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鼻の下にあるほくろの話

鼻のちょうど下にほくろがある。

1センチ弱くらいの大きさで、色も濃かった。
小学校の入学式で同級生に「なんで鼻の下にほくろがあるの?」と聞かれてからとても気になるようになった。

お出かけで知らない場所に行ったり知らない人に会うのが恥ずかしくて嫌だった。小学校3,4年生のときは出かけて人に見られるのが嫌すぎてマスクをしたり手で隠すこともあった。クラスの男子に、「理来はほくろがないほうが可愛いよ」と言われたこともあった。

両親は将来気になってしまうかもと思い、幼稚園生くらいの私を病院に連れていったこともあったけれどあまりに泣いて嫌がるので諦めたそうだ。

小学5年生のころ、本当にほくろがあることが嫌になってしまった。
母に打ち明けるとすぐ整形外科に連れていってくれた。このままほくろがぽろっと取れるのかと思ったけれど、ほくろの位置が顔のバランスをとる場所にあるのでほくろを取るのはよくないと先生は言った。だからレーザー治療で色を薄くすることになった。

3カ月に1回遠くの病院に通った。太い注射器で麻酔をして、レーザーをほくろにあてる。レーザーはちょっと焦げ臭くてピリッとするくらいだから我慢できるけれど、麻酔注射が痛くてつらかった。
治療の後は一週間ほど薬を塗って、日に当たらないように絆創膏を貼ったり、その絆創膏も不格好だからマスクをしたりして過ごした。マスクをしているとほくろを隠す言い訳になるから楽だった。

私がほくろにコンプレックスを抱えていることを親は理解してくれていた。母の友人が「ほくろは神様からのキスなんだよ、だから理来ちゃんは良いところにキスされたんだよ」と言ってくれたり、「そのほくろはチャームポイントだよ」とか「化粧で隠れるから大丈夫」と言ってくれたりすることがあった。
でも同世代でこういうことで悩んでいる人なんていなかったし、むしろ小学生によくある無邪気な好奇心でほくろのことを言われることもあったから大人に励まされても子どもの世界ではやっぱり嫌になっていた。

治療は高校生の前半まで続いた。
私の意思を尊重してくれた親も、私の高校卒業後の進路まで心配してくれるようになった病院の先生も、私のほくろに何も言わなかった友人も、みんなとても優しかった。

ほくろは色が薄れて、ひとまわり小さくなったような感じがした。

環境も変わり大人になって、人のコンプレックスを無邪気に指摘するような人はいなくなった。知り合いの子どもを抱っこしたら私のほくろをボタンか何かと勘違いして触られたこともあったけれど、それすら可愛いなと思えるようになった。

私のほくろは結局なくなることはない。
今も鼻の下にちゃんといるし、なぜかそこから毛が生えるので定期的に剃らないといけない。

でも目立たなくなったし、本気出してコンシーラーをガンガン叩きつければ多分消える。周囲も「なんでほくろがあるの」とか「ほくろないほうが可愛い」とか言ってきた年齢ではない。遠慮とかデリカシーとか持っていてちゃんとしている。ほくろに気が付かなかった、と言われることもある。

大人になって良かったと思う。
ほくろがないほうが気楽だったけれど、あるものはどうしようもない。

神様は私の口は誰かに譲って、その上にキスしたんだなとか考えながら鏡を見つめるだけである。

ちょろい女子大生の川添理来です。