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しあわせな結婚とは

「あなたは貧乏してても、しあわせと言っているのでしょうね」と母に言われたことがある。私がそのとき付き合っていた彼のご家庭とうちとは違う、夕食のときに本や松尾芭蕉の話はしないでしょうね、と。

はっきり言われなかったけど、彼との付き合いは快く思っていなかったのを感じていた。彼の家が裕福でなかったから。母親は、きつく怖い人だな、と思ってたけど恋の真っ只中にいた私には関係なかった。

お金と愛。恋心か打算か。幸せな結婚とは。200年以上前のイギリスでも普遍的なテーマであった。

自負と偏見  ジェイン・オースティン

ベネット家のミスター・ベネットは知性はあるが皮肉屋で妻や娘たちの教育はやり過ごし放任している。ミセス・ベネットは慎みがなく、娘たちを財産のある少しでもよいところに嫁がせることにやっきになっている。長女ジェインは美しく気立ても良い。次女のエリザベスは知的で強いが偏見で惑わされてしまう。

ジェインの結婚とエリザベスの恋も身分違いのせいで、前に進んでいかない。

お互いに相手に財産があるということ、ご家族、親族にミドルクラスの出身がいないこと(この場合商人)が大事な問題だ。

Pride and Prejudice. エリザベスを想うダーシーには自負(pride)がありエリザベスには偏見(prejudice)があった。

200年以上前だからこそ、人間が、会話、手紙が生き生きとしている。情報というものは書物もあったけど、人間で、会話だ。いかに上品に格好良く会話できるか。

作者の技量ももちろんだけど、今私たちはこのように生き生きと会話できるだろうか。

誤解や齟齬があった場合、メールでなく。

人と話すことで。

様々な人々がそれぞれの思惑で、会話し動き回る。

桐野夏生さんのあとがきで『彼らの滑稽なほどの俗物ぶりも見栄も虚偽も妥協も、厳しい世を生き抜くための切実な方便』とある。これも現在に通じる。彼らの生き方を真っ向から否定はせず、ユーモア、笑いで明るくテンポが良い。多様性だ。

ダーシーもエリザベスも、軌道修正ができ最後には素直になれる、というのがいい。大人って、恋ってなかなかそれが難しい。

まちがってたら、謝ったり、どこかで軌道修正しないと。リディアとウィッカムのように修正できない人たちもいるけど。

『人生を狂わす名著 50』 三宅香帆もこの本をトップバッターで紹介して『月9ドラマも今時放映しないぐらいベタベタなラブコメディ』『人間の失敗をユーモアをもって微笑む』とそこに焦点をあてていた。

読み方、感じ方は人それぞれだから、面白い。

200年の歴史の重みと生き生きとした会話と、現在にも彼らはいて、読んでいる間ずっと楽しかった。笑えたし、涙もした。本の中に入り込める時間が好き。

母は決してミセス・ベネットではなかったけど、母親の想いってあるのだな、と思うとミセス・ベネットにも優しく微笑むことができそうだ。

母があまり好きではなかった彼の、英米文学のレポートが『自負と偏見』で彼の代わりに私が読んでレポートを書いた懐かしい本だ。レポートの内容は忘れたけど。

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