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「存在意義。」/ショートストーリー

俺は昔、秘密結社に籍を置いていた。とても有名だったのでわりと誰もが秘密というわりには俺たちの存在を知っている。それは俺たちが特有の声を発するからだと思う。

「イー。」

もう今年で50周年になるらしいが仲間はどうしているのだろう。

仕事上、怪我や死亡事故も多いのだが秘密結社に労災の文字はない。俺は頑張っていたほうだと思う。幹部昇進なんてもあり得ず、いつまでたっても下っ端のままだったが。

仲間はみんな同じ黒ずくめで覆面もかぶっていたから、お互いの素顔なんて見たことがない。私語も厳しく禁止されていたので身の上とか境遇も話せなかった。中には家族持ちのものもいたらしい。俺たちは暑かろうが寒かろうがひたすら上司の命令に従うだけだった。

「イー。」と発して戦っても決して勝ったりすることはなかった。有利と思えても必ずコンテパンにやられるし、下手すると愚かな上司にもやられたりした。そのせいか、世間のほとんどが俺たちをバカにしたり、あざ笑ったりした。ただ不思議なものでファンと言っていいのか影で応援してくれるひとも少なからずいたので、そういう意味ではやりがいもあった。

とにかく俺たち下っ端がいないと上司(ほとんどは人間じゃなかったが。)も困るだろうが主人公だって同じだったろう。いきなり、上司と一騎打ちになったらあっという間に戦いは終わって普通の生活に戻らなきゃならない。俺たちがいたからこそ、主人公であるヒーローの活躍も際立つし世界平和にもつながったという訳さ。

まあ、俺たちの存在意義はそこにあったのだと俺は思うね。

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