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大学受験生応援コラム~5月・漢文2

返り点をつける問題は、いかに攻略するのか(2)


’*** 0 はじめに  ***

当コラムに目を留めてくださり、ありがとうございます。

本コラムは、高校生や大学受験生の役に立てればとの思いから書かれています。主に大学入学共通テストの国語を素材として、問題の解き方や勉強法のヒントになりそうなことを書いていきます。

今月は「漢文」、今後も出題必至の「白文に返り点をつける」問題を取り上げています。


’*** 1 前回の復習  ***

前回は、白文に返り点を付ける問題をどのように攻略するのか、その注意点を述べました。ここで復習がてら、今一度やり方を整理しましょう。

(1)まずは白文前後の話の内容をきちんと把握します。これをしておかないと傍線部の意味を取り違えます。

(2)傍線部の動詞を発見します。同時に動詞の語法を考えます。特に「~を」「~に」それから「~と」を伴うかどうかを検討します。「鬼と(=を、に、と)会ったら返れ」と俗に言われますが、「~を」などを先に読み、その後動詞に戻って読みます。
*「於+名詞」の形は、大抵「~に」と送り仮名がついて動詞に返読させますので、注目です。

(3)漢文といえば句形の勉強のようなものです。受け身、否定、反語…様々な句形を覚えているだろうと思いますが、それよりも上に挙げた動詞の発見が最優先です。句形に気付ければそれに越したことはないですが、大体最近は、返り点を付ける問題に句形が関わることはありません(だから質問が多いのでしょうけれど)。

問題への対策としては、むしろ「返読文字」の方が重要だと、私は考えています。数が少なくないからなのか、案外皆さん、返読文字を覚えていません。

述語になる「有、無」「多、少(寡)」、助動詞の「不、可、使」、助詞の「自、与」など、覚えてみればそんなに多くありません。滅多に出ない句形を覚えるより、こちらをきちんと頭に入れる方が漢文読解上も効率的です。

(4)最後に、返り点をつける問題を攻略するうえで重要と考えることを書いておきます。

それは、「選択肢に頼らず、自分で返り点をつける練習を積み重ねる」ことです。これはある種の技術です。技術は練習すれば必ず身に付きます。

私の場合、選択肢を見るのは漢字の読み方を確認するときだけにしています。

この「自分で付ける練習をしてほしい」というのが、今月最も訴えたいことです。勿論、最初は簡単ではありません。返り点をつけるのはいわば総合問題、文脈理解や文法語法、漢字の意味などあらゆることを総動員して解く問題です。当然失敗します。

しかし、失敗から学んで練習を積めば、必ずできるようになります。自分でつけられるようになれば、選択肢で迷わされることもなくなります。二次試験で漢文が出題される際にも役に立ちます。

是非今のうちから、こつこつ練習を積んでいただきたいと願います。

では、説明はこれくらいにして、早速共通テストの過去問で実践してみましょう。


’*** 2 2022年度共通テスト 大問4問2  ***

問題は、大学入試センターのHPからダウンロードできます。赤本などをお持ちなら、それでも結構。では早速。

大学入試センターHPは、こちら。「令和4年度本試験 国語」をご覧ください。

https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/kakomondai/r4/r4_honshiken_mondai.html

傍線部A「客有呼之入匣奉帰余園者」に返り点をつけよという問題です。

まず、前後の文脈を簡単に説明しますと・・・

以前筆者が家の庭で見かけた「太常仙蝶」という珍しい蝶が、ある名家の庭にも現れた。

傍線部A

我が家の庭園で箱を開けると、空っぽだった。
*この庭園は、傍線部Aに「余園」とあるので、筆者の家の庭園です。「余」=「私」の意味。時代劇などで将軍様(ほぼイコール松平健さん)が使う表現ですね。
*なお、「匣」は「箱」の意味です。

1 動詞を発見する。動詞はさらに文型や語法を考える

この文には動詞がたくさんあります。順を追って見ますが、最も重要なのは、2文字目の「有」です。

「有」は返読文字で、後ろに主語が来ます。よって、Aの最初にある「客」は主語ではありません。選択肢を見ても、全て「客に」と読みが統一されています。

そしてここで重要なことは、「有」の後、どこまでが主語なのか、できれば確定することです。せめて、おおよその見当はつけましょう。

傍線部Aの最後に「者」という、いかにも主語になりそうな語が控えています。「~者有り」とは、いかにも漢文に出てきそうな言い回しでもあります。

以上の検討から、傍線部Aは「客に『呼~園』者有り」と読むのだろうと分かります。文中の「有」のポジションから見ても主節の動詞でしょうから(第一回で取り上げた「漢文の文型」の話を思い出してください)この読み方で間違いないでしょう。これで文の骨格ができました。

この時点で、選択肢①⑤は間違いとして除外されます。これだけの作業でも勝率は随分上がります。

ところで、この文には動詞がたくさんあると、先に書きました。ただ、残りの動詞は全て先ほどの

「客に『呼~園』者有り」の中の『呼~園』に含まれます。つまり、文中の「者」の修飾語として機能しています。残りの動詞を一気にチェックします。

上から順に、まず「呼」。「~を呼ぶ」という形が一般的でしょう。直後の「之」が「~を」に相当します。「之を呼ぶ」と読むことが確定。ちなみに、「之」は蝶を指します。

次に「入」。「~に…を入れる」くらいの形を念頭に置けばいいでしょう。直後の「匣」が「~に」に相当します。「匣に入(い)る」。ちなみに、「…を」は省略されていますが、蝶です。

3つ目、「奉」。「~に…を奉る」くらいの形を念頭に。ただし今回は、直後が最後の動詞「帰」ですので、目的語や補語は省略されています。ちなみに、「私に蝶を」の省略です。

最後の動詞「帰」。直後の「余園」は作者の家の庭。「蝶を我が家の庭に返す」というくらいの意味になるでしょうか。「余の園に帰す」。

これで読む順番は確定します。なお、途中の送り仮名は全て終止形で付けていますので最終的に若干変わっていきます。本問は、あくまで漢字を読む順番を確定することが趣旨です。細かい送り仮名の違いにこだわりすぎないようにしましょう。

まずは冒頭の「客に」を読んだ後、『 』部分を全て読みます。文末の「者」を修飾する部分です。「之を呼ぶ」→「匣に入る」→「奉る」→「余の園に帰す」の順でした。これで

之入 匣奉帰 余園

次に「者」を読み、最後に「有」を読みます。主語と述語でした。途中で一二点を使ったので、ここは上下点を使います。

これで、

「客有 之入 匣奉帰 余園

と返り点をつけることができました。このようになっている選択肢は④です。おしまい。

今回も最後までお読みくださり、ありがとうございました。次回は24日(水)にアップ予定、もう一問、過去問の解説をします。



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