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保育施設の事故報告をデジタル化したら年間120時間以上の削減を実現した話

新潟市こども未来部保育課では、保育施設で起きた事故の報告を集計・分析することで、施設での事故が減るよう、園児がケガをすることがないようにということをミッションに、保育施設・各区の指導保育士と一丸となって取り組んでいます。

今回のnoteでは、事故報告をデジタル化するまでの経緯から本運用までのストーリーについて、伴走支援担当者である菊地が業務担当者である保育課のお二人にお話を伺いしました。
※本記事は2024年3月に作成しました。所属は2024年3月末時点の情報です。


Before
・報告書をワードまたは手書きで作成し、FAXまたはメールで提出していた
・報告書の入力不備により確認と再作成が3割程度発生していた
・報告内容をエクセルに入力、報告書をスキャンしてメールで共有していた
・報告内容のエクセルを統合、該当件数を画線法で集計していた

過去の業務の流れ ※イメージ

After
・報告書をwebフォーム化することでFAXやメールのやりとりがなくなった
・報告書をwebフォーム化することで大幅に入力不備が減った
・ローコードツールを導入することで報告内容を共有できるようになった
・ローコードツールから出力されるCSVを利用することで集計が楽になった

年間約120~160時間の削減を実現!

現在(デジタル化後)の業務の流れ ※イメージ

何かできるかもと思っての相談だった

菊地:初めてお会いしたのが、2023年の9月下旬でしたね。なぜ、この案件を相談してみようと思ったのですか?

Oさん:当初、別案件のことをデジタル行政推進課(以下、デジ推)の皆さんに相談をしていたのですが、「他にもありますか?」と言われて、この事故報告の案件はデジタル化できそうと思い、追加で相談しました。

菊地:この業務の中で大変だなというところがあったんですか?

Oさん:集計時に手作業が多かったので、1件ずれると間違い探しがすごく大変で、そこが改善されればいいな、何かできるかもと思っての相談でした。※上記、「Before・過去の業務の流れ イメージ」⑦集計の場面

菊地:当時は事故報告の全体の業務というより、保育課が担う最後の集計部分のみをイメージしていたんですね。

断る方向でいきましょうかって話していたけど

菊地:改めて10月上旬に打ち合わせした後、どういう印象を持ちましたか?

Oさん:当時は、なんだか難しそうだし、それに掛かる時間をもてなさそうだから、「今回は見送って、次の打ち合わせに行ったら断る方向でいきましょうか」って、Hさんに話をしていたんですよ。

というのも、その日の打ち合わせの段階では、Webフォームからキントーン(※1) に入った報告データをすぐPDF帳票出力できないかもって話があって。それは施設が今より作業が増えるから嫌だなと思い、これはちょっとやめとこうかな。という話になりました。

※1 キントーン・・・業務アプリがつくれるサイボウズのノーコード・ローコードツール

https://kintone.cybozu.co.jp/

菊地:確かにそんな感じでしたね。ちょっと調べますって言って持ち帰って調べさせてもらって、当日中に「できます!」とお伝えしました。
※上記、「現在(デジタル化後)の業務の流れ イメージ」②出力の場面

Oさん:そうそう、PDFですぐ出力できますってなって、じゃあもうちょっと考えてみようかなって。

スケジュール

Webフォームなら入力不備が減り、FAXのやりとりがなくなる

菊地:始めは報告書の内容をwebフォーム化させましょうということになりました。当時のwebフォームツールの印象を覚えていますか?

Oさん:プルダウン選択とか、必須項目にすれば今までみたいに入力不備があって、やり取りが発生して、というのが無くなりそうでいいなって思いました。FAXだと、送信先を間違えてしまうリスクもありますし。全然違うところに届いたら困るじゃないですか。

今回webフォーム化します、と施設の職員に説明した後のアンケートに「このご時世FAXで送るのってどうなんだろうと思ってたから良かったです」というコメントがありました。施設も管理の上で心配があったんだなって。

菊地:フォームの中身は、外部の会社じゃなくて私達が作成していたので「ああしてほしい、こうしてほしい」というのは、リアルタイムにバージョンアップできたんじゃないかなと思いますが、その辺のやりやすさはどうでした?

Oさん:スピーディーでしたね。言うとすぐ対応してくださって助かりました。何度も諦めそうになりましたが、次々と案を出してくださるので。

フォーム化する過程で、何を必要としてるかというのがすごく精査された

菊地:紙での運用をフォーム化することはこれまでの業務が少し変わることになったと思いますが、その点どうでしたか?

Hさん:今はスマホで何か物を注文するときもフォームを使うのがほとんどなので、そんなに違和感はなかったですし、フォーム化することを考えていく過程で、私達が事故報告の中で何を必要としてるかということがすごく精査されました。

逃げないで慣れていかないと今の世の中ついていけない

菊地:互いのコミュニケーションをメールではなくチャットでお願いするようにしました。そこはどうでしたか?

Hさん:チャットは初めてでした。プライベートで LINE をやり取りしている感覚なんですが、ちょっと勝手が違うことに戸惑いました。ただメールと違って、最初の挨拶文が必要なく、いきなり本文にいけるというのは気が楽でした。

年齢なのかなっていうのを感じつつ、「できないできない」で逃げないで慣れていかないと、今の世の中ついていけないなってことは実感しました。

保育課・Hさん

PDF帳票出力は感動でした、文字は綺麗だし読みやすい

菊地:webフォーム化の目途がたち、次はPDF帳票の作成に進みました。当時のPDF帳票出力ツールの印象を覚えていますか?

Hさん:もう感動でした。フォームに入力してたものがこんなに綺麗な形の事故報告書になるんだっていうのが。もう本当にあの辺からテンション上がったかもしれない(笑)

今までの事故報告書に比べて、今回作った帳票は、欲しい情報だけがそこに載っているので、見やすいですし、何より FAX ではないから文字が潰れることなく綺麗で、読みやすいです。

菊地:そんなに感動していたとは思わなくて、驚きました。

Hさん:こういうことができるんだっていうことに感動しました。でも自分たちだけじゃできないところじゃないですか。だからこれはすごく推しでもありました。施設の先生や指導保育士に、「このワンクリックで一つの画面として見えますよ」って言うと先生たちも「あ~そうなんですね~」って、そこは感動してくれるような。

自分たちだけだと進まなかったかも

菊地:週1ペースで定例として、場を設けられたのが良かったのかなと思うんですけどその辺って負担じゃなかったですか?

Oさん:負担といえば負担でしたけど(笑) でも定例じゃないと、他の業務で忙しいということを理由にズルズルやらなくなってしまうので。あった方が「もうしょうがない、やらなきゃ」って、「準備しておかなきゃ」にはなるから、流れなくてよかったなって。

Hさん:集まってからも長い時間じゃなくて大体30分~1時間ぐらいで終わっていたので、課題を持ち帰って考える時間もあったし、1回に集まる時間も良かったかなと思います。

菊地:そうですね。確かに、もう次回が決まってるから「じゃあ次までに」っていう感じで進められましたね。気になることが出てきたらチャットでフランクに確認できるってのも、結構良かったですよね。

今回はデジ推の伴走支援担当者が2名体制でしたが、私と今井さんに関してはどうでしたか?今井さんは私とは違った視点だったと思います。

Oさん:そうですね、自分では考えつかなかった点によく気付いてくださいました。

Hさん:言われることによって考えるし、考えた上で「これは不要だね、でもこれは必要だよね」っていうところをまた決めていけたので、それはすごくありがたかったですよね。

デジタル行政推進課・今井

これは大改革ですよね

菊地:終盤はキントーンでの運用方法や操作に関して取り組みましたね。

Hさん:本当にこれだけいいものを作ってもらったのに、「運用方法ってどうすればいいんだろう?」っていう不安がありましたけど、キントーンから出力したCSVがばっちり集計できたとき、問題解決できた感じでした。

今までは「正」の字を手で書いてカウントしたり、いくつものエクセルデータを照らし合わせたりして、数字合わせをやっていたのが、本当に時間もかからないで出せて。これは大改革ですよね。

菊地:指導保育士の皆さんに説明するには、お2人自身がキントーンの操作を理解しなくてはいけなかったと思いますが、操作の難しさはありましたか?

Oさん:結構直観的に操作ができたので、そんなに難しい感じはしなかったです。

1か月間しっかりテスト期間があって良かった

菊地:課内説明、保育士会議での指導保育士への説明を経て、いよいよ2024年1月から一部施設でのテスト運用が始まることになりました。テスト期間って大事だったなというふうに私は思いましたが、どうでしたか?

Oさん:現場からも「1か月間しっかり期間があって良かったです」との声がありました。

菊地:「フォームが使いづらい」などという声はなかったですか?

Oさん:なかったですね。「プルダウンになったからやりやすかったです」って、結構好感触でした。

Hさん:施設としては新しいことが一つ増える感じがするのかなって少し心配していました。だけどそこは大丈夫だったのでよかったです。

菊地:キントーンだと指導保育士さんと同じ画面を見られて、状況や情報が共有できているというのは大きいですよね?

Hさん:大きいと思いますよ、同時に共有できることで指導保育士が他の対応で忙しくて見ることができなくても、こちらで確認することもできるし。

デジタル行政推進課・菊地 
※2023年7月より企業版ふるさと納税を活用し、メリービズ(株)より派遣

ここまでやってもらったのに、運用面でハチャメチャだったと言えない

菊地:もうHさんもWebフォームやキントーンを使い慣らしているっていう感はありますよね。

Hさん:Oさんは他の業務が忙しくなってしまい、不在の時間が増えてきた中、いないからってやらないわけにはいかないし、今後やっていかなきゃいけないということにすごく責任を感じて必死でした。ここまでやってもらったのに、運用面でハチャメチャだったと言えないなと思って。

本運用をひと月やって、どうやって効率的にここから進むのかなっていうのが課題です。

菊地:Hさんの覚悟がすごいですね。

この半年間の成果ってすごく大きい

菊地:これまでの約半年間を振り返ってどうですか?

Hさん:これまでやっていた事故集計のやり方はちょっと大変だなと思いつつも自分の中で当たり前になっていて、この数字を集計するためにはこれだけの作業をしなきゃいけないと思って、ずっとやり続けてきたわけです。

でも、デジタル化の案をもらって、絶対自分ではできないことをできる人の力を借りて、今回のような形に出来上がったという、この半年間の成果ってすごく大きいなって思います。

自分では絶対できなかったこと、気づかなかったことを、周りから気付かせてもらって形にしてもらったっていう実感もすごく今、ありますね。

菊地:運用は変わったと思います、逆に言うとよく変えられましたね?

Oさん:だから私は最初、強引に話を持ってきてしまったなって(笑)

Hさん:何かを変えていくのは嫌いではないんだけれども、それにまつわるいろんな関係性とかを心配するんですね。「こうした方がいいんじゃないですか」っていう前向きな意見は2、3件来ていますが、ネガティブな意見は今のところありません。

デジ推の方が一緒にやってくださって良かった

菊地:Oさんはどうですか?

Oさん:こんな便利機能があること自体、まず知らなかったですし、知ったとしても絶対自分だけでは取りいれるのは難しい。伴走してくれる人がいないとできなかったことだから、便利機能プラス、デジ推の方が一緒にやってくださって良かったなと思います。

これまでの運用とそう変わることなく、便利になっていってよかった。運用の部分でも結構話を聞いてくださったじゃないですか。フォームや帳票の形を用意するだけではなくて「大事なのは運用のところですよ!」っていう点でも、ちゃんと相談に乗っていただいたことで、形になって良かったなって思います。

保育課・Oさん

相談だけでもすればいいのになって思う

Oさん:このキントーンの機能を知ってから、周りの職員にキントーンを勧めるんですけど、「相談するなんて」って遠慮する方が多くて。相談だけでもすればいいのになって思いました。

菊地:そういう潜在的にいる人たちのお手伝いをしていきたいと思っているんですよ。

結局「形にならなかったら、申し訳ないんじゃないか?」とかは決して思って欲しくなくて、私達も仕事でやっていて、結局これをやることによって、市全体が良くなることが私達のミッションでもあるので、今回、少なくとも保育課の皆さんと指導保育士さんと現場の保育士さんのためになってたら、すごく嬉しいなと思うので。

Oさん:デジ推の方は「これが仕事です」というスタンスだと思うのですが、それがこちらからすると、「他の課のことなのに、こんなに頼んでいいのかな」っていうのはあるんですよ。

でも上司は「デジ推をいっぱい頼りなさい」という感じだったから、もうそういうものとしていいんだなと(笑)

菊地:そうそう、そんな感じでいいんですよ(笑) もうちょっと私達が職員の皆さんにうまく伝えていかないといけないですね。

人の力を借りて効率的になる

菊地:もうちょっと周りの職員に対して、こういうことをやっていった方がいいよとか、勧めようとか何かそういう気持ちになったりしましたか?

Hさん:そうですね、アナログでやっていたことが、本当に人の力を借りて、助けてもらって、こういうふうに効率的になる。もし悩んでいる人がいれば、「私の経験としてこうでした」っていうことは、何かお伝えできるかもと思うので、そういう場面があれば、ぜひぜひ勧めたいなとは思います。

菊地:お二人とも、お忙しいところ本日はありがとうございました!


【編集後記】
菊地:「HさんとOさんの業務改善に対する前向きな姿勢は本当に素晴らしいし見習わなければいけない、なにより今の自分の役割として多くの方に共有しなければいけない」、そんな想いが芽生えたことが、この記事を作成しようと思ったきっかけでした。伝えたい内容が多くボリューム満載となりましたが、最後まで読んでいただいた方、ありがとうございます!

今井:仕事の仕方を変えることはストレスもかかるし多くの労力や調整が必要です。また、昨今の市役所には「改善する余裕」がない部署も多いと感じますし、今回の事例のように、自身の担当する業務だけでなく、業務フロー全体を見直す改善というのは、1つの所属や担当だけだと困難に当たったときに話が立ち消えてしまうことも多い。当課とともに成果がでるまで一緒に取り組んでくれる所属が増えてくれたら嬉しいです。

※記事の写真はすべて、デジタル行政推進課・小杉が撮影しました。


2023年度 デジタル行政推進課メンバー 

新潟市総務部デジタル行政推進課は、
・行政サービスのデジタル化による、市民の利便性の向上
・職員のDXマインドと組織の業務改善に向けた風土の醸成
をミッションに、新潟市職員の伴走支援に取り組んでいます。