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【読書感想文】橋を渡る 吉田修一さんー4


【読書感想文】橋を渡る 吉田修一さんー4




4章は208×年の対馬。

主人公は響、職業軍人。

佐原教授の研究が実を結び、生殖医療で生まれたサインと呼ばれる賤民です。


サインの居住区域でなら権利保障はいくぶんマシですが、低身長・短寿命、オリジナルな人間の世界では迫害されており、人身売買のような形で配偶者となるという過酷な運命を強いられています。


対馬での長期勤務を終え、家に帰ると、当然のように妻の愛人がいます。

実は、彼の妻は、第一章で明良の家に居候していた彼の甥・孝太郎と、第一章の終わりに妊娠が発覚した孝太郎の恋人・結花でした。


妻側の親族として結婚式で顔を合わせただけですが、サインの響側には来賓が少なく、寂寥感がありましたが、控え室まで遊びに来て響を気遣ってくれたことがあります。

差別意識の無い人として響は好感を抱いていました。


サインという被差別民でありながら、オリジナルの人間と結婚し軍人でもある響は、タワーマンションの一室に住んでいました。

向かいに見えるのは「荒廃した」ツインマンションのもう片方。


コンマ何%か傾いていると騒ぎになったことがあります。後に安全性には問題ないと研究結果が出されたものの、退去者は後を絶ちませんでした。


出先で知り合った夫婦がそちらのマンションに住んでいると知り、響は気になっていました。妻の凛がサイン、ラボ育ちのホモサピエンス、自分と同じ被差別民だったからです。


響の妻は、対外的に響を下に扱うことはなく、たとえば外食のエスコートをすることがありましたが、凛の夫は露骨でした。


それと知らぬ時に、夫婦二組で食事にと誘うと、「声をかけたけど来なかった」などとヌケヌケと言い、凛が側にいようがいまいが彼女を侮辱し、露骨に差別しています。


当然凛はそんな夫の側で、笑顔がなく寡黙。童顔で低身長で少女のように見えるので、同族ながら自分に輪をかけた痛々しさに、響は同情が絶えません。


けれど、同情したとて響に出来ることは何もなく…。


自分の気持ちを持て余していましたが、外で静かに泣いているのを目撃し、彼女が暴力をふるわれているのを察して、矢も盾もたまらず「逃げよう」と手を取ります。


さりとて、公共交通サービスやあらゆるサービス利用に際し耳のIDで身分確認することが当たり前となっており、届を出されたら、もう何処に逃げることも不可能です。


軍所属の響は、職場と妻から早々に警告を受けて、その通りの翌日正午に拘束対象として手配・報道されました。


響は凛を連れて、「最後に一目見たい」という衝動的な理由で、義理の祖父母宅へ行きましたが、孝太郎と結花は困惑しながらも、二人の逃亡に理解を示しました。

嘘と知れてただでは済まないかも知れないのに、盗難に遭ったことにすると言い、二人のiDを響と凛に渡しました。


それでも響の方は既に顔が知れているし、どこに逃げるアテもなく、至るところにいる警察・警備員、憲兵から隠れて途方に暮れていると、眉唾記事だと思われていた「過去からやってきた人間」ー謙一郎が倒れているのを目撃します。


研究対象として拘束されたのを命からがら逃げ出し、過去に戻りたいと咽びなく謙一郎に同情した響と凛は、彼も連れて三人で逃亡を続けることを提案します。


逃亡先は対馬。

謙一郎の遭った怪奇現象。

黄色い傘運動の動画に映った一秒未満の景色に、響は見覚えがありました。

それが彼の「職場」だったからです。


東京から長崎県対馬市へ歩いていくのは無理がありますが、凛は「夫は私の失踪届を出していないんじゃないか」と推測し、公共交通サービスの改札を通る際、凛は自分のを使い、結花から渡されたIDを謙一郎に貸すことを提案します。


果たしてそれは思惑通りでしたが、凛の夫は対馬まで追いかけてきました。


ぬかづいて詫びれば許してやる

大枚をはたいて成績が悪くろくな進路を選べなかった凛を買うような形で買ったのは、自分と心中させるためだー


凛はそれを拒絶し、響の同僚が手配したエアロモービルで、対馬の「あの景色」の場所に飛ぶのでした。







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