなかでモヤモヤの正体がわかった気がする。僕と先輩にとっての「より優れた状態」が、まったく違うのだ。

先輩にとっての「より優れた状態」は、年収や地位が上がること。一方、ぼくにとっては、面白い商品やアイデア、人との出会いが増えること。

目指す場所が違うのに「向上心」というひとことで括られてしまったから、ずっとモヤモヤしていたのだ。それは逆に言えば、自分にとっての「向上心=目指す場所」があることも意味する。

よく方向性の違いで解散するバンドやグループがあるが、彼ら彼女らも、向上心があるがゆえに、”目指す場所のすれ違い”が起こってしまったのかもしれない。


つい先日、久しぶりに先輩と食事をする機会があった。これまでは「フリーランスでライターをしている」とだけ伝え、自分がどういう記事をどういう意図で書いているのかまでは話していなかった。だから、「給料があまり変わらないなら、うちの会社に戻っておいで」と何度も言われていた。

しかし今回は、自分が書いている記事を紹介し、自分がどういう企画を考えて、どういう記事を書きたいのかを話した。するとその先輩がひとこと、

「立派に1人立ちしてるんだね。凄いよ」

と言ってくれた。目指す場所や望んでいることは違っても、たとえ共感はできなくても、自分の思いを伝えれば、お互いを認め合うことはできるのかもな、と思った。

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