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別府で普通の旅館をせず、わざわざバリ島のデザインを再現した話

関屋リゾート 代表取締役 林 太一郎

私は、建築資材の営業から転身し、創業120年以上の歴史を持つ関屋リゾートの代表を務めています。はじめは経営の危機に瀕していた状況でしたが、常に革新的な挑戦を続け、デザイナーズ旅館の先駆けとして大分別府に導入し、入社時の売上から20倍以上の成長を実現しました。現在は、『お客様の人生の質を高める』というコンセプトのもと、3つの店舗を展開しており、2020年12月には、大型宿泊複合施設『GALLERIA MIDOBARU』をOPENしました。私の得意分野は、革新的なサービスの創造、そして、経営戦略の立案、実行です。趣味は旅行やスポーツで、新しい文化や人々との出会いを楽しんでいます。

【関屋リゾート 代表取締役 林太一郎 】

メインターゲットをわざと外す旅館

テラス御堂原正面玄関

別府市は大分県に位置する緑豊かな観光地で、湯けむりが立ちのぼる風景や別府湾の眺望が魅力です。夏休みや冬休みのシーズンには、家族連れの観光客が多く訪れ、九州でも有数の観光スポットとなっています。

「テラス御堂原」は2015年に開業したホテルで、現在の稼働率は90%を超えています。客層は東アジアを中心に、ヨーロッパ、アメリカ、オセアニアからも毎日多数の客が訪れています。

このホテルは別府に無い新しい形態の施設で、すべての客室に「テラス」と「客室露天風呂」が完備されています。さらに、「お子様お断り」の地元旅館の常識から外れた施設として特徴付けられています。

「バリ島のホテルのデザイン」を再現することがこの旅館のコンセプトとなっています。これにより、一風変わった体験が期待できる施設となっています。

バリ島のデザインの再現 「オープンエアの空間」

テラス御堂原 ロビー
ロビーから見える景色

屋内と屋外が柔軟に繋がる空間のコンセプトを踏襲。近代建築の広々としたリビング エリアと、扇山から別府湾にかけてのパノラマビュー、鶴見岳をはじめとする緑豊かな山々、自然の音を融合させるアウトドアとインドアの柔軟な繋がりをコンセプトとしています。

今では「テラス御堂原」からのこの別府の景色を目指して、多くのお客様がお越しになっています。

再現するきっかけ

魅力的な土地を探し求めて

数年にわたる土地探しの旅は、多くの挑戦を伴ってきました。様々な場所を訪れ、調査を行いましたが、結果としては、我々のニーズに合う土地を見つけることができませんでした。

なぜなら私はその土地自体に人を引き付ける魅力を求めていたからです。その妥協はしませんでした。

しかし、この視点を持った土地探しは、ブローカーにとって理解に苦しむ内容でした。なぜなら、我々が求める種類の土地は、転売などの商売には向かない可能性が高いため、彼らから見れば商業的な価値を見いだしにくいものだったからです。

このような課題に直面し、我々の土地探しの旅は更なる挑戦を必要とすることとなりました。

出会いと挫折

そんな時、大分銀行の担当営業マンからの一本の電話が、新たな旅館建設の希望を抱かせました。彼から教えてもらった情報によると、ある人が一部の土地を手放す可能性があるというものでした。その土地は我々が探していた土地のすぐ近くにありました。

その土地は広大で、アクセスは少々難しいものの、静寂な田園風景が広がっていました。ここに旅館を建てられるのではないかと考え、計画を進めていきました。我々のプロジェクトには、ブローカーも加わり、土地の所有者や地域の人たちとも直接対話を進め、計画を具体化していきました。

設計図面には、この土地の独自の特性を活かしたデザインが描かれ、10年以上前から思い描いていた棚田をテーマにした旅館のコンセプトを形にしていきました。そのコンセプトをもとに、多くのデザイン事務所と打ち合わせを重ね、最終的にDABURA.mの光浦さんという、私と価値観やセンスが近い方と共にプロジェクトを進めるパートナーとなりました。

しかし、残念ながら地権者との交渉が難航し、最終的に一人の地権者が土地を売ることも貸すことも拒否しました。これにより、旅館の計画は頓挫。夢見ていた新たな旅館の計画は、想像以上の挑戦を伴うこととなりました。

挑戦とデザインの再現

テラス御堂原を崖下から見上げる

計画が頓挫した後、希望を失って帰途につく途中で偶然見つけた脇道が、新たな可能性を提示してくれました。その道の先に広大な土地があり、見晴らしの良い場所に草ボウボウの状態ではありましたが、その草の向こうに私が追い求めていた魅力的な景色が見えると確信しました。

しかし、その土地に関する情報は隠されていて、情報を探し出すことは困難でした。それでも、土地の魅力に引き寄せられ、結局は人づてに所有者を紹介してもらい、直接交渉を進めました。元々のコンセプトとは少し乖離していましたが、その土地に合った旅館を作り上げるという新たな思いが芽生えました。

その土地の購入に目途がついた時、私はその土地から見下ろす別府の素晴らしい景色を目にしました。その時、私の脳裏には何度も訪れたバリ島の高級ヴィラでのホテル体験がよみがえりました。そこで生まれたアイデアは、バリ島の特定のホテルの開放的で客室が広がるウイングのような特徴的なデザインを再現することでした。

私はそのデザインを再現することを決意しました。そして、完成した旅館は、各部屋に展望テラスを備え、それぞれのエリアが細分化された店舗利用スペースとなりました。こうして、当初の計画から10年後、私たちが夢見ていた旅館がようやく完成したのです。

楽しい仕事をするために

私はしばしば、「なぜ成功した同じような宿泊施設を再現しないのですか?」と尋ねられます。しかし、私は常に新しいものを作り出すことに意欲的で、同じことを繰り返すのは退屈だと感じています。私は自分たちが最大の競争相手であると常に心に留めています。新たな挑戦を歓迎し、何よりも仕事を楽しむことを願っています。

たとえば、テラス御堂原では、バリ島のリゾートホテルを再現するという新たなアプローチを取りました。開放的な空間を通じて、客室からレストランへの移動中でも楽しさを提供することを目指しました。これは一見無関係に見えるかもしれませんが、実際には互いに関連しているという新たな視点を採用しました。

新しいものを作る際の不安や恐怖はほとんど感じません。それは自分が欲しいもの、行きたい場所を作り出すという強い意欲から来ています。そして、この感覚は他の多くの人々も同じように感じるのではないかと思っています。

バリ島への訪問は、当初はホテル建設のためではなく、単なる好奇心から始まりました。しかし、その経験が後に私のプロジェクトに役立つことになりました。特に特別な情報収集戦略を持っていたわけではありません。ただ、自分の感性や好奇心を信じ、それに従って行動することが重要だと考えています。そして、それが現在のプロジェクトに繋がったのです。楽しみながら仕事をする――これこそが、私が追求する働き方の真髄なのです。

文責:林晃彦
Twitter:aki_love_travel


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