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『新潟市西区のむかしばなし』第10話「不思議な話」

【第10話】不思議な話

《行動範囲》寺尾

まずはふたりの姫様

ふたりの姫様が まっさきに不思議なものをつくり始めるんだ

僕たちがぼーっとしながらめをさますと ふたりの姫様が忙しそうになにかをしている

土をこねて 焼いて 不思議なものをつくっているんだ

お人形さん と ふたりの姫様は言う

寝ているときにみた と 言う

不思議なすがただから なんとかかたちにしたくて 土をこねて 焼いて お人形さんにしている

でもなかなかうまくいかないんだって

土をこねるまではうまくいくけど そのあとに火で焼きあがったものが 寝ているときにみたものとはぜんぜん違うらしい

不思議なものをつくるのも大変だ

だから ふたりの姫様は お人形さんをいくつもつくっては 気にいらなくて かちんと割っていた

土をこねて 火で焼いて 気にいらなくて かちんと割る

土をこねて 火で焼いて 気にいらなくて かちんと割る

ふたりの姫様は お人形さんに なにか不思議なこだわりがあるらしい

僕たちも

ものをつくる

サカナをつかまえるもの

ウサギをつかまえるもの

木を切るもの

イネを刈るもの

僕たちは あまりいいものをもっていなかったんだ

どうすれば 僕たちのもっているものが もっといいものになるか みんなで話し合った

みんなで話し合いを重ねて 試しにつくってみるんだ

試してみなきゃ

なにも始まらない

川の渡し舟についてもみんなで話し合った

どんなかたちで どのくらいの大きさで とか

夢中で考えた

泥の上を歩く 履き物 も みんなで考えて つくった

雪がとけて あたたかくなったら みんなで 履いて 試すんだ

雪の上を歩く 履き物 も つくった これはうまくいった

稲わらを編んでつくったのだけど 雪に足をとられることなく歩くことができた

余ったウサギの毛皮で

首にぶらさげる便利なぽっけもつくった

草の実をいれるのに役にたつ

ふたりの姫様はこれが可愛いと言って にこにこ と ふさふさの毛を撫でていた

笹笛で

遊んだ

笹がいっぱいあったから みんなで笹笛をつくって ぶーぶー 吹いて遊んだ

ふたりの姫様が とても上手につくった 吹くのも上手だった

ぶーぶーぴっぴっ ぶーぶーぴっぴっ

少しまぬけなんだけど

これが可愛いんだ

僕たちの吹く音とはまるで違う

ぶーぶーぴっぴっ ぶーぶーぴっぴっ

耳がくすぐったくなって

とても嬉しくなる

不思議な音色だ

笹笛にあきたら

お話をする

みんなで火をかこんで

お話をする

いちばんするお話は ご先祖さんたちから聞いたお話

何度も何度もするから みんな知っているのだけど たいくつしない

同じお話でも みんなの中のだれが話すかによって 「言葉」の聞こえ方がかわるんだ

話し方 声 話す人の気持ちしだいで 「言葉」の響きは ぜんぜん違って聞こえる

「言葉」って不思議だ

ご先祖さんたちが言っていた

「言葉」は僕たちだけの「できること」なんだ って

サカナは 海をすいすい泳ぐことが できる

トリは 空を飛ぶことが できる

ヘビは 毒で身を守ることが できるし

ウサギは すばしっこく飛びはねることができるうえに ながい耳で 遠くの音を聞くことまでも できる

でも サカナもトリもヘビもウサギも 「言葉」を話すことはできない

サカナもトリもヘビもウサギも 「言葉」を話して 嬉しいとか 悲しいとか 楽しいとか つまんないとか 好き きらい くるしい つかれた とか 言えないんだ

僕たちだけなんだ

心の中からあふれてくる気持ちを「言葉」にして みんなでわかち合うことができるのは

声を「言葉」にして

「言葉」をかけ合って

僕たちは その「できること」があるから

遠い昔から ここまで やってこれたんだよ って

ご先祖さんたちは 何度もお話をしてくれた

こんなお話もある

「つちのはなし

土の中に

龍がもぐる

土が 大きくゆれる

龍が土をかきまわすんだ

僕たちはびっくりするのだけど

龍は 気にすることなく 土をかきまわす

土の ずっと下のほうの ぬかるみになっている ぬかどこを かきまわす

ぬかどこの中には じつはイネの赤ちゃんや 草の赤ちゃん 木の赤ちゃんや 名もなき花の赤ちゃんたちがいっぱいいて

その赤ちゃんたちは

太陽を浴びる日を楽しみにしているんだ

暗い土の下の ずっと下のほうで 出番をまちながら

まだかな まだかな って

太陽を浴びる日を楽しみにしているんだ

まだかな まだかな って

じっと我慢して 耐えて こらえて 腐らずに 耐えて こらえて 頑張って 耐えて こらえて 耐えて 耐えて

やっと

晴れの日を迎えるんだ

僕たちはびっくりする

けど

僕たちの仲間だ

新しい 僕たちの 仲間

イネの赤ちゃん

草の赤ちゃん

木の赤ちゃん

名もなき花の赤ちゃんたち

びっくりしたよ

けど やっと やっと

ここに 生まれてきてくれたんだね

おめでとう だ

新しい 僕たちの 仲間 」

たまに

夜空の下で お話をする

冬の夜空は雲でおおわれていて あまり綺麗じゃないのだけど

ごくたまに 遠くまですみわたり 星たちが顔をのぞかせることもある

そんな夜は みんなで 外へ出て 火をかこみながら お話をする

冷たくて 深い

不思議な 夜空

僕たちは

夜空のことを

なにも知らない

ご先祖さんたちからも

なにも聞かされていない

夜空のことも

星のことも

知らないこと ばかり

太陽がいないから

少しこわい

ずっとみていると 真っ暗の中に吸い込まれてしまいそうだ

小さな星たちが

大丈夫だよって

手をふる

僕たちは ちょっとだけ安心して お話を 始める

星 いっぺことあんなー

みんな ちっせー

ちっせー星ばっからな

何でいっぺことあんのに 星ってみんなちっせーんろっかね

いっこくれ でっけーのがいたほがおもっしぇのにな

お日さんくれのやつらろ?

お日さん夜にいたらおもっしぇな

おめさんつくれて 夜のお日さん

無理らて!

お日さんって どーやってつくるん?

火らろ

いや寝れんくなるろ 夜もお日さんいたら

寝れるくれ うっすいのにすんて うっすいお日さん

うっすいお日さん こっからどーやって持ってくん うえに

トリら

トリは無理らろ お日さんよりちっけーっけ無理ら

ウサギは?

トリより無理らて

てか火で燃えっろ トリもウサギも

燃えねーよに どーすっからな

燃えねーもんなんてあるん?

ねーよ

何かあるろ

ねーて

ぜって何かあるろ 例えばほれ 土のお人形さん あれ燃やしてできてっけ 燃えねっろー

燃えねっけど 飛ばねっろー

ちげて 船 つくるんて 土で船みてなのつくって トリの羽みてなの つけるんて

えっれ話んなってきたな

羽のついた船 こいで燃えねっし飛べっろー なんとかなりそらねかて

なんとかなりそらな

おもっしぇ

名前どーすん うっすいお日さん

なんかね?

うっすいお日さんだっけ おうすさん

いまいち らな

ほかねーの?

お日さんのつぎに顔だすお日さんだっけ おつぎさんらろ

おつぎさん?

へ しょったれげな名前らな

綺麗なやつにしよて

おつきさんは?

おつきさん あー 綺麗らな

お月さん

綺麗ら

こいでいこ

お月さんはあいらな せっかくだっけ おもっしぇがんにしてーな

お日さんと一緒じゃつまんねっけ 丸じゃなくて ほれ 何かあるろ おもっしぇーの

あいら 毎日かたちが違ってたら おもっしぇくなんな

おもっしぇおもっしぇ

見てみてぇ

いっそ住もて

は?

なに言いだすん?

お月さんにみんなで住むんて

火らろ?火ん中に住むん?

住めるよーにすんろ? そいことらろ?

そいことら お月さんつくって いつかみんなでお月さんに住んで みんなで遊ぼて

ゆめは

かなうよ

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