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春の訪れを告げる厭世的断片

満開だからさと、わざわざおめかしして出かけた先に普段目もくれない桜や花桃や水仙が花を咲かせていたとて、「綺麗だね」としか感想が出てこないその無関心さが、

あるいは、コンビニで1つ札を多くつけた店員によるお釣りの間違いを、今年も春が来たなと目を瞑って譲歩するも、徐々に私の体を蝕み、ついには自らを殺そうとする者をさえ許してしまうような生ぬるい親切心が、

あるいは、花粉に苦しむ友人を見て労うくせに自らのささくれを躊躇なくむしり取り、滲み出る血を見て初めて後悔するような無責任な自己犠牲が、

あるいは、すれ違いざまに近所の小学生に大きな声で挨拶をされて、今どきの子は元気でよろしいと根拠もなく誇らしげな日と、うるせえだまってろと胸ぐらを掴みあげたくなる日が交互にくるような自家撞着じかどうちゃくが、

あるいは、頬に健やかな暖かみを感じると同時に、まだ身を案じる必要のない暗く冷たい冬の夜を想像して身震いをしてしまう無慈悲で残酷な想像力が、


今年も春の訪れを告げる。


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