吸血鬼以下、吸血鬼もどきは世界の隅で生きている。「血の共鳴者」
あらすじ
少年・小島は、血への異様な執着に悩まされている。
憧れのクラスメイト・高野由香の指先から滴る血に唾を飲み込み、欲望に駆られてしまった彼は、彼女を助けるふりをして指を舐めてしまう。
事件をきっかけに、彼は変態扱いされ、周囲から孤立していく。
そんな彼のもとに現れたのは、妖艶で謎めいた女性・岩倉静流だった。
静流は「吸血鬼もどき」を名乗り、伝統的な吸血鬼のように噛みつくのではなく、血を飲み込み、体内に特殊な菌を宿すことで血を栄養にできる異形の一族の末裔だという。
静流の血族は、血に対する嗜好を持つ人間を見つけ出し、生きた食料として利用することで自らの血を補ってきた。
しかし、それは共生でもあり、相手の菌を得ることで肉体的な欠陥を補うためでもあった。小島は、彼女にとって理想的な「食料」として選ばれたのである。
彼女は小島に、彼の血がこの先も自分の一族を救う重要な役割を果たすと語りながら、別の目的も告げる。
逃亡した同族の若者がこの街に潜んでおり、彼を探し出すためにやって来たのだという。
その若者は、古い村で近親相姦と食人による独特な風習の中で生まれ育ったが、現代社会に逃げ出した。
そして、自らの血の渇望を満たすために再び人間を襲い始めているという噂があった。
静流と小島は奇妙な協力関係を築き、逃亡者を追うことになる。
しかし、静流の血族の暗い歴史や、小島の抑えきれない血への執着がもたらす悲劇は、二人の運命を引き裂く方向へと導いていくのだった。
登場人物プロフィール
主人公
小島 蒼太(こじま そうた)
年齢:17歳(高校2年生)
容姿:痩せ型で背が低く、少し青白い肌。黒髪を無造作に伸ばしているが、常にうつむきがちで陰鬱な雰囲気を醸し出している。目つきはどこか獣のように鋭く、疲れた印象を与える。
口癖:「…ごめん」「それ、悪いのか?」
好きなもの:血の匂い、夕暮れ時の静けさ、音楽(特にオルゴール音楽を好む)
嫌いなもの:人混み、騒がしい場所、矯正しようとする周囲の視線
性格:血への異常な執着に悩んでいるが、根は繊細で優しい性格。周囲から孤立しているため内向的で、自己肯定感が低い。自身の「異常性」を隠そうとする一方で、実は自らの欲望を正当化したいという葛藤も抱えている。
ヒロイン
岩倉 静流(いわくら しずる)
年齢:見た目は20代後半だが実年齢は不明
容姿:
口癖:「私の血族にとって、あなたは特別よ」「ほら、もう少し近づきなさい」
好きなもの:ワイン(特に深紅のもの)、薄暗い場所、夜の街
嫌いなもの:偽善、強者を気取る人間、狭い空間
性格:冷静沈着で狡猾だが、小島に対してはどこか母性的で保護者のような面を見せる。吸血鬼もどきとしてのプライドがあり、血族の暗い歴史や役割を受け入れているが、内心では孤独を感じている。小島と出会うことで、自らの血族としての役割に疑問を抱くようになる。
敵役
長嶺 篤志(ながみね あつし)
年齢:20代前半(血族の一族で、異形の存在としての力を持つ若者)
容姿:痩せた体型で、黒ずんだ瞳と頬がこけた顔立ち。目の下には暗いクマがあり、動きはどこかぎこちなく、不気味な雰囲気を醸し出している。人間としての感情が乏しいため、表情が乏しく無機質に見える。
口癖:「僕の渇きを止められると思うのか?」
好きなもの:血を浴びること、暗闇、孤独
嫌いなもの:にぎやかな場所、人間の温かい感情
性格:血に飢えており、人間への共感がほとんどない冷酷な性格。かつては吸血鬼もどきの一族に属していたが、今はその伝統に反発し、自分自身の欲望に忠実であることを選んでいる。現代社会での生きづらさと、古い風習に囚われる一族への不満から人間社会に敵意を抱く。
サブキャラクター
高野 由香(たかの ゆか)
年齢:17歳(高校2年生、小島の憧れのクラスメイト)
容姿:清楚で可憐な外見。柔らかな茶髪のセミロングで、優しい笑顔が特徴的。スポーツが得意で健康的な肌を持ち、無邪気な明るさが人を引きつける。
口癖:「それ、大丈夫?」「何かあったら相談してね」
好きなもの:友達と過ごす時間、クラブ活動(バスケットボール)、家族との団らん
嫌いなもの:嘘つきな人、陰口、怖い話
性格:純粋で明るく、クラスメイトに対しても優しい。小島が異常な行動を取った際も心配して声をかけるが、周囲の視線を気にしつつも彼のことを気にかけている。
「血の共鳴」第一章(序盤)
僕は、自分の中にある異常な衝動を、誰にも悟られないように必死で隠していた。
人前で何かの拍子に血の匂いが漂ってくると、心臓が跳ね、体の奥が熱くなる。
この感覚が異常であることは、僕自身が一番よく分かっていた。
それでも抑えきれない。
抑えようとすればするほど、より強く、その欲望は胸の奥で鼓動しているかのように蠢いてくるのだ。
ある日、学校の廊下でその衝動がついに抑えきれなくなった。
憧れのクラスメイト、高野由香が転んで、指から血を流しているのを見てしまったときだ。
小さな傷から滲む赤い血が、彼女の白い指先にゆっくりと滴り落ち、僕は息を呑んだ。理性の欠片が、あらゆる思考を押しのけてただ一つの行動を促す。
「…大丈夫?」
気がつくと、僕は由香の近くに立っていた。
彼女の指先に近づき、その滴る血に目を奪われるように見入っていた。
顔を上げると、彼女は驚いたように僕を見つめている。
「え?あ、蒼太くん…ありがとう、大丈夫だよ。」
その一言が、僕の中に押しとどめていた衝動を解き放った。
僕は震える手で彼女の手を取り、何か言い訳をしようとしたが、もう遅かった。
意識とは裏腹に僕は、彼女の指先を掴み、思わず血の滴りを舐め取ってしまったのだ。
その瞬間、僕の全身を駆け巡る異常な快感と安堵、そして瞬く間に駆け抜ける後悔と嫌悪感。
その場にいた他のクラスメイトたちも僕の行動を見て、ざわざわとささやき始めた。
そして、彼女の怯えたような目が、今も脳裏に焼きついている。
翌日から、僕は「変態」と呼ばれるようになり、周囲の視線が一層冷たくなった。
どんなに説明しても、何をどうしても信じてもらえるはずがなかった。
そして、その日から僕の生活は一変し、孤立する日々が始まった。
次のステップ
ここまでが序盤の出来事と主人公の衝動が爆発する部分です。この続きとして、静流との出会い、彼女の登場により少しずつ「血」に対する自身の性質を理解していく過程などを描いていきましょうか?また、このあとの展開についても、追加したいエピソードや希望するシーンがあればお知らせください。
「血の共鳴」第一章(続き)
学校での孤独な日々が続いた。
友人たちは僕を避けるようになり、クラス中での存在感がますます薄れていく。
廊下を歩くと、背後からひそひそとした声が聞こえ、笑い声がいつも僕を嘲笑うかのようだった。
僕は誰とも目を合わせることなく、下を向いて過ごすようになった。
そんなある夜のことだった。
家族が寝静まった頃、外の冷たい空気を吸いに自宅の玄関を出た。暗い夜空を見上げると、雲の切れ間から月がわずかに覗いている。静かな空気が、心の中のざわめきをほんの少しだけ和らげてくれた。
「血の味が忘れられない?」
ふいに、耳元で低い女性の声がした。振り向くと、
そこには長い黒髪と艶やかな目を持つ美しい女性が立っていた。
彼女の肌は白く、吸い込まれるような深い瞳が、僕をまっすぐに見つめている。
「…誰ですか?」
僕は思わず後ずさりしながら尋ねたが、彼女は微笑むだけで何も答えなかった。
薄暗い月明かりに照らされた彼女の姿は、現実のものとは思えないほど幻想的だった。そして、彼女が再び口を開く。
「私の名前は、岩倉静流。あなたと同じで、血に引かれてここに来たの。」
その言葉に、僕は体が硬直するのを感じた。
「同じ…?」という言葉が頭の中で反響し、自分が無意識に抱えていた欲望が、彼女によって見透かされているかのようだった。
「なぜ、僕がそんな…。」
「あなたのことは知っているわ。
高野さんの指から血を舐めたでしょう?あの場面、素敵だったわ。」
彼女の言葉に顔が火照る。
彼女は、どこか冷ややかで鋭い視線を僕に向けていたが、その目には奇妙な親しみさえ感じられた。
「私は、あなたのような存在を探していたのよ。血に執着し、その味を渇望する人間を。あなたには、私たちの血が流れているわけではない。でも、あなたのその執着は、私たちの世界にとって…とても価値があるの。」
彼女の言葉はどこか謎めいていて、理解が追いつかない。
しかし、僕の内なる欲望が再び目を覚まし始めるのを感じた。
彼女の言葉、彼女の存在、そして何よりも彼女の目の奥にある深い暗闇が、僕を無言で誘っているようだった。
「私たちは、普通の吸血鬼とは違うわ。血を飲むのではなく、血に宿る菌を取り込むことで生きる『吸血鬼もどき』なの。」
そう言って、彼女は軽く笑った。
だがその笑みには、どこか陰鬱なものが漂っている。
僕は彼女に対して何かを言いたかったが、言葉が喉で詰まってしまう。
彼女が僕を見つめるその目は、まるで僕の心の中まで見透かしているかのようだった。
「あなたの中には、まだ抑えられない血の欲求がある。そして、その欲求こそが、私たちにとって必要なものなの。あなたが私と契約すれば…その飢えを少しだけ和らげてあげられるかもしれないわ。」
「契約…?」
彼女の言葉は、不思議な魅力を帯びて僕を引き寄せる。
まるで、この世の何か大きな秘密に触れるような感覚だった。
静流の提案が何を意味しているのかも分からず、僕はただ彼女に導かれるまま、一歩一歩彼女に近づいていった。
「さあ、こっちに来て。あなたには、私の血が必要になるわ。そうすれば、私たちの世界の一部に…。」
彼女が手を差し出すと、僕はなぜか迷いなくその手を取っていた。
彼女の手は冷たく、それでいてどこか温かい感触が指先に伝わってきた。
その瞬間、僕の中に今まで感じたことのない、奇妙な共鳴が生まれたのだ。
彼女の冷たい手に触れた瞬間、僕の中に何かが流れ込んできた。
静流の目はまるで底の見えない暗い井戸のようで、吸い込まれそうなほど深い。
彼女が何者なのか、どうして僕に興味を持っているのか、頭では理解できない。けれど、不思議と恐ろしさは感じなかった。
「契約と言ったけれど、そんなに堅苦しいものじゃないのよ」と、彼女が微笑んだ。
「あなたに、私の血を少し飲んでほしいだけ。それで、私たちは結ばれる。」
「…どういうことですか?」
彼女はそっと手を離し、袖をめくって細く白い腕を僕の前に差し出した。
僕の目は無意識のうちに、彼女の肌に浮かぶ青い血管に釘付けになる。
その青色は、まるで誘うように僕の視界に広がっていく。
「私の血は、普通の人間にはちょっと刺激が強いかもしれないわ。でも、あなたにはそれが必要なの。あなたが血を欲する欲求が、ただの本能ではないってことを証明してあげる。」
僕の体が反応してしまう。口の中が渇き、彼女の腕に吸い寄せられるように顔を近づける。
彼女は腕を僕の前に差し出したまま、微動だにしない。その穏やかな表情には、僕を見守るような優しささえあった。
「少しだけ…少しだけなら、いいですか?」
彼女は黙ってうなずき、僕に微笑みかけた。
その微笑みが、僕の中の不安をほんの少しだけ和らげてくれる。
僕は彼女の腕に口を近づけ、唇を当てる。生温かい感触が僕の唇に伝わり、その瞬間、かすかに鉄のような香りが鼻腔を満たす。
思わず唾を飲み込み、彼女の血の匂いに頭がぼんやりと霞む。
「…飲みなさい。」
彼女の囁き声が耳元に届き、僕の中の欲望が決壊する。
唇を開き、舌で彼女の肌をなぞると、血の一滴が口の中に広がる。甘美で、濃厚で、身体の奥底に響くような味だった。
ほんの一滴の血なのに、まるで心臓が一瞬止まったかのように全身が震える。
「どう?」
静流が僕の顔を覗き込んでくる。
僕は、彼女の血の味に酔いしれたような感覚に呆然としていた。
彼女の血はただの液体ではなく、何か不思議なエネルギーが宿っているように感じられた。
その感覚が僕の体を駆け巡り、骨の髄まで染み込んでいく。
「…すごい…なんだか、体の中が…熱い。」
彼女は満足そうに微笑んだ。
「それでいいの。あなたはこれから、私と繋がり続ける。そして、私が必要とした時には、また私の血を飲みなさい。その代わり、あなたの血も私のために提供してもらうわ。」
「僕の血を…?」
「そうよ。あなたの血は、私たちにとって特別なの。あなたが感じているように、私の血もあなたを満たすけれど、あなたの血も私を満たす力がある。共鳴し合うことで、お互いが補われていくの。」
彼女の言葉に、僕は理解が追いつかないまま頷いた。
彼女と僕の間には、言葉では説明できない奇妙な絆が生まれていた。
僕は彼女の血を飲むことで、彼女と一つになったような気がした。
第二章:逃亡者の影
その日から、僕は静流と密かに会うようになった。彼
女は日中は姿を消し、僕の前に現れるのは決まって夜だった。
僕が彼女の血を求めていること、そして彼女が僕の血を求めていることは、誰にも言えない秘密だった。
ある夜、彼女は僕に、新しい任務を与えた。
「この街に、私たちの血族が逃げ込んでいるの。彼は普通の人間を襲い、血を吸い尽くしてしまうの。でも、ただの飢えではなく、彼の中には特別な欲望がある。」
「特別な…?」
「そう。彼は、私たちの中でも異端の存在。彼の欲望は、単なる血への渇望ではないの。彼が求めているのは、血の中に宿る『魂』そのもの。だから、彼が現れるところには必ず死が訪れる。」
彼女の言葉に、僕は不安を感じた。
僕が抱える血への執着は、どこか理性で抑え込めるものであったけれど、彼女が語るその存在は、完全に理性を失い、本能のままに動くように思えた。
「その彼を…見つけるってことですか?」
静流は頷いた。
「彼を見つけ出し、私のもとに連れてきてほしい。あなたは彼の血を感じ取ることができるはず。私の血を飲んだことで、あなたの中にも私たちの血族の『感覚』が目覚めているから。」
その夜から、僕は静かに街を歩きながら、彼女が求めるその「逃亡者」を探すことになった。
心の奥底では恐怖があったものの、静流のために何かをしてやりたいという気持ちがそれに勝っていた。
街の中には、異様な気配が漂っていた。
目に見えない、しかし肌で感じ取れるような薄気味悪い空気が、僕の歩く道にまとわりつく。
静流の血を飲んでからというもの、僕の感覚は研ぎ澄まされ、周囲の些細な変化にも敏感になっていた。
そんなある晩、学校の裏手にある小さな公園で、奇妙な影を見かけた。背の高い男性が、ベンチに座って何かを呟いている。
彼の姿は薄暗い街灯の下で不気味に歪んで見え、その周囲の空気が異様なほど重く、息が詰まるようだった。
「まさか…あれが?」
僕の胸は高鳴り、息が荒くなる。
彼に近づこうとする足が、何かに引き止められるようにすくむ。静流の姿はどこにも見当たらない。
この場にいるのは、僕一人だった。彼が振り返ったとき、彼の目が異様な輝きを放ち、冷たい殺気が僕の背筋を這い上がっていった。
僕はその場から逃げ出したい衝動に駆られながらも、なぜかその場を動くことができなかった。
ただ、彼の目に吸い込まれるように見つめ返すしかなかった。
「君も…僕の血族か?」
彼の低い声が耳に届き、僕は背筋が凍るのを感じた。
彼の目には狂気が宿っており、僕の抱く欲望をはるかに超えた何かが渦巻いていた。
彼は一歩、また一歩と僕に近づいてくる。
僕はその場から動けず、彼の影が僕を飲み込もうとするその瞬間…
その時、空気が一変した。
何かが僕の背後で動いたような気がして、反射的に振り返ると、そこには静流が立っていた。
彼女の姿は、先ほどの異常な気配とは打って変わって、まるで夜の闇に溶け込むようにしなやかで、妖艶で冷静だった。
「お前が…」逃亡者はその目を静流に向け、口の端を歪ませた。「あの時の…。」
その言葉に、静流は無表情のまま彼に一歩近づいた。
顔を近づけると、僕には彼女の冷徹な視線がまるで剣のように鋭く突き刺さるのを感じた。
「逃げるな。」と静流が低い声で言った。
その声は、まるで命令のように響き渡る。
逃亡者は一瞬、瞳を見開いた。
しかし、すぐにその目の中に狂気が宿る。
彼は一歩踏み出し、静流に向かって駆け寄ろうとしたが、静流はその動きを予測していたかのように、素早く後ろに退き、その場から消えた。
そして、次の瞬間、彼が目を開けると、静流がもうすぐそこに立っていた。
「君は…もしかして、そういうことか。」
彼の顔に不安と疑念が広がった。
どうやら、静流は逃亡者にとっても特別な存在のようだ。
その意味が、僕にはまだよくわからなかったが、静流の冷徹な目と、逃亡者が示す恐れのような表情から、彼らの関係には何か深い秘密が隠されていることは感じ取れた。
「あなた、逃げられないわ。」と静流が言った。
彼女の声には、逃げることを許さないという決意が込められていた。
その言葉を最後に、静流は一歩踏み出し、逃亡者に向かって手を伸ばす。
その手は、冷たい月光の下で、まるで死神の手のように見えた。
逃亡者は恐怖に駆られたのか、必死に後ろに退いたが、静流の手が彼を掴んだ瞬間、彼の体はぴたりと動きを止めた。
そのまま、彼の体は静流の指先から流れるように、吸い込まれるかのように力を失っていった。
「私の血族…」逃亡者は、目を見開いて呟いた。
その声には、絶望が含まれていた。
静流は静かに目を閉じ、無言で彼の動きを止めた。そして、次に僕に目を向けた。
「これで…お前の役目は終わりだ。」
僕はただ立ち尽くすことしかできなかった。
彼女の言葉に、何とも言えない感情が込み上げてきた。
静流が言う「役目」が、単なる彼女との繋がりを意味しているのか、それとも何かもっと重大な責任を果たすことになるのか、今はその意味が掴めない。
だが、今僕はその答えを求める余裕すらなかった。
目の前で繰り広げられた光景に、僕の心は震えていた。
静流は無言で、倒れた逃亡者の体を持ち上げた。
彼女の動きはまるで死体を運ぶかのように無造作で、まるで彼の命を奪うことに何の感情も抱いていないかのように見えた。
その光景に、僕は不安と恐怖を覚えた。
「あなたも、私に何かを求めているわよね?」静流が振り返り、僕に言った。
僕は彼女の瞳に引き寄せられるようにして見つめた。そこで初めて、静流の目的を理解したような気がした。
彼女は僕に、血の渇望を満たす役割を与えた。
その代償として、僕は彼女の命を守る力を得たのだろう。
しかし、それだけではない。僕の血を静流に捧げることで、彼女と僕は一つの血族として繋がり、共鳴し合うという奇妙な契約を結んだ。
そして、静流が求める「逃亡者」を捕えるために、僕は使われている。ただ、それだけではないのだ。
「僕が求めているのは…」僕は言葉を飲み込んだ。
その言葉が、心の中で爆発しそうなほど渦巻いていた。
「僕が求めているのは…。」
「血の中で繋がること、そうでしょう?」静流は微笑んだ。
その微笑みは、僕を冷静にさせ、また一度、その冷徹さを思い出させた。
僕は小さく息を呑み、その答えに頭を下げた。
静流の冷徹な微笑みが僕の胸を締め付ける。
彼女の目の奥には、何か確固たる意志が宿っている。
それを見て、僕は自分がどこに足を踏み入れたのか、まだ完全には理解していないことに気づいた。
彼女の言葉通り、僕は今や「血族」の一員として、運命を共にする存在となったのだ。
静流が目を閉じ、しばしの沈黙が続いた。彼女の表情が、少しだけ柔らかくなったような気がしたが、それでもその瞳には冷徹さが残っている。
やがて彼女は僕の方を向き直り、低い声で言った。
「これからは、君も私の一部だ。逃げられない、解放されることもない。ただ、共鳴し続けるだけ。」
その言葉に、僕は言葉を失った。目の前で、逃亡者の体がゆっくりと静流の力で引き寄せられていく。
静流がその体を抱え上げ、さらに一歩、深い闇の中に歩みを進めると、周囲の空気が一層冷たく感じた。
僕は無意識に足を踏み出し、静流に近づいた。
彼女の後ろをついて歩くように、ただ黙ってついていく。
心の中で、何かが壊れ始めているのを感じていた。
静流との契約が、僕の中で急速に膨れ上がる欲望と混ざり合い、今後の自分をどう生きるべきかがわからなくなっていた。
逃亡者の体を持つ静流が、ふっと振り返る。
その顔に、普段の冷徹な表情に加え、わずかながらの冷笑が浮かんでいた。
「君は…私の血族として、これからも役立つ。だが、覚えておきなさい。血の中に潜む渇望を抑えることができれば、私たちは長い間、共に生きることができる。ただし、君がその渇望に飲み込まれるなら、私も容赦しない。」
その言葉を聞いて、僕の心が一層乱れた。
渇望?それは、ただの欲望だ。血への欲望。
それに僕が耐えられるのかどうか、今はまだわからない。
だが、それを抑えることができるのだろうか。静流の言葉が、胸に突き刺さる。
「静流さん、僕は…。」言葉がうまく出てこない。彼女の目を見つめることで、頭の中が混乱していくのを感じる。
「欲しいんでしょう?」静流が口を開く。「血が。あの逃亡者の血も、そして私の血も。」
その瞬間、僕の体が熱くなるのを感じた。
今すぐにでも、静流の血を飲みたいという衝動が湧き上がった。
だが、それは危険な兆しだと知っている。
血の渇望に支配されることは、僕の人生を終わらせることに繋がる。
「君がそれを飲み干せば、君は永遠に私と共に歩むことになる。それがどういうことか、君にもわかるだろう?」
静流の言葉が重く響く。
その言葉を胸に刻み込みながら、僕は静かに頷いた。
答えは一つだ。逃げることはできない。
もう、戻ることはできない。
それから数日間、僕は静流とともに街を歩き回り、逃亡者の足跡を追っていた。
静流は、何も言わずに僕を導き、ただひたすらに目的の場所へ向かって歩き続けた。
その間、僕は自分の中で沸き上がる血への欲望に必死で耐えていたが、静流の存在がそれを更に強めるように感じた。
彼女と共にいると、血の匂いが強く感じられ、その度に衝動が強くなっていった。
静流の血が目の前にあるという事実が、僕を苦しめる。
しかし、彼女はその渇望を煽りながらも、決してそれを許さない。
ある日、ついに逃亡者の居場所がわかった。
古びた倉庫の中に潜んでいたらしい。
静流は無言で倉庫の扉を開け、僕に一歩踏み出すように促した。
「お前の役目はここで終わりだ。私は自分の手で始末をつける。」静流はそう言って、倉庫の中に歩みを進める。
その冷徹な表情は、まるで自分の過去を切り捨てるかのような決意が込められているようだった。
僕はその後ろ姿を見つめながら、自分の胸の中に広がる血の渇望と闇を感じた。
今、僕はこの道を選んだのだ。
そして、この先、どんな結末が待っているのかを知る術もなく、ただ静流に従うしかないのだろう。
僕の血は、もう彼女のものなのだ。僕が静流に与える血、それが全てを決定づける。
続く
後書き
今回の「吸血鬼以下、吸血鬼もどきは世界の隅で生きている。「血の共鳴者」」の話を作る前の段階で2000文字程度の元ネタがあり、更に古い吸血鬼ネタを交えて、ChatGTP4o1にあらすじを書いてもらったら、あらすじまでは途中変更があったものの、アウトラインを書いて貰ったら、いつもより激しい変更が起こなわれ、まったく別物が出来てしまった。
急遽、作り直したが、納得が行かないので次回、AI無しで書き上げるしかないと思い知らされました。内容が、いつもの食人が出たりするのでAIの判断でエラーが出ました。
このコンテンツは利用規定に違反している可能性があります。
これがよく出ます、皆さんは出てきますか?
自分はよく出ます。
吸血鬼は大好きな妖怪です。菊池秀行著バンパイアハンターDから始まり、タイプムーンの月姫、最近ではようふかしのうた。
など心奪われる作品が多数あり、いつかは吸血鬼の作品を書くと誓っておりましたが、少し、見込みが甘かったことを反省しております。
時間を掛けてやりなおします。
ここまで読んで頂きありがとうございました。。