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読書|奥田亜希子「ポップ・ラッキー・ポトラッチ」

単行本(ソフトカバー):144ページ
読了までにかかった時間:70分

ある日宝くじで2億円という大金を手にしてしまった保育士の愛奈。

人一倍正義感が強く、それゆえ不器用に、でも生真面目に生きてきた愛奈は使い道を熟考した末、NPOに多額の寄付をしたり、Amazon「欲しいものリスト」を登録している見ず知らずの個人に贈り物をしたりして消費していく。

そんな愛奈の元に、浪費家で推し活重課金勢の従姉妹が転がり込んできたことから、愛奈の価値観にも変化が訪れ・・というお話。

見ず知らずの他人の「欲しいものリスト」を検索しては欲しがっている物を送り、ありがとうの礼も何もない、とモヤモヤを抱える愛奈。

別に何か返礼を要求しているわけではないけれども、感謝の意を見せようともしない受け取り人の態度に疑問を持つ。匿名で勝手に施しをしている立場なのに、なぜこんなにもモヤモヤするのか。

贈与と返礼。どこかで聞いたことのあるようなテーマだと思ったら、まんま「贈与論」のお話だった。確かに、タイトルに「ポトラッチ」とある!読んでいるうちに、タイトルのことをすっかり忘れていた。

「面白いのは、ポトラッチには返礼が義務づけられてることでね。先住民族のあいだでは、人からものをもらうことは、その人の魂を受け取ることと同義なんだ。他人の魂を持ち続けることは危険で、死をもたらすとも言われてた。‥」

奥田亜希子「ポップ・ラッキー・ポトラッチ」

内祝い論争や、年賀状の是非、奢り奢られとか貢いだ挙句の事件だとかなんやらかんやらの、昨今の話題が頭の中をよぎる。

ギブ&テイクが人間関係の基盤である限り、贈与と返礼は普遍的なテーマとしてこれからも論争が続いていくのだろう。(ほんと、贈り物とか気遣いって難しいですよね。親しい間柄だったりすると余計に。)


2023年5月号の「すばる」に掲載された作品の単行本化。
U-NEXTの「100 min. Novella(ハンドレッド ミニッツ ノヴェラ)」という、「約100分夢中で読める中編小説」がコンセプトのレーベルからの刊行だそう。

軽くて手に収まるサイズの単行本なので、紙で読むのも良し、U-NEXT会員なら無料なのでWEBで読むのも良し。サクッと読めるので、隙間時間におすすめです。

しかし、2億円うらやましいな。

奥田亜希子「ポップ・ラッキー・ポトラッチ」
U-NEXT 2024年4月26日発売


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