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「計算ずく。」/ショートストーリー

「別れてくれ。」

「なぜ。」

「君は本当に俺のこと愛しているのか?」

私は黙ってしまった。いつものパターンだ。

「ほら。答えられない。君みたいにかわいくて性格もいい子がこの箸にも棒にも掛からない俺みたいな男のことを好きだなんて、信じられないんだ。」

「きっと理由があるんだろう。納得する理由が欲しい。」

なんで愛の理由とかエビデンスを求められるのだろうと思うのだけど、残念ながら彼には提示できない。

「ごめんなさい。」そう言って彼から離れて歩き出した。遠くで「畜生。」と叫ぶ声が聞こえたがどうしようもない。別れてくれと言ったのは彼のほうなのに。


いつも愛されるように計算しているのに、最後には別れてくれと言われてしまう。何故なんだろう。相手についての情報をもとに髪型も洋服も料理も趣味も体温も顔立ちも秘密の部位もカスタマイズしている。

それでもだ。最初は間違いなく愛されるのだが、私からの愛が欲しいと言い出す。私に与えられたのは愛するではなくて愛されるということ。だから私から愛を与えられない。

私は歩きながら計算してみる。どうすれば最後まで観察がやり遂げられるのかしら。

もしかしたら、観察対象を男性にしたのが原因だったのかもしれない。観察対象を女性に変更してみよう。

それにしても人間って不確定因子だらけで、私の計算が間に合わない。

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