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水になじめないけど跳び込んでしまう

僕は弱くない。強いはず。そういう夫は、いわゆる「口が立つやつ」でその口で貧乏を踏み台にして成り上がってきた。

僕は勝ち組でない。負けなかった組だ。

その夫が弱くなった。76歳と年をとると弱くなるのだろうか。

口の立つやつが勝つってことでいいのか  頭木弘樹

朝日新聞の書評に「弱さとは世界に敏感になること」とこの本が紹介されていて頭木弘樹さんをよく読むというリチさんの感想文では「頭木さんの本の面白いところは徹底して弱いところだ。弱くっても良いんだ、と思えるところだろうか」とあります。

著者は二十歳で難病を発症し、自分の症状を医師に伝える難しさ、入院中に出会ったカフカの後ろ向き思考を身近にします。

当たり前だと思っていること、本当にそれでいいのか、とぽんぽん投げかけてくるのだけど、文学、ドラマ、映画等での言葉も交えてとてもわかりやすい。

その水にしっくりなじめる魚は、その水のことを考えなくなる。その水になじめない魚だけが、その水について考えつづけるのだ。

トライアスロンをやっている夫は、泳ぎが苦手だ。息継ぎがうまくできない。夫のクロールは背泳ぎをしているように、ひっくり返って上を見て息継ぎをしている。息継ぎが仕事になっている。そればかり考えている。

泳ぎの得意な人に、どうしたら息継ぎができるか夫が聞いたときその方は上手く説明できなかったという。息継ぎのことは考えてない、自然とできると。

水になじんでいる。水になじめない。
なじんでいてもなじめなくっても、考えていても考えていなくってもよーいどん、で水の中にとび込む。

もう嫌だ。無理だ。と思い途中で投げ出すこともある。命を守るためのリタイヤだ。

「死ぬかと思ったから、やめた」

やめれる人、弱くない。
強い弱い勝ち負け口が立つ立たないなんでもいい。倒れたままでもいい。生きていて欲しい。

将来に向かって歩くことは、ぼくにはできません。将来にむかってつまずくこと、これはできます。いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです。

カフカ

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