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笑える料理の店「くすくすレストラン」をつくりたい

 楽しく食事したいものです。笑いが大切です。レストランの料理そのものが笑えるのなら楽しくなりますね。笑いは、楽しいだけではありません。ガンの予防など健康にも効用があります。また笑いのビジネスも成長中です。人びとは笑いを求めています。これに応える、笑える料理の店「くすくすレストラン」をつくりたいですね。

●「笑い」はコミュニケーションと健康のため

 なぜ笑うのか。笑いは人類にとって重要な機能があるからです。犬が階段からすべり落ちたり、赤ちゃんが眠いのをガマンしてごはんを食べたりする動画は笑っちゃいますね。18年ぶりの優勝に喜び、そして笑っている人もたくさんいます。
     
 笑いの理由は大きくわけると二つになるようです。ひとつは他人との関係性。家族や友だち、仕事仲間などとはいつも笑顔です。初めて会う人とも笑顔であいさつします。良好な関係を相手に示す必要があるからです。
      
 もうひとつは自分の喜びにつながるものです。お笑いやコメディを見て笑う。ときには人の失敗、自分のしくじりなどで笑います。笑うことによって気持ちが解放され、これが心と身体に良い影響を与えます。20世紀の後半になって、科学的に笑いが健康に貢献することがわかってきました。

●笑うことで病気を癒す

 笑いの医学的な研究はアメリカのジャーナリストで医学教授でもあったノーマン・カズンズからはじまりました。
    
 彼は1964年に「全快のチャンスは500にひとつ」という難病(強直性脊椎炎)に苦しみました。このとき「どっきりカメラ」のフィルムやユーモア本を病室に持ち込み、笑うことで病気を改善させていきました。
    
 「十分間腹をかかえて笑うと、少なくとも二時間は痛みを感ぜずに眠れるという効き目があった。」と述べています。この経緯を医学誌にレポートし、さらに1979年に出版。彼の活動によって笑いと健康の研究が進みました。
   
 日本でも笑いによる病気の改善の研究が行われています。日本笑い学会顧問の井上宏関西大学名誉教授は「笑い学のすすめ」として以下のように述べています。

 一九九一年十二月、岡山県の伊丹仁朗医師がガン患者を含めた患者八名と健康人一一人の計一九人を吉本興業の「なんばグランド花月」に連れて行って、漫才・漫談・喜劇などを鑑賞して笑ってもらった。もちろん笑いには個人差があるのは言うまでもない。笑う前に血液採取、また舞台が終わってから血液採取して、前後のデータ比較を行った。データの結果から、「NK活性がサンプル平均値以下の低いものは、笑いの体験によって上昇傾向をとることが示唆された。その変化は免疫療法剤の注射による効果よりも即効的であった」ということが明らかになった。(『精神対話論』「笑い学のすすめ」より)

 笑うことでガン細胞を攻撃する役割のあるナチュラルキラー(NK)細胞が活性化するということです。このほか「笑いは関節リュウマチ患者の痛みを緩和する」「笑いは血糖値を抑制する」などについても述べられています。
    
 無理に笑うことでも効果があるようです。お金のかからない笑いで病気の予防や改善ができるのならチャレンジする意味があります。

●笑いのビジネスも成長。笑いは必要とされている

 笑いのビジネスには漫才や落語、伝統芸能の狂言もあります。アメリカならスタンダップコメディ。「笑点」のようなテレビ番組、コメディ映画、ジョークの本、ギャグ漫画もあります。YouTubeには犬や猫が笑いを誘う動画がアップされています。アナウンサーの放送事故のような悲喜劇も人気ですね。
     
 しかし笑えるのか笑えないのかは人による場合もありますから、お笑いビジネスの市場規模を正しく計るのは難しいと思います。そこでわかりやすい吉本劇場や寄席などのお笑いライブ市場の規模と動員数を見てみましょう。
     
 コロナ期を除いて安定して成長しています。要因としてストレス社会の高まりがあるのかもしれません。そのため人びとは笑いを求めていて、これからも増えていくと考えられます。飲食店ビジネスとして、ここにチャンスがあると考えます。

お笑い/寄席・演芸のステージ市場規模と動員数

●笑える料理はできるのか。勝負はアイデア

 料理を出して「笑いをとる」ことになります。動画にはなりませんし、ジョークにもできません。皿の上が勝負です。かなりハードルが高いかもしれません。
    
 「大盛お願いします」と注文したら、びっくりするような量の大盛がでてきたら笑う人もいるかもしれません。しかし「食べきれない」と青くなる人もいることでしょう。笑える料理ではありませんね。
   
 ピカチュウやサンリオのキャラクターがメニューになって出てくるキャラクター・レストランもあります。子どもたちは大喜び。でもこれも笑えることと少し違います。
    
 以前紹介したフードアートの店もあります。テーブルいっぱいにデザートで絵が描かれます。「面白い!」。しかし、これも笑いとは違います。
   
 笑えるレストランを探してみました。埼玉県・西浦和の「SEAGOD BURGER(シーゴッドバーガー)」。食品サンプルで出てくるようなスパゲッティが話題になっています。ちょっと笑えます。
   
 東京近郊で笑える料理の店を探してもなかなかありません。本格的な笑える料理を出す店はないようです。
   
 「笑える料理のニッチな飲食店」。笑い市場もある。潜在的にニーズもある。つまりチャンスです。ハードルは高い。しかし笑いのきっかけはアチコチにあります。アイデアが勝負になりそうです。

●実現のためのマーケティング。だれがターゲット顧客なのか

 マーケティングで考えるべき大切なことは「顧客」。店に来てもらえるお客さまはだれなのかです。
    
 だれでも笑いたい。だからだれでもお客さまになってもらえそうです。笑いたくないのはチャップリンの映画を見たときのヒットラーぐらいでしょう。だからこそターゲット顧客を絞らなくては、あやふやになってしまいます。
    
 「食べ物で遊ぶな」。私のような昭和世代は厳しくしつけられました。ターゲット顧客はやはり笑いを理解できる世代だと思います。
    
 「お笑い第7世代が好き」など、いつも新しい笑いを求めている人たちがターゲットです。2019年のお笑いライブの動員数は約500万人。お客さま候補は十分に存在しています。

●繁盛のための方法論。7Pのマーケティング・ミックス

 さてターゲットが決まったので、あらためてどんな店にするかをマーケティング・ミックスで考えてみましょう。4Pもよく使いますが、飲食店のようなサービス・ビジネスならプラス3Pで7Pも使えます。さっそく考えてみましょう。
     
(1)製品(プロダクト):笑えるメニューをつくり続ける
 「くすくす」なのか「ゲラゲラ」なのか、笑えるメニューの開発が必要です。しかも連続的に出し続ける必要があります。
   
 有名キャラクターや芸能人などのパロディを思いついてしまうかもしれません。これは著作権や肖像権の侵害になってしまいます。独自メニュー、オリジナルであることが重要です。
    
 メニュー開発はどのくらい大変なのか。ということで素人ですがサンプルを考えてみました。笑えるかどうかはさておき、どうやら動物ものはつくりやすいかもしれません。

五目チャーハン・酔っ払いネコのカレー・親子丼の親子

(2)価格 (プライス):笑えるメニューは安くない
 価格を近所の店にあわせる必要はありません。ニッチな飲食店は価格競争しないからです。
    
 笑える料理のメニューづくりとなると手間と時間がかかります。メーカー企業のように本格的に開発費用を販売価格に含める必要があります。ちょっとお高めになることは間違いありません。
     
(3)場所(プレイス):お笑いライブ劇場の近く
 笑いを愛するお客さまなら、吉本の劇場に通っているはずです。吉本の劇場近くで営業しましょう。飲食店はターゲット顧客の近くでビジネスをするのが原則です。「コバンザメ作戦だ」と笑ってほしいところです。
     
 寄席や演芸場の近くも考えられます。しかし中高年世代よりも若い世代のほうが、この店を歓迎してくれるはずです。
     
(4)プロモーション:口コミで拡散。新規のお客さまが来店
 プロモーションとは広告や販売促進などのことです。
   
 来店客はきっと友だちに口コミします。またSNSでも写真をアップするはずです。それが拡散して、新しいお客さまがやってくることになります。
     
 しかしSNSで見たメニューがそのまま出てくるだけでは落胆です。定期的に新しいメニューを出すことでお客さまの期待がふくらみます。再来店にもつながります。新しい笑えるメニューづくりが課題になります。

(5)人 (ピープル):お客さまといっしょにつくる
 「人」にはお客さまも従業員も含まれます。ここでは「お客さま」です。いっしょに笑える料理のアイデアを考えましょう。難題の笑えるメニューづくりがクリアできます。
     
 これは「共創体験」になります。お客さまとの距離がぐっと近づきます。顧客関係性の強化です。自分のアイデアがメニューになるならリピート来店します。友だちも連れてきます。店のモットーは「お客さまといっしょに」としましょう。
     
(6)プロセス:つくり方をお客さまに教える
 一般的にはサービスするまでの手順などの紹介です。物販ではモノが存在するので製品の良否はわかります。サービス・ビジネスでは、これがよくわかりません。そこでサービスのプロセスを紹介して品質の確かさを証明します。
     
 「くすくすレストラン」では笑える料理の制作手順がこれにあたります。つくり方をネットなどで紹介します。お客さまが家で試してみるかもしれません。それが来店や再来店の動機になります。
     
(7)物理的証明(フィジカル・エビデンス):店のつくりも笑ってもらいたい
 サービスは目に見えないので「物」がないと安心できません。飲食店ビジネスなら「店の存在」です。
     
 小売や飲食店のビジネスは立地で6割が決まるといわれていますね。(3)の場所で述べたように、お笑いビジネスの近くに立地することです。店のつくりも笑えるようにできれば最高です。

●まとめとして。飲食店ビジネスも笑いの重要性に目覚めるとき

 ヒトが進化の過程で獲得した笑いは重要な機能をもっています。しかし笑いはだれにも当然であるためまだまだ研究が進んでいません。
     
 「笑いと飲食店ビジネス」も当然考えられていません。冒頭でお話ししましたが、笑うことでNK細胞が活性化されて健康になれます。自分で笑うだけなら医療費もかかりません。笑える料理の店「くすくすレストラン」で健康の増進が期待できます。膨張を続け爆発寸前の国民医療費も救えるかもしれません。
      
 飲食店で「おいしいものをたくさん食べる」という時代はそろそろ終わりです。飲食店に食べるだけではない「新しい意味」を与える必要があります。
    
 笑える料理の店「くすくすレストラン」。ギャグでも考えながら真剣に計画してみませんか。
    
    
 すべるギャグなら「ニッチな飲食店のマーケティング企画室」におまかせください。スケートが得意です。しかもスピードスケート。あっという間にすべって見せますから。

<参考文献>
ノーマン・カズンズ/松田 銑訳『笑いと治癒力』岩波書店 2001
メンタルケア協会編『精神対話論』慶応義塾大学出版会 2013
伊藤一輔『よく笑う人はなぜ健康なのか』日本経済出版社 2009
木村洋二編『笑いを科学する: ユーモア・サイエンスへの招待』新曜社2010
ジェニファー・アーカー、ナオミ・バグドナス/神崎朗子訳『ユーモアは最強の武器である: スタンフォード大学ビジネススクール人気講義』東洋経済新報社 2022
経済産業省商務情報政策局『デジタルコンテンツ白書 2022』デジタルコンテンツ協会 2022

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