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ザ・ドキュメント・オブ・共テ国語2024第6回(小説完結編)~大学受験生応援コラム1月

小説問題、残りを解答します


’** 0 はじめに ***

当コラムに目を留めていただき、ありがとうございます。大学受験国語の勉強に資する内容提供を目的に書いています。

「ドキュメント」では、講師が試験場ではどんなふうに問題を解くのかを文章化しています。なるべく編集なしで、考えた順番通りに書くようにしています。何かの参考になればと思います。

とはいえ、今回はいつもよりやや詳しめに説明を施しているかもしれません。例えば問6の表現に関する問題については、解くときの基本的な注意点なども書き込んでおきましたのでぜひ読んでみてください。

’** 1 まずは問3 ***

さて今日は、空白の行が入った後、現在の「イチナ」の様子を描いている場面から。今日で一応、小説を終わらせます。

まずは問3、傍線部B。これはBの直前に「言ってしまうと友人は」とあるのがとっかかり。

友人が何を言ったかといえば、30行目からのセリフ。「いや、これ言っていいのかな」で始まる部分。これが分かると気になるのは、23行目にある、友人の「すばやい沈黙」という語句。

「イチナ」が「おば」のことを友人に伝えると、友人は「すばやい沈黙」をした。自分の家にも「おば」が居候していたことがあったのを思い出したからだ。しかしそれを言っていいのかどうか友人は悩んだ。ただ今は電話中、「イチナ」が「おば」のことを話し出したから、会話は継がなくてはいけない。そこで友人が言ったのが「ちぐはぐな」「フーライボーとか、なまで見んのはじめて」(25行目)という返答だった。ここで友人は、ストレートにではなくとも、フーライボーである「おば」を見たと言ってしまっているのだが、「イチナ」はまだ気づかない。それもあって友人は「拭いきれていない沈黙」をする。これはまだ何か言いたいことがあるのに言わずにいることを示している。その沈黙を破ったのが、先の30行目からのセリフだった。会話の流れから「イチナ」がもし「おば」に電話を代わってしまうと、どうせ黙っている件も明るみに出ると思ったのだろうし、「おばさんと話すのは億劫?」という「イチナ」の誤解も解ける。言ってしまった後、友人はすっきりしたのか傍線部Bのように「気安い」声に戻っていた。。。やや詳しめに説明するとこんな感じだろうか。

この内容に合う選択肢は、「話さずにいた後ろめたさから解放された」とある④しかない。

’** 2 お次は問4 ***

次に問4。傍線部のない問題で、前回本文に印をつけておいた箇所。「糸屑を拾うイチナの様子」の意味を問う。

先の友人の告白を聞いたとき、糸屑を拾っていたイチナの手が止まったと、33行目にある。電話中に何かついやってしまうことって、ないだろうか? 今はワイヤレスイヤホンをつけて話す人も多いだろうけれど、これはおそらく電話を片手に持って話している場面だと思う(電話自体は、携帯でも家電でもいい)。片手はふさがっているし、耳は使っているし、意識は会話に一応向いているのだが、身体の他の部分は手持無沙汰なものだから、じっとしているのが何となくつらくて、つい動かして何かしてしまうものなのだ。別に大したことはしない。セーターの毛玉が気になってむしり取るみたいなことだったり、今回のように糸屑を拾ったりする程度のことである。

だからイチナが糸屑を拾っていた理由はその程度のものであって、深い理由はない。逆に言えば、特に動揺するようなこともなく会話が平穏無事に行われてるからこそ糸屑を拾っていた。それが友人の告白で止まる。それによってイチナは「狼狽」(37行目)する。しながらもまた糸屑を拾い始める(同行)。これは動揺を鎮めようとしたのだと考えていい。鎮められれば糸屑拾いは収まるはずだった。しかしいつまでも鎮まらないので糸屑拾いも止まらなかった(47行目)。細かく説明すればこんな感じだろう。

動揺のきっかけが30行目から友人のセリフであることが書かれており、糸屑拾いと動揺とが関連していることがきちんと指摘出来ている選択肢は②だけなので、これが答えでいいだろう。「動揺」だけなら①と⑤にもあるが、①は動揺する理由がとんちんかんだし、⑤は「共同生活を思い出せない」ことが本問では関係ない(それが関係するのは問5)。

’** 3 ここで問6 ***

…と、ここまで解いてきて、問6をスルーしていたことに気づく。今回、ちょくちょくスルーするなあ、評論の時もやった。表現の問題か。

先に問6を解こう。技法を使って表現されていることが本文においてどういう効果や意味を持つかという問題。例えば選択肢⑤であれば、まず倒置法によって「氷山の一角」という語句が強調される。そして氷山の一角「みたいに」と書かれているからこれは比喩表現なのだが(この時点で、技法の指摘に誤りがないこともちゃんと確認しておく)、この表現は水の中に隠れた大きな塊があることを示す言い方なのだから、イチナには見えていないおばの内面が…しかも、相当に大きくて深い内面が…あることを強調することになる。その内面のことを選択肢では「うかがいしれなさ」と書いている。

このように、「表現の指摘が正しいか」「その効果の指摘が正しいか」「本文内容と矛盾やずれはないか」を検討しなくてはいけないので、結構大変な問題ではある。ただ今回は②が正解とすぐに分かるだろうから、おそらく③以降の選択肢を検討する必要はない(しない方がいい、と言うべきか)。②の比喩表現はどう考えても、夕日が徐々に沈む様子を表しているのであって、子どもたちがそれこそ暗くなるまで「おば」と一緒に過ごしていたことが分かる部分である。それを「子どもたちの意識の変化」って、なんだ? この選択肢を答えとして…つまり、不適切な選択肢として…選ぶのは、おそらくそんなに難しくない。

’** 4 戻って問5 ***

さあ、長くなったので、問5はさくっと終わろう。

傍線部Cの前では、人間の内面が話題になっている。普通の人間には内面の輪郭があらわになる場面がある(60行目)なのに、「おば」にはそれがない。イチナはそれを見抜きたいと思っているらしい。これが書かれている選択肢は②しかない。これで終わり。

最後の問7は、「じっくり解説」で扱いたいと思うので、小説編はこれで終了にします。次回からは古典に入ります。


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