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老舗旅館の経営者がデザインに振り切った旅館で成功した話

関屋リゾート 代表取締役 林太一郎

【関屋リゾート 代表取締役 林太一郎 】

私は、建築資材の営業から転身し、創業120年以上の歴史を持つ関屋リゾートの代表を務めています。はじめは経営の危機に瀕していた状況でしたが、常に革新的な挑戦を続け、デザイナーズ旅館の先駆けとして大分別府に導入し、入社時の売上から20倍以上の成長を実現しました。現在は、『お客様の人生の質を高める』というコンセプトのもと、3つの店舗を展開しており、2020年12月には、大型宿泊複合施設『GALLERIA MIDOBARU』をOPENしました。私の得意分野は、革新的なサービスの創造、そして、経営戦略の立案、実行です。趣味は旅行やスポーツで、新しい文化や人々との出会いを楽しんでいます。

デザインで振り切った旅館で成功した話

大分県別府市にある関屋リゾートが運営する「別邸はる樹」は、数ある旅館の中でも99%の稼働率を誇り、多くのお客様からの高い評価を得ています。この旅館は、今までになかった「デザイナーズ旅館」として誕生し、別府市でのモデルとなっています。これを成功に導いたのは、以下の3つの点に力を注いだからです。

・他にないもの

・本物であること

・相手を信頼し、信頼される関係性の構築

今回は、この3つの点について詳しくお話しします。

まずは家業の経営を立て直す

林は家業の旅館を立て直すために奮闘しました。
林の経営する旅館は競合する旅館と違い景観も露天風呂もなく、海も見えませんでした。そんな中、林が考えたのは先代から築いてきた「信頼」を活かすことでした。
林の父は毎日朝早くから魚市場に通い、その日とれた新鮮な魚を安価で提供していました。その誠実さは地元でも評判で、宿泊者以上のリピーターを獲得するほどでした。そしてこの魚を宿泊客にPRし、集客につなげました。結果、関屋旅館は過去最高の売上を記録することができたのです。

デザインに振り切ったタイミング

林はこれからの戦略として、集客に苦労していた状況を打開するために、「他にない」魅力を生み出すことが必要だと考えました。そのために、彼は「泊りたい」と思ってもらえる宿泊施設をデザインすることに決めました。
林は前職の経験から様々な図面を見る機会がありました。その中で彼は、通常の旅館を設計する際に、耐久性や丈夫さを重視することが一般的であることに気づきました。
しかし、彼はハードが商品である宿泊施設において、それだけでは集客につながらないと考えました。つまり、客に止まりたいと思ってもらうためには、「デザイン」にこだわる必要があるということです。
例えば、壊れやすかったり腐りやすかったり、弱かったりする建物でも、客に止まりたいと思わせる魅力的な要素があれば、集客につながるのです。このようなデザインに振り切る発想は、通常の設計士にはできないことであり、設計士とデザイナーの違いが出るところだと考えます。
そして、林は自身が、建築のことをよく理解していない宿泊業のオーナーさんたちとも、建築のプロセスや発注の仕方が異なることを感じました。彼のような建築家にとって、デザインと機能性を両立させることが集客につながる秘訣だということです。


別邸はる樹 芹の間

集客できるデザイナーとの共同作業

当時デザインを、情熱大陸で取り上げられていた松葉啓さんに依頼をしました。林はやるのであれば、「本物」の人、価値を認められ実績がある人と組みたいと思ったからです。
テレビを見ていた林はその場で松葉さんに電話をしました。すると偶然大分へ来る予定があった松葉さんは会うことを承諾してくれました。
そこから林と松葉さんの共同作業が始まったのです。

デザイナーとの共同作業は、重要なポイントがあります。そのためには、デザイナーの描きたいものを大切にすることが必要です。

例えば、建築の外観や内装について、自分自身の好みや使い勝手などを重視してしまうと、デザイナーのアイデアやセンスを十分に生かすことができません。そのため、デザイナーに描かせることを大切にし、自由な発想を促すことが重要です。

特に、プロのデザイナーに依頼する場合は、その方が得意とする分野やスタイルを生かしたデザインを求めることが必要です。そのためには、最初はほとんど口を出さず、デザイナーにできるだけ自由に描いてもらうことが重要です。

いかに自由な発想をしてもらえるか。そのためには、相手の得意分野を知り、理解し、相手が気持ちよく描き切ってもらえるようサポーターに徹することも重要です。そのために林は勉強を欠かせないといいます。
そして建築物や内装などに対して、デザイナーが自分のセンスやアイデアを十分に発揮できるように、自由な発想を促す。
これが共同作業で成功するポイントとなります。

別邸はる樹 半露天風呂

別邸はる樹の完成!その後の発展

「別邸はる樹」は2005年に完成し、最初の数年間は周囲に受け入れられることに苦労しました。この宿泊施設は、別府地域ではまだ見られなかったものであったためです。しかし、周知され始めると、周囲のメディアに注目され、多くの人々が宿泊するようになりました。その結果、別府で新しい価格帯のマーケットを開拓することに成功し、付加価値の高い宿泊施設として成長しました。さらに、コロナ禍においても稼働率は80%以上と高い水準を維持し、人々から愛される旅館へと成長しました。その後、別邸はる樹を模倣するように、別府市に多くのデザイナーズ旅館が誕生しました。

現在、「別邸はる樹」は稼働率99%を誇り、連日満室が続いています。それは広告に力を入れているからではなく、この宿泊施設が別府の中で「他にないもの」「本物であること」を示せたためです。そして、ここで得た経験は関屋リゾートの発展に関わってくると考えられます。

記事:林 晃彦
Twitter:https://twitter.com/aki_love_travel



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