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王さまの本棚 32冊目

『ガラシとクルピラ』

陣内すま文/ヴァンペレーラ絵/福音館書店刊


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いま思えば風景の絵を描く課題が出たとき、影響されて、葉っぱの一枚一枚まで描こうとしていたような。当然書ききれずに嫌になって、それで絵を描くのはそこそこ好きだったけれど、図工の授業は苦手でした。

それはともかく、ほんとうに魅力的な絵……音や風までが表現され、図案化された月や芋の絵はまるで浮世絵なのだけど、決定的なまでに温度湿度明度彩度が違う。熱帯アマゾンの湿気や泥の匂い、人々の暮らしが肌に迫ってきます。

そう。見知らぬ文化に暮らす人々の生活がおもしろい。と思った最初の本かもしれません。

たとえば、『おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に』という有名な文にだって、生活が表れています。おじいさんは山で刈った柴を売りに行くのだろうな、おばあさんは家事をする役目なのだな、というところでしょうか。もっと読み解こうとするなら、山から町まではどれくらいあるのだろう、山はどれくらい深いのだろう、川はどこからどこへ流れていくのだろう、などなど……疑問は尽きません。

それと同じく、少年ガラシも、アマゾンで村の人と暮らしています。木を切り倒して畑を作ったり、かごを編んだりします。絵にはよくわからない大きな鉢や、謎の濃し器のようなものも見えます。料理をしているのでしょうか。河に出て魚を弓矢で獲るなんて、子どもの頃のわたしが思いつくべくもありません。

そしてクルピラの恐ろしさ。
山に入ったときに、それがどんな山でも森でも、林でもいいんですが、なんだかぶわっとした、草いきれみたいなものに包まれたことってないですかね。冬でも夏でも。大きな命の中に入ったような。
そういうのが怖くて、わたしはいまだに山に一人で入ることができません。何か起こったときに、責任が持てない気がするのです。何も起こりやしないのに。
クルピラは、そんな命の精髄です。熱をもって、湿気をもって、生きている、そういうものです。
自分が山に入るときのおそろしさを、クルピラにも感じます。
本当に不思議だけど、そのときアマゾンとわたしの故郷にある里山はつながっている。

どうやったらこの本の魅力が伝わるのかな、と思いながら、このシリーズを書いています。すごく難しいです。好き!けっこう書けた!と思った本に限ってスキがあまりいただけなかったりして。うーんほんとうに難しい。
そんなことを考えながら、クルピラの魅力についても、書いています。

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