「お願い。」/ショートショートストーリー
土曜日と日曜日。今年最高だったと思われる週末。リアルに友達と逢い、美味しいごはんを一緒に食べてワインも飲んで、それから映画も観てしまった土曜日。翌日は引き続き快晴。朝早くから洗濯や掃除、ついでに布団干しをした勢いで草むしりもしてしまった日曜日。月曜日の出勤に向けて早めに寝た。充実した二日間のおかげでベッドに入れば、あっという間に眠りに落ちた。ベッドのふとんは干したおがけで暖かくふかふかだ。愛猫ももぐりこんでくる。
それなのに。
月曜日。会社についたら、職場に不穏な気配がひろがっているのに気づいた。何事なの。何が起きたの。私は仲良くしてくれている年下の社員さんの顔を見た。ところが、彼女は私の顔を一目見てうつむいた。まさか、私。思い当たることはない。私じゃないわ。それでも考えていたら部長が別室に私を呼んだ。
「ねえ。君。辞めてくれないか。」とその一言を私に告げると部長は出て行ってしまった。こんなことってあるんだろうか。こんな理不尽なことが。
別室から職場に戻るとみんながそっぽを向いている。まるで関わりたくないかのように。もう、私は泣きたくなってしまっている。いい大人が泣くなんてありえない。私はぐっとこらえる。
その場から逃げるようにいつも仕事している検査室に行くと、ここでもみんなの態度は同じだった。私は諦めた。もう、辞めるしかないのだ。私はひとりひとりに挨拶を始めた。どのひとも金曜日までは仕事だけでなく冗談を言い合ったり、一緒にランチするひとたちだった。私は丁寧に最後の挨拶をしなくてはと思う。
「色々とお世話になりました。ありがとうございました。」
それでもみんなは無言のまま、私の顔をみようともしない。とうとうこらえきれず、涙があふれてくる。
「お前。悪質なんだよ。」
誰がポツリと言った。ますます私の頭は混乱する。いったい私はなにをしたのだろう。涙がとまらない。
自分の泣いている声で飛び起きた。今までのことは夢だったのだ。私はほっとした。夢だ。大丈夫。大丈夫。息を整え涙をふいて傍らの猫を撫でようとした途端、猫がぐにゃりとなった。
まだ、夢から覚めていないの。土曜日や日曜日はどうなの。夢だったの。私はまた会社のみんなが無言の中、ひとり泣いていた。
お願い。誰か私をおこして。お願い。助けて。