見出し画像

【GPS】×【探偵】×【不倫】終了のお知らせ。探偵がGPSを使ってはダメなたった一つの理由その❶’「GPSと民事裁判」編

民事訴訟におけるGPS利用に対する慰謝料請求認容事案

 刑事裁判の判断例を解説しましたが、民事訴訟においてGPSでの位置情報の取得が問題視された事例として東起業事件(東京地判平成24年5月31日 労働判例1056号19頁)を挙げておきます。
 この事案(関連争点のみ)は建設会社の支店長が会社から所在確認のためGPSを利用して携帯電話の位置情報を確認できる、携帯キャリア会社が提供するナビシステムへの接続に同意・承諾していたところ、会社がこれを奇貨として勤務時間外の位置情報取得したことが権限濫用で違法であると判示されたものです。このケースは当事者間に労働契約上の職務専念義務ある労使関係があった場合であって労務管理の必要上位置情報・移動履歴の取得をすること自体には正当性がありました。しかも労働者が会社から事前に説明を受け労働者が位置情報取得機器への接続と位置情報取得そのものには承諾同意していた場合でした。
 また被告(会社)からは次のような反論が主張されています。

本件ナビシステムは、原告を含む従業員に対する緊急連絡や稼働状況を把握するために導入したものであるところ、特に、原告は、日常的に出社が不規則であり、行動予定の報告が不十分であったことに加えて、携帯電話が通じないことが頻繁にあったため、他の従業員と比較して本件ナビシステムを起動する機会が多かったにすぎない。

東京地判平成24年5月31日 労働判例1056号19頁~

ちなみに使用実態はこのようなものでした。

原告に対する本件ナビシステムの使用状況は、別紙3〈略-以下、同じ〉(表1)ないし(表4)記載のとおりであり、これらによると、被告B(注:上司にあたる人物)は、早朝、深夜の時間帯である平成19年6月28日午前0時36分、同年7月2日午前4時29分、同月3日午前5時04分、同年8月3日午後11時59分、休日である同年7月8日午後0時、同月15日午前0時20分、同月22日午後10時58分、同月29日午後8時37分のほか、退職後にも合計9回にわたって、本件ナビシステムを使用して原告の居場所確認をしている(なお、別紙3(表5)記載の各日は、原告が休日出勤許可願を提出しなかったり、代替休日の予定日を明らかにしないで取った代替休日であり、Bは、原告の代替休日であることを知らずに本件ナビシステムを使用したことがうかがわれる。)。

東京地判平成24年5月31日 労働判例1056号19頁~

 回数は在職中8回退職後9回、断続的(異なる日ごと)に位置情報を取得(移動履歴は取っていない)したということです。
 その場合でも裁判所は勤務時間外の位置情報取得は権限濫用でプライバシー侵害にあたると判断されました。

本件ナビシステムによる居場所確認について

 原告は、本件ナビシステムの使用による原告の居場所確認が、原告に対する嫌がらせ目的であり、不法行為を構成する旨主張する。
 この点、被告は、本件ナビシステムの導入は、外回りの多い原告を含む15名の従業員について、その勤務状況を把握し、緊急連絡や事故時の対応のために当該従業員の居場所を確認することを目的とするものである旨主張しているところ、上記(1)イの事実によると、原告以外の複数の従業員についても、本件ナビシステムが使用されていることがうかがわれることに照らせば、被告主張の上記目的が認められ、当該目的には、相応の合理性もあるということができる。
 そうすると、原告が労務提供が義務付けられる勤務時間帯及びその前後の時間帯において、被告が本件ナビシステムを使用して原告の勤務状況を確認することが違法であるということはできない。

 反面、早朝、深夜、休日、退職後のように、従業員に労務提供義務がない時間帯、期間において本件ナビシステムを利用して原告の居場所確認をすることは、特段の必要性のない限り、許されないというべきであるところ、上記(1)イ(ウ)で認定したとおり、Bは、早朝、深夜、休日、退職後の時間帯、期間において原告の居場所確認をしており、その間の居場所確認の必要性を認めるに足りる的確な証拠はないから、Bの上記行為は、原告に対する監督権限を濫用するもので違法であって、不法行為を構成するというべきである(被告は、原告が千葉市内のホテルに度々宿泊し、宿泊費用を被告に請求するなど、その行動に不審な点があったから、早朝、深夜の居場所確認の必要があった旨主張するが、原告の不審な行動を確認するのであれば、不審な行動の都度、原告本人から事情を聴取し、裏付資料を提出させるなどするのが先決であるから、このような手段を執らずに、原告の勤務時間外に本件ナビシステムを使用することの必要性を認めることはできない。)。

東京地判平成24年5月31日 労働判例1056号19頁~

 GPSにて位置情報を確認すること自体には外回りの多い原告以外の複数の従業員にも使用されていること、勤務状況の把握や緊急連絡等のために居場所を確認する目的自体には相応の合理性がある一方で、だからこそ労務提供義務がない時間帯や期間においての位置情報確認は(同意に基づく確認とは言えず)権限濫用であり精神的苦痛を理由とした慰謝料請求を認容しました。
 さて単なる恋人同士や夫婦には労務関係のような、上下があり、上が下を管理する、下は上に労務等何かを提供するような主従関係は存在するのでしょうか?

探偵がGPSを使ってはダメなたった一つの理由

 私の記事は今後も続く予定ですが、ここまででもう結論とその理由が出てしまったのでもったいつけて引き伸ばすのもアレなので一旦中締めとして結論を示したいと思います。
 なぜ浮気調査・不倫調査でGPSを使ってはダメなのか、なぜ探偵がGPSを使ってはダメなのか。それは対象者のプライバシーを侵害するからです。衆人環視のもと公道を走ることを予定されている自動車への設置ですらプライバシーを侵害するのです。個人が肌身離さず持ち歩く私物に潜り込ませる方法ならなおのことプライバシーを侵害するのです(本稿では敢えてスマホ等にアプリを仕込む方法は挙げておりません。それは当然プライバシー侵害にあたるという論外だからです)。
 ではなぜGPSが対象者のプライバシーを侵害するのか。それはGPSをはじめとした位置情報取得システムの進化が進みすぎているからです。最初にまとめたとおりで、①精度②稼働時間③小型化・軽量化、リアルタイムに、網羅的に、対象者に知られず密行して位置情報を無数に取得できる以上、GPSの使用に伴い対象者のプライバシー侵害は絶対に避けようがありません。

“ GPS等位置情報取得技術は進化と深化の一途を辿っています。”

プロローグ:【GPS】×【探偵】×【不倫】終了のお知らせ。探偵がGPSを使ってはダメなたった一つの理由その0

 他方でGPSの「①精度②稼働時間③小型化・軽量化、リアルタイムに、網羅的に、対象者に知られず密行して位置情報を無数に取得できる」という点は探偵業者にとっては全てメリットです。この夢のような便利な道具を探偵業者が自ら手放すのは容易ではないでしょう。とはいえかつては無届で開業できた探偵業、その無法ぶりが国会でも問題となった結果「探偵業の業務の適正化に関する法律」が制定され公安委員会への届出制となりました。

また探偵業法には当たり前すぎる条文が確認として盛り込まれています。 

探偵業者及び探偵業者の業務に従事する者(以下「探偵業者等」という。)は、探偵業務を行うに当たっては、この法律により他の法令において禁止又は制限されている行為を行うことができることとなるものではないことに留意するとともに、人の生活の平穏を害する等個人の権利利益を侵害することがないようにしなければならない。

探偵業の業務の適正化に関する法律6条

 「結果を出せば違法行為上等」なんて業界がまともであるはずがありません。おそらく各探偵業者の矜恃が問われることになるはずです。
 GPS利用に伴うプライバシー侵害についてのリーガルチェックを受けることなくこれを漫然と使用し続けるのか、それともGPS利用からは一切手を引くのか。探偵業者のWEBサイトを拝見すると老舗と呼ばれているであろう実績を誇っている探偵業者ほど昔ながらの尾行張り込みベースの調査を謳っていてGPS利用については一切広告していません。この辺りは「さすがだな」と感心させられます。

 一応ここで結論が出ましたが、まだまだ浮気調査・不倫調査にGPS利用するのはダメだという論拠は続きます。おいおい公開します。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?