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ジャスト・ザ・スリー・オブ・アス

「いま、うちはさんにんきりだねぇ」
のんびりとした明るい口調で、次女が後ろから話しかけてきた。
私は前をみたまま「そうだねぇ」と答えた。
さんにんきり、という言葉がせまい車内に波紋となって響き、頭の中に何度もこだました。

さんにんきり。
ひとりずつ増えてきた家族の道のりがあった。
直近のふたつは私のなかではじまったが、ほどなくして自分の心臓を打ち鳴らし、あっという間にそれぞれの人生を歩み出した。
ばらばらが寄って集まった家族。
これからも出入りがあるのはまちがいない。
さんにんでは、少ないのかな。
いつかはひとり。
さんにんは、私には充分な人数だ。

この子たちは、減ったひとりをどう受け止めているのだろうか。

「でも、いまはふたりきりだね」

「んー?そうだね。もうすぐ長女ちゃんの園につくけどね」

「ふふっ、このそらもふたりじめだねぇ。きれいだねぇ〜」

窓の外は夕空。
きれいな茜色が広がっている。

忙しなく過ぎる時間の中で、彼女たちと再会をできるこの時間帯は、私にとってご褒美だ。
いとしい姿に安堵し、どんな日だったか話をする。

次女にとって、このわずかな「ふたりきり」の時間は、嬉しい時間なのか。
その時々の人数ならではをしなやかに楽しむ姿。
いいなぁその柔軟さ。
ふたりきりも、さんにんきりも、いいね。



ジャスト・ザ・トゥー・オブ・アス(1980)

サックス奏者グローヴァー・ワシントン・ジュニアが1980年に発表したアルバム「ワイン・ライト」の中で、ゲストボーカルにビル・ウィザーズを迎えたこちらの作品。
邦題“クリスタルの恋人たち”と呼ばれ、大人のラブソングと思われがちだが、実際はカリブ海に浮かぶトリニダード島とトバゴ島のふたつの島からなる国、トリニダード・トバコ共和国の共栄を願って作られた一曲だ。

ひとたび世に出てしまえば、作者の意図を超えた伝わりかたをすることは多々ある。
ビル・ウィザーズがミスリードを誘うようなセクシーさで歌い上げたのも多いにあるだろうが、楽曲が素晴らしいことに変わりはない。
“ふたりきり”が、二人でも二島でも。
解釈の違いに思いを馳せて、いろんな角度から楽しむくらいでいいのだ。


さんにんきりもわるくない。
どんな局面も、このさんにんなら乗りこなしていけるような心強さを感じている。

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