国文法の問題点その2:「〜について」

前回の「文節」の問題に関連して、今回は「〜について」「〜を通して」などの表現について考えたいと思います。


日本語教育(日本語を外国語として学ぶ)における文法では、「〜について」「〜によって」などは「複合助詞」であるとされます。

複合助詞とは、複数の語が合わさって一つの助詞として機能しているものです。例としては、上の2つの他に「〜に対して」「〜にあたって」「〜を通して」などがあります。

一方で、国語教育における国文法では、上のような表現は「〜に/ついて」「〜に/よって」のように文節を区切るきまりになっています。これらは、「〜ている」を「〜て/いる」と区切って「いる」を(補助)動詞と捉えたのと同様に、「ついて」や「よって」を動詞として捉えているということになります。


たしかに、「〜について」「〜によって」は「就く」「依る(因る)」という動詞から生まれたものですが、これらの動詞の本来の意味は薄れていると言ってよいでしょう。(言語学では、「〜ている」も含め、このような表現は語彙的な性質を持つ語が文法的な性質を持つ語に変化するという「文法化」に該当する現象です。be going to が動詞の進行形から助動詞に文法化したものである、というのが最も有名な例の一つです。)

また、「〜について」「〜によって」などの表現を使う際、「就く」「依る(因る)」という動詞が含まれているという意識はあまりないものと思われます。だからこそ、「〜に就いて」「〜に依って(因って)」のように漢字表記がなされることが(現代では)少ないのでしょう。


以上を踏まえて、「〜について」「〜によって」のような複合助詞を国文法でどのように扱えばよいかを考えたいと思います。

たしかに、「〜について」「〜によって」という表現が「〜に/ついて」「〜に/よって」のように文節で区切れることを教えることは、これらの表現の由来(動詞が助詞として使われるようになった)を認識させることにはつながります。すなわち、このように区切ることは由来という過去の視点を与えることになりますが、その一方で、「いま自分たちはこれらの表現をどのように使っているか」という現在の視点を与えることにはなりません

国文法が現代に生きた文法であるためには、現在のことばの使用に即したものでなければならない、と私は考えています。

したがって、国文法教育においては、「〜について」のような表現が、元々は動詞を含む複数の語であって、それが現在は一つの助詞として使われるように変化しているということを学ぶことがむしろ大切だと思います。

さらにそこから発展して、元の動詞の意味がどのように薄れることでこれらの表現が生まれているのか、ということばの意味の変化まで子どもたちが考えることにつながれば、単なる一方的な教授に終わらない、探究的な学習に昇華できるでしょう。

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