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制度としての選択的夫婦別姓 第3回 どの案によるか

こんにちは、コンテンツビジネス推進部のAです。
“選択的夫婦別姓”、このキーワードを最近新聞やニュースで目にすることが多いけれど、そもそもどんな制度なのか?
戸籍のことを幅広く扱っている日本加除出版では、本制度を過去に何度か取り上げています。
このことに向き合うためには、一人ひとりが制度としてどのようなものなのかをまず知ることが必要だと思いました。
知っているからこそ、発想も広がるし、自分の考えもまとまる。
いま改めてこの内容の一部をお伝えすることで、知ることの一助となれればこんなに嬉しいことはない。
そんな思いで、時に脱線もしながらお話しさせてもらいます。

他にも本テーマで記事を書いています。第1回第2回はそれぞれこちらから読むことができます。

夫婦別姓を検討していく上で、その途中段階『要綱試案』の中で3つの案が提示されたことを前回お伝えした。
A案(夫婦同氏原則型)、B案(夫婦別氏原則型)、C案(呼称上の氏案に近いもの)、今回はこれについて、見ていく。

回りくどい表現もあるが、キーワードは原則と義務。
現行制度では、夫婦は婚姻に際して夫婦の氏の定め(婚姻前のどちらかの氏を選択)をすることが原則となっている。
現行制度と比較して、どんなことを義務とする、もしくはしないのかに注目しながら見てもらいたい。
なお、わかりやすいように佐藤さんと田中さんの氏を例に説明も加える(★参照)。

A案(夫婦同氏原則型)
夫婦の氏を定めることを義務とせず、別氏夫婦も可。
この案の前提には、現行制度を鑑み、夫婦の氏を定めることが原則であるという考え方が存在しているが、その定めをしないで、それぞれ婚姻前に称していた氏を称し続けることもできる。
★原則は、佐藤に合わせる or 田中に合わせる。但し、佐藤&田中のままでもOK。

B案(夫婦別氏原則型)
婚姻前に称していた氏は、原則として、婚姻によっては変更されない。
夫婦の間で特段の合意がされた場合に限り、夫又は妻の氏を称する。
★原則は、佐藤&田中のまま。但し、佐藤に合わせる or 田中に合わせるでもOK。

C案(呼称上の氏案に近いもの)
現行の制度(婚姻に際して夫婦の氏を定める)を維持。
婚姻によって氏を改めた夫婦の一方が,婚姻前の氏を自己の呼称として(注意:「呼称上の氏」とはいっていない。)使用することを法律上承認する。
★佐藤に合わせる or 田中に合わせる。合わせた方が、元の氏を使用することを法律上承認。

後掲『戸籍時報特別増刊号(通巻654号)選択的夫婦別氏制の論点について』
P.29以下参照

さて、どの案が皆さんの考えていた夫婦別姓のイメージに近いだろうか?
そして、どれをベースに平成8年の法律案要綱は作られたのだろうか?

自己の呼称として戸籍上に定める氏とは別に婚姻前の氏を使うC案は、少し分かりづらいように感じる。例えば、戸籍上の氏は佐藤だが、呼称は田中。考えただけでもややこしい。
例えば、様々な手続で戸籍上の氏を記載しなければならない場合と呼称の記載をする場合が混在するなど、混乱や問題が起こることも想像できる。

結果として、平成8年(1996年)の「民法の一部を改正する法律案要綱」では、

夫婦は,婚姻の際に定めるところに従い,夫若しくは妻の氏を称し,又は各自の婚姻前の氏を称するものとする。

法律案要綱 第3、1

とした。

夫婦の氏については、同氏原則(A案)/別氏原則(B案)のいずれも採らず、同氏/別氏を対等なものとしていずれかを選択する案を採った。佐藤/田中どちらかを結婚後の同一の氏とするも良し、結婚前の佐藤&田中の氏をそのまま別々に称するも良し。
「同氏/別氏をあなたたち夫婦ごとの考えに沿って自由に選択できます」、としたのである。

別氏と一言にいっても、その裏で法制度としてどの立場をとるかというのには様々な検討がなされている。
その中で、この平成8年の法律案要綱の氏の選択においては、特に原則は設けずに、自由に話し合いができる状態になっている。
各々の夫婦の事情に合わせてそれぞれが決めていける制度だと感じた。

次回は、婚姻後の夫婦の氏の転換を認めるべきかについて見ていきます。

興味がある方は、是非2010年4月発刊の本書もご購読ください。今回は主にP.26~31,83~87を参照しています。