見出し画像

創作都市伝説 禁后 「禁后の鎖 (きんごうのくさり)」~ 呪われた血脈の継承~ Dr桐生麗は呪いを糾明する!


前書き:禁后


狂った儀式の果てに、あの世で楽園に行くために行われた、ある一族を永遠に縛った狂気の儀式。

恐らく、死んでからの自分の行方が気になった人物、地獄には行きたくない、天国と言いう楽園浄土を目指した人物は、死を恐怖した。

自分が無に帰ることを恐れて、この儀式を行う事望んだが、どうして自分の子孫まで伝えたか、あの世で一人になるのが怖いから。

それだけで子孫巻き込む、この儀式を思いつく何という業の深さか、封じ込める、または、永遠の眠りで、一族を絶つのか。

選ぶのは残された少女、令和の世にまだ続く。この一族の血を継ぐ者たちの物語。

改めて、都市伝説禁后を読み返して、今回の話を創作しました。
より、楽しむには、元の禁皇后を読まれることを進めます。

本来の話で、テーマになる呪術の正体について、一人の人物のわがままから始まったと推測しています。

参考記事

あらすじ

令和の現代に生きる平凡な大学生、瀬川美咲は、ある日突如として悪夢に苛まれるようになる。
夢に現れるのは、古びた鏡台と血に染まる引き出し。
それをきっかけに、美咲は自分が「禁后の儀式」と呼ばれる狂気の儀式を行ってきた一族の末裔であることを知る。

儀式の目的は、死後に「楽園浄土」へ行くために祖先たちが生け贄を捧げ続けることであり、その呪いは現在もなお続いていた。

美咲は否応なく儀式に巻き込まれるが、彼女は自らの運命を拒絶し、呪いの根源を断つことを決意する。
そのために、彼女は超常現象を研究する若き神経言語プログラミング(NLP)研究者、Dr.桐生麗に助けを求める。

麗の冷静な分析と、幽霊たちとの対話を通じ、美咲は「禁后」に秘められた真実に迫る。

しかし、次第に明らかになる一族の過去は、美咲が生きている間に断ち切れるものではなく、決断を迫られる。

「禁后」を封じ込めるのか、それとも一族を絶つのか──選ぶのは美咲自身だ。


主な登場人物


主人公: 瀬川 美咲 (せがわ みさき)

  • 年齢: 22歳

  • 性別: 女性

  • 職業: 大学生(心理学専攻)

  • 容姿:

    • ミディアムボブの黒髪で、前髪をぱっつんにしている。

    • 透明感のある白い肌で、大きな瞳が特徴的。

    • 普段はシンプルなTシャツとデニムスタイルが多いが、パステルカラーのカーディガンを羽織ることが多い。

  • 性格:

    • 明るくおっとりした性格だが、内向的で小さな変化に敏感。

    • 家族や友人に気を使いすぎる一面がある。

    • 実は好奇心旺盛だが、怖がりな性格ゆえ、ホラーや怪談話には極端に弱い。

  • 口癖:

    • 「どうしてこんなことに……?」

    • 「でも、私がやらなきゃいけないのね」


Dr. 桐生 麗 (きりゅう うらら)

  • 年齢: 27歳

  • 性別: 女性

  • 職業: 神経言語プログラミング(NLP)研究者、大学准教授

  • 容姿:

    • 138cmという非常に小柄な体型だが、整った顔立ちと鋭い瞳で存在感がある。

    • 黒髪ロングをポニーテールにし、常に白衣を着用。

    • 足元は黒のローファーを愛用し、シンプルな服装にまとめている。

  • 性格:

    • 冷静沈着で論理的。幽霊や超常現象にも興味を持ち、驚くことがほとんどない。

    • 幼少期のトラウマから、幽霊の存在に特別な関心を抱く。

    • 美咲とは対照的に感情を表に出さないが、内心では人々を助けたいという強い信念がある。

  • 口癖:

    • 「ふふっ、面白いですね」

    • 「未知の現象ほど、心が揺れるのは当然です」

    • 「さあ、始めましょうか」


瀬川 薫 (せがわ かおる)

  • 年齢: 48歳

  • 性別: 女性

  • 職業: 美咲の母、専業主婦

  • 容姿:

    • 肩までのウェーブがかった黒髪に、年齢より若々しい顔立ち。

    • 家庭的なエプロン姿がよく似合うが、時折見せる厳しい表情に儀式の影がのぞく。

  • 性格:

    • 表向きは優しく美咲を愛する母親だが、祖母から「禁后の儀式」の存在を継承している。

    • 儀式を恐れつつも、家系の呪いから逃れることができず、葛藤を抱えている。

  • 口癖:

    • 「これは代々受け継がれるものなのよ」

    • 「美咲、あなたならきっと……」


遠藤 雅人 (えんどう まさと)

  • 年齢: 23歳

  • 性別: 男性

  • 職業: 美咲の大学の先輩、オカルト研究会の部長

  • 容姿:

    • 長身(180cm)で痩せ型。金髪の刈り上げと無造作な前髪が特徴。

    • 派手な服装を好み、いつもレザーのジャケットを羽織っている。

    • 常に首からカメラを下げ、オカルト現象を記録している。

  • 性格:

    • 情熱的で社交的。超常現象に心底興味があり、美咲を何かとサポートする。

    • 実は臆病な一面もあり、肝心なところで頼りにならないことも。

  • 口癖:

    • 「これ、絶対ヤバいやつだよな!」

    • 「でも、これを記録しなきゃ意味ないんだ!」


瀬川 千代 (せがわ ちよ)

  • 年齢: 75歳

  • 性別: 女性

  • 職業: 美咲の祖母

  • 容姿:

    • 白髪をきちんと結い上げた上品な老婦人。

    • 儀式にまつわる資料を保管する部屋に住んでいる。

    • 和服を常に着用し、足元には草履を履いている。

  • 性格:

    • 家系の歴史や「禁后の儀式」について最も詳しい人物。

    • 美咲に対して愛情深いが、「儀式」については冷酷な決断をする面がある。

    • 家系の運命に絶望しながらも、何とか継承させようとする執念がある。

  • 口癖:

    • 「これは、私たちが背負った宿命よ」

    • 「お前には分からないかもしれないが……」


禁后の霊 (きんこうのれい)

  • 正体: 美咲の先祖で、初めて「禁后の儀式」を始めた女性。

  • 容姿:

    • 古びた和装を身にまとい、長い黒髪を乱れさせた不気味な姿。

    • 血に染まった引き出しから現れる霊的存在。

  • 性格:

    • 恨みと執着に満ちているが、内心では孤独に苦しんでいる。

    • 美咲に儀式を続けさせようとするが、桐生麗の冷静な対話によって自らの本心を暴かれる。

  • 口癖:

    • 「逃げられると思うな」

    • 「楽園に行くためには、お前の血が必要だ」


創作都市伝説 禁后 「禁后の鎖 (きんごうのくさり)」~ 呪われた血脈の継承~ Dr桐生麗は呪いを糾明する!

プロローグ

夢を見るたび、何かが私の中で壊れていく。
黒い霧が渦巻く中、ぼんやりと浮かび上がる古びた鏡台。
その前に座る女の後ろ姿は、どこか懐かしい。

けれど、振り返るその顔を見るたび、私は悲鳴を上げて目を覚ます。その顔は──私自身なのだから。

部屋の中にいるはずなのに、どこか違和感がある。
ベッドの端から立ち上がり、息を整えようと深呼吸をする。
いつもなら落ち着くはずの夜風も、今日はどこか冷たい。
窓の外を見ると、誰かがそこに立っているような気がして、思わずカーテンを引いた。

「またか……」

独り言が虚しく響く。夢のせいだとわかっているのに、どうしても頭から離れない。
鏡台、引き出し、そしてあの女の目。私が何をしたというのだろう?


第1章: 運命の目覚め

1. 悪夢の始まり

悪夢が始まったのは、一週間前だった。
大学での授業を終え、家に戻ると母が珍しく神妙な顔をして私を迎えた。
「美咲、ちょっと話があるの」
リビングのテーブルには古びた茶封筒が置かれていた。
母はそれを私の前に押し出し、言い淀んだ。

「これ……おばあちゃんが、預かっていてほしいって。」

茶封筒の中には、古い写真と手書きの紙が入っていた。
写真には、誰かが鏡台の前に立っているのが映っている。
その鏡台は、夢で何度も見たものとそっくりだった。

「……これ、なに?」

「おばあちゃんが、家系のことについて説明してくれるからって。私も詳しいことは聞いていないの。」

私は深い溜息をつきながら、写真を封筒に戻した。

夢で見た鏡台と同じものがここにある。その事実に、頭がぐらぐらするような感覚に襲われた。

その夜、再びあの夢を見た。
いや、夢というよりも現実のようだった。

私はまた鏡台の前に立ち、誰かに呼ばれている気がした。
そして、引き出しを開けると──目が覚めた。

「何かが、おかしい……」


2. 桐生麗との出会い

翌日、夢のことを誰かに話したい衝動に駆られた。
友達に話しても「それ、ただの怖い夢じゃない?」と言われるのがオチだ。でも、あれは普通の夢なんかじゃない。

そんな時、大学の心理学の講義で「桐生麗」という講師の名前が目に止まった。「神経言語プログラミング」──聞き慣れない学問だが、講義の案内には「心と無意識のつながりを研究する」とあった。

次の日、私は意を決して桐生先生の研究室を訪れた。
ノックすると、奥から軽やかな声が返ってきた。

「どうぞ。」

扉を開けると、小柄な女性が立っていた。
黒髪をポニーテールにし、白衣を羽織った姿は、予想以上に若々しく、どこか威厳すら感じさせた。

「桐生麗先生ですよね?」

「ええ、そうです。あなたは?」

「瀬川美咲です。相談したいことがあって……。」

彼女は私を椅子に座らせ、紅茶を淹れてくれた。

「さて、話してみてください。どんな夢を見たんですか?」

私はこれまでのことをすべて話した。
夢のこと、鏡台のこと、そして写真のこと。

桐生先生は興味深そうに頷きながら聞いていたが、私が話し終えると、満足そうに微笑んだ。

「面白いですね。それはただの夢ではないかもしれません。」

「どういう意味ですか?」

「夢というのは、私たちの無意識が語りかけてくるものです。あなたの夢が示している鏡台──そこに何か大きな意味があるのかもしれません。」


3. 調査の始まり

桐生先生と話した後、私は奇妙な安心感を覚えていた。
話を聞いてもらえただけで、あの夢が少し現実から遠ざかったように思えたのだ。だが、先生の最後の一言が頭から離れない。

「夢に現れるものは、ただの偶然ではない。鏡台について、もっと詳しく調べてみては?」

帰り道、私は封筒に入っていた写真のことを思い出した。
おばあちゃんに会えば、何かもっとわかるのかもしれない。

翌日、私は祖母の家を訪れることにした。
古びた家屋の戸を開けると、祖母はいつもの和服姿で出迎えてくれた。

「美咲、久しぶりだねぇ。さあ、上がりなさい。」
祖母の家は、どこか異様に静かだった。
まるで音そのものが吸い取られているような感覚に襲われる。
リビングでお茶を淹れてくれた祖母は、私が写真を取り出すと、表情を曇らせた。

「その写真、どこで……?」
「お母さんから渡されたの。おばあちゃんが詳しいことを知ってるって聞いて……これ、夢で見た鏡台と同じなんだ。」

祖母はしばらく黙っていたが、ついに重い口を開いた。

「それは……『禁后』の鏡台だよ。」

「禁后?」
祖母の語りは静かだったが、その言葉には凄まじい重みがあった。

「私たちの一族には、代々受け継がれてきた儀式がある。『禁后』とは、その儀式の象徴だよ。楽園浄土に向かうためと信じられていたけれど、その代償はあまりにも大きかった。」

私は言葉を失った。一族の呪い──それが、私に降りかかろうとしているのだろうか。


4. 桐生先生の分析

その夜、私は再び桐生先生の研究室を訪れた。夢と祖母の話の関連性を考えずにはいられなかった。

「先生、『禁后』って聞いたことありますか?」

「ええ、少しだけですが。都市伝説としても知られていますね。儀式、鏡台、そして一族の呪い……興味深いテーマです。」

私は先生に祖母から聞いた話をすべて伝えた。
先生はじっと聞いた後、考え込むように眉を寄せた。

「その鏡台は、ただの家具ではないようですね。夢に現れるということは、それがあなたの心に深く影響を与えている証拠です。」

「どうすれば、この呪いを断ち切れるんですか?」

先生はしばらく考え込んでいたが、やがて決意したように頷いた。

「まず、鏡台そのものを調べましょう。その鏡台が実在する場所を突き止める必要があります。」


第2章: 儀式の記録

1. 鏡台のありか

調査を始めた私たちは、祖母にさらに詳しい話を聞きに行くことにした。
祖母は渋々だったが、ついに鏡台がどこにあるかを教えてくれた。

「……今も、あの古い納屋にあるよ。けれど、近づいてはならない。呪いをさらに強めるだけだ。」

私は一瞬ためらったが、桐生先生は冷静だった。

「大丈夫です。調査は慎重に行います。その鏡台を見ることで、呪いを解く手がかりが得られるかもしれません。」

祖母の案内で、私たちは納屋に向かった。
古びた扉を開けた瞬間、ひんやりとした空気が肌を刺した。そこにあったのは──夢で見た通りの鏡台だった。

埃をかぶった鏡面に私の姿がぼんやりと映る。
引き出しを開けるべきか、先生に聞こうとしたその瞬間、どこからともなくささやき声が聞こえた。

「──開けてはいけない。」


2. 引き出しの中身

桐生先生が手袋をはめ、慎重に引き出しを開けた。
中には古い半紙と何かの歯のようなものが入っていた。
半紙には「禁后」とだけ書かれている。

「これは……儀式で使われたものですね。」

その瞬間、納屋全体が低く唸るような音を発し始めた。
風もないのに、鏡台の前に置かれたろうそくが一斉に揺れ動く。

「急ぎましょう!」
桐生先生は引き出しの中身を素早く袋に詰め、私たちは納屋を後にした。

祖母はその様子を見て呆然としていたが、何も言わなかった。


3. 呪いの分析

研究室に戻った私たちは、半紙と歯を詳細に調査した。
桐生先生は言った。

「この半紙には、強い負の感情が込められています。書かれた文字そのものが呪術の一部です。」

「負の感情って、どういうことですか?」

「たぶん、この儀式に関わった人々の怨念や苦しみでしょう。その感情が、あなたの夢にも影響を与えている。」

私は呪いの重さに圧倒されそうになったが、先生の冷静さに励まされた。


4. 呪いの発動

その夜、自宅に戻った私は、夢の中で再び鏡台と向き合った。
今回は以前よりもはっきりと、声が聞こえる。

「助けて……。」

振り返ると、そこにいたのは血まみれの女だった。

その顔は、私と瓜二つだった。



5. 夢の中の女

血まみれの女がじっと私を見つめていた。
その目には言葉にできない悲しみと怒りが宿っている。
そして、彼女の唇がかすかに動き、震える声でこう言った。

「逃げられると思うな……お前は私だ……。」

その声に、私は硬直して動けなかった。
周囲の霧が濃くなり、鏡台がゆっくりと回転し始める。
その動きに引きずられるように、私の身体も鏡台の前に立たされた。

そして、引き出しがひとりでに開いた。
中には、錆びた刃物と、赤黒く乾いた何かが入っている。

「助けて! 誰か……。」

叫んだ瞬間、目が覚めた。
全身が汗で濡れ、心臓は爆発しそうなくらい鼓動を打っている。
夢なのに、身体が現実と同じように疲れていた。

そして、何より恐ろしいことに──左手の指先に、小さな切り傷ができていた。


第3章: 呪いの発動

1. 身体の変化

翌朝、私は指先の傷を見ながら、震える手で包帯を巻いた。
その日は大学の講義にも集中できず、頭の中で「お前は私だ」という声が繰り返されていた。

「美咲、大丈夫? 顔色悪いよ?」

友人の咲良に心配され、私は「ちょっと寝不足で」と曖昧に答えた。
本当のことなんて言えるはずがない。

講義の後、私は桐生先生の研究室を訪ねた。
夢の内容と指先の傷のことを伝えると、先生は珍しく真剣な表情を見せた。

「これは、夢だけの話ではありませんね……禁后の呪いがあなたに影響を及ぼし始めている証拠かもしれません。」

「呪い……そんなの、本当にあるんですか?」

「実在するかどうかではなく、あなたの無意識がそれを現実として認識していることが問題です。それに……。」
先生は少し言い淀んだ。

「どうしたんですか?」

「おそらく、禁后の鏡台は、ただの遺物ではない。何かの媒介として、霊的な存在とつながっている可能性が高いです。」


2. 納屋の異変

その夜、祖母から電話がかかってきた。
普段は電話なんてしない祖母が、急に慌てた声で言った。

「美咲! 納屋が……納屋が変なんだよ! まるで何かが中で暴れているみたいなんだ!」
私は急いで桐生先生に連絡し、車で祖母の家に向かった。
到着すると、納屋の周囲に冷たい霧が立ち込めていた。
祖母は怯えきった顔で家の中から私たちを見ている。

「納屋に入るんですか? 危険では……。」

桐生先生は慎重に納屋の扉を調べながら答えた。

「危険かもしれませんが、これ以上放っておくと状況は悪化するでしょう。」

私は恐怖で足がすくんでいたが、先生に続いて中に入った。
そこには信じられない光景が広がっていた。

鏡台が勝手に動き、周囲の家具を叩き壊していた。
引き出しがひとりでに開閉を繰り返し、その度に低い呻き声が響く。

「先生、これ……どうすれば!」

「冷静に! 呪いを鎮めるには、鏡台に込められた霊の意図を知る必要があります。」


3. 禁后の霊との対話

桐生先生は鏡台に向かい、毅然とした声で呼びかけた。

「あなたは誰ですか? ここにいる目的を教えてください!」

すると、鏡台の鏡面に血文字が浮かび上がった。そこにはこう書かれていた。

「子を返せ」

「子……?」私は混乱して先生の方を見た。

「おそらく、禁后の儀式で犠牲にされた存在でしょう。
その魂が浄化されずにここに留まっているのかもしれません。」

霊のささやき声が再び響き渡る。「苦しい……助けて……。」

その声は、怨念ではなく、深い悲しみに満ちていた。


4. 儀式の再現

「この霊を解放するには、儀式を再現する必要があるかもしれません」桐生先生はそう言った。

「再現って……そんなこと、危険すぎる!」

「しかし、それ以外に解決策はありません。」

私たちは儀式に必要な道具を揃え、鏡台の前で慎重に手順を進めた。

先生が古文書を読み上げる中、私は震える手でろうそくに火を灯した。

突然、霊の姿が鏡台の前に現れた。それは夢の中で見た血まみれの女だった。

彼女の目は真っ直ぐ私を見つめている。

「私を、解放して……」


第4章: 串刺しの楽園

1. 解放の条件

血まみれの女が私の前に現れた瞬間、空気が一気に重くなった。
霊が発する言葉は断片的で意味が掴めないが、訴えかけるような目がすべてを語っているようだった。

「私を……解放して……。」
桐生先生が低い声で霊に問いかけた。

「解放とは何を意味するのですか? あなたがここにいる理由を教えてください。」

女は口を開き、かすれた声で話し始めた。

「私は……生け贄だった……母の……儀式で……私を殺し……その後も……この血が続く限り……。」

私は震えながら問いかけた。

「続くって……それじゃ、私も……。」

女は頷く代わりに鏡を指差した。
その指先が触れると、鏡面にまた血文字が浮かび上がった。

「終わらせて。」

その言葉を見た瞬間、私の胸に不思議な確信が生まれた。
この呪いを断ち切ることは、私の使命なのだと。

しかし、その方法がわからない。桐生先生はしばらく考え込んだ後、静かに話し始めた。

「解放には二つの条件があります。一つは、この儀式を象徴する鏡台を破壊すること。もう一つは、この霊が求めているものを知り、それを成し遂げることです。」

霊は「子を返せ」と言っていた。

子とは誰なのか、返すとはどういう意味なのか。全てが謎に包まれていた。


2. 過去の記録を探る

次の日、私は桐生先生と共に祖母に再度話を聞きに行った。
祖母は恐れを滲ませながらも、私たちに一族の記録が保管されている蔵を案内してくれた。

古い帳簿や日記が山積みになった蔵の中で、桐生先生が一冊の黒い表紙の日記を見つけた。
それは、禁后の儀式が行われていた時代の記録だった。

「ここに、儀式の詳細が書かれています。
『楽園浄土』と呼ばれる場所に行くため、母が娘を生け贄として捧げる。それが儀式の本質だったようですね。」

「でも、どうしてその呪いが今も続いているんですか?」

桐生先生は日記を読み進め、静かに言った。

「楽園浄土には条件があったようです。儀式が完全に成功するためには、一族全員が死後にその霊を縛り続ける必要があった……。」

一族全員が? つまり、私のような末裔もまた、その輪から逃れられないということだ。

「私がやるしかないんですね。この儀式を終わらせるために。」

桐生先生は深刻な顔で私を見たが、ただ一言だけ言った。

「やる価値はあります。」


3. 鏡台を破壊する

私たちは儀式を中断させるため、まず鏡台を破壊することを決意した。
しかし、その決断が簡単ではないことは分かっていた。
鏡台には強い呪いが宿っており、物理的に破壊できる保証はなかったからだ。

納屋に戻り、私は震える手で鏡台を見つめた。その表面に、再び血文字が浮かび上がる。

「やめて。」

その言葉に心が揺れるが、桐生先生が私の肩に手を置いて言った。

「これは試されているだけです。迷ってはいけません。」

私は鉄槌を振り上げ、鏡台を叩き壊した。破片が飛び散り、空気が一瞬静まり返る。

しかし、次の瞬間、納屋全体が地響きのような音を立てて揺れた。
鏡台の破片から黒い霧が噴き出し、形を変えて人影となる。

その姿は──私とそっくりだった。


4. 鏡台の呪いとの対峙

黒い霧が形作った「私」は、冷たく笑いながら近づいてきた。

「お前に何ができる……? 逃げることも、抗うことも、全て無駄だ。」

私はその言葉に逆らうように、震える声で言った。

「私は……この呪いを終わらせる。あなたの苦しみを終わらせるために!」

その瞬間、黒い霧が私を包み込み、意識が遠のいた。


第5章: 選択の岐路

私は気がつくと、夢の中で何度も見た場所に立っていた。
目の前には血まみれの女が立っている。

「あなたが……私の代わりになるのね。」

「代わりって……どういうこと?」

女は苦しそうに微笑み、鏡台の引き出しを指差した。

「楽園浄土に行くためには、誰かがその扉を閉じなければならない。
そして、その役目を担う者が必要なの。」

私は一族の全ての呪いを断ち切るか、楽園浄土への扉を完全に封じるかの選択を迫られた。

そのどちらを選んでも、私自身が呪いの中心になることは避けられない。

「選んで……私たちを終わらせて。」


1. 呪いを終わらせる覚悟

目の前の血まみれの女──私にそっくりな霊は、私をじっと見つめたままだった。
その瞳には何かを訴えるような切実さがあり、私の胸に重くのしかかる。

「選んで……。」

再びその声が響く。
呪いを断ち切るためには、私自身がその犠牲になることが必要なのかもしれない。
あるいは、楽園浄土の扉を封じ込めることで、誰もその呪いに触れられないようにすること。
それが私に与えられた選択肢だった。

「私が選ばなきゃいけないのね……。」

声が震えたが、迷う時間はない。
私は桐生先生の言葉を思い出した。

「恐れずに進みなさい。あなたが呪いを断つことで、一族も、そしてあなた自身も未来を切り開くことができるのです。」

私は深呼吸し、霊に向き直った。

「私は……この呪いを終わらせる。あなたも、そして私も解放されるために。」


2. 扉を封じる儀式

霊はかすかに微笑み、引き出しの中を指差した。
私が手を伸ばすと、中には一冊の古びた日記と錆びた刃物が入っていた。

「これを持ちなさい……そして最後の儀式を完成させるの。」

その声に従い、私は鏡台の前に跪いた。
日記には最後の儀式の手順が記されていた。それは、楽園浄土の扉を封じるために必要な行為だった。

桐生先生が後ろから慎重に声をかけてくれる。

「美咲さん、焦らないで。あなたが行動を起こすことで、霊もあなたを受け入れる準備ができるはずです。」

儀式の手順は、血の契約を交わすことだった
。私の血を鏡台に捧げることで、楽園への扉を閉じる力が発動するという。私は刃物を手に取り、躊躇いながらも左手に小さな切り傷をつけた。

血が一滴ずつ鏡台に落ちるたび、鏡面が赤く染まり、周囲の空気がさらに重くなっていく。

そして、鏡台全体がまるで生き物のように震え始めた。


3. 扉の封印

儀式が進むにつれ、霊の姿がぼやけ始めた。彼女の目には安堵の表情が浮かんでいる。

「ありがとう……あなたが、私たちを救ってくれる。」

その瞬間、鏡台の中から黒い霧が噴き出し、部屋全体を覆った。
耳をつんざくような叫び声が響く。
それは苦しみと感謝が入り混じった、何とも言えない感情が込められているようだった。

「終わりにしましょう!」
桐生先生が叫ぶ。

私は最後の力を振り絞り、日記の最後に記された呪文を読み上げた。

「この扉を、永遠に閉じる──。」

その言葉を唱え終わると、鏡台が砕け散り、霧が急速に引いていく

。空気が静まり、そこには何の痕跡も残らなかった。


4. 呪いの消滅

私は倒れ込むようにその場に座り込み、荒い息を整えた。

桐生先生が駆け寄り、私の肩を支えてくれる。

「終わりましたよ、美咲さん。あなたはやり遂げました。」

霊の姿はもうどこにもなかった。
納屋はただの古びた空間に戻り、鏡台の破片も見当たらない。

すべてが、夢だったかのような静寂が訪れた。

その後、祖母も私の話を聞いて深く頷いた。

「美咲……お前は本当にすごい子だよ。この一族の呪いを終わらせたんだね……ありがとう、本当に。」

祖母の目に浮かぶ涙を見て、私はやっと実感した。

これで、本当に終わったのだ。


第6章: 残されたもの

1. 日常への復帰

すべてが終わった後、私は少しずつ日常を取り戻していった。
大学の授業に戻り、咲良とカフェで話す時間が再び訪れた。

「最近、なんだか明るくなったよね、美咲。いいことでもあったの?」

「うん、ちょっとね。」

言葉にするのは難しいが、私の中にあった重い影は確かに消えていた。


2. 桐生先生の別れの言葉

桐生先生とも、儀式の後に一度会った。

「あなたの決断は正しかったと思います。
呪いを断ち切るだけでなく、一族の未来も救ったのです。」

先生は少し微笑みながら、言葉を続けた。

「もしまた何か困ったことがあれば、いつでも相談してくださいね。」


3. 過去からの手紙

ある日、祖母の家を訪れると、彼女が一通の手紙を渡してくれた。

それは儀式の際に見つけた日記の一部で、過去の生け贄となった少女が未来の私たちに宛てたものだった。

「私たちを忘れないで。あなたたちが生きている限り、私たちも楽園で安らぎを得られるのだから。」

私はその言葉を読み、涙を流した。

過去の苦しみが未来に生きる人々の希望に変わる。そう信じたかった。


4. 新たな恐れ

物語が終わったと思った矢先、部屋の隅に置いてある鏡台が、不気味な音を立てて揺れたように見えた。

「……まさかね。」

私は笑って振り返らず、カーテンを閉じた。その日は、それ以上何も起こらなかった。

だが、心のどこかで、「禁后の鎖」が完全に断たれたかどうか、確信が持てないまま、私は再び日常に戻っていった。

終わり

いいなと思ったら応援しよう!