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「好奇心。」/ショートストーリー

「王。どうです。安心してくれました?」
「最初から何も心配はしていない。あなたの仕事ぶりは知っているからね。」
「ありがとう。信頼が第一の商いだから。嬉しい言葉です。」

王と呼ばれたのは絹のような光沢の毛並みと宝石のような瞳を持つ猫。

「あの子がどうしても恩返ししたいと言うから。確かに恩は返すものだ。」
「最近では返さないものも大勢いますが。」
「わが一族は恩には恩を仇には仇を返すのが決まりなのだよ。」
「本当はすぐでなくても良かったのではないんですか。」
「そうなんだが。彼が来てしまった。」
「ああ。そうですね。」

そう答えたなんでも屋は苦笑するしかなかった。
自分の命をかけて助けてくれた人間に恩返ししたいと考えた子猫のところに彼は現れた。そう。

難でも屋が。

人間の負ったものと引き換えに9つの命すべてを対価にと交渉していたのだが。
猫の王がそこに現れたので、難でも屋はにやりと笑って消えたらしい。

「私の顔を見て消えたのだから、少しは罪悪感があるのか?」
「たぶん。王の鋭い爪が怖かったのだと思います。彼は彼でまあ、ビジネスをしているのです。ただ。時々、気まぐれに普段相手にしないものたちに。客層を変えるものだから。泣くものがいるのです。」
「あのままだったら。あの子は生まれ変わることができなくなっていた。あの子がちゃんと考えられる年頃だったら、本人の願いを尊重するのだが。」
「すみません。」となんでも屋は同業者として頭を下げた。
それで難でも屋の話しは終わりになった。

何でも屋が帰ろうとした時。
猫の王はまた口を開いた。

「あの人間はね。ずっと猫だった。今世初めて人間に生まれ変わった。」
「人間に生まれ変わるなんてずいぶん物好きな。」と言ってからなんでも屋は王が怒ったかなと顔を見ると優し気に微笑んでいた。

「猫だったときの彼女はわが一族の中でも、とびきりの好奇心をもっていたからね。」


このお話しの前編的な~↓




  


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