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#0010 混乱をまねく人事用語の代表選手「組織開発」

定義がブレるのは人事用語の宿命か?

おつかれさまです。坪谷つぼたにです。

私はプログラマから人事担当者になったのですが、その時とても混乱したことがあります。それは言葉の「定義」の違いです。

プログラミングにおいて「定義」は絶対にブレませんでした。言葉の意味が、状況によって異なる、人によって異なる、それではプログラムは動かないからです。しかし人事の世界では、恐ろしいことに、同じ言葉を使っていても、組織によって、人によって、その意味がまったく異なるのでした。たとえば人材マネジメント、人材開発、人事制度、目標管理、それらについて私と上司の定義は違っていました。そして上司と社長の定義も全然違っていました。他の会社の方とはもっと違っていました。

私は人事コンサルタントとなり、それらの言葉を整えて、地図にすることに取り組んできました(この取り組みについては「#0005人材マネジメントの地図私たちは何の話をしているのか?」に書きました)。

その集大成ともいえる『図解 人材マネジメント入門』は2020年5月に出版され、おかげさまでヒット作となりました。たくさん届いた感想やお会いした読者の方の声から、やはり多くの方が定義がブレる人事用語に混乱し、困っていたことがわかりました。

そして、この本を書き終わってから新たに見えてきたことがあります。混乱をまねく人事用語の代表選手はどうやら「組織開発」だということです。

混乱しているのは自分だけではなかった

私も人事担当者時代には「組織開発」が何を指している言葉なのかよくわかりませんでした。人材開発とはいったい何が違うのか?研修や1on1をやっているから同じなのではないのか?組織サーベイやワールドカフェの事を言っているのか?しかし専門書を読むと「それは”やり方”でしかない」と禅問答のようなことが書いてある・・・ええい!よくわからないな!

しかし、それは自分の問題だろう。そう思っていました。自分は勉強不足だからわからないが、ちゃんと学んでいる方にとっては、きっと自明のことなのだろう、と。

「図解 人材マネジメント入門」を読んでくれたある組織から、相談がありました。「組織開発室を新たに設置するので手伝ってほしい」とのことです。私は不思議に思いました。なぜならその組織は、多くのビジネス書に「組織開発の先進企業」として紹介されている企業だったからです。そんな組織開発のお手本のような組織で、私なんかがお役に立てることがあるのだろうか?と心配しながらお伺いしました。

そしてその組織の実態を見て、驚きました。

歴史あるその組織には創業期からの組織を活性化させる血が脈々と流れていました。そしてお会いした方は皆さんとても優秀でしたし、企業へのコミットメントも非常に強いのです。しかし、起きていた問題は、私のもといた企業とまったく同じだったのでした。「組織開発」という言葉が一人歩きし、人によって、部署によって、役職によって、何を指しているのかがブレていました。定義がまったく揃っていなかったのです

何を話しているのかがお互いにわからず、すれ違い、ズレることによって、一向に話が進まない。そんな状況に陥っていました。まるで「組織開発」という呪いをかけられているかのようでした

混乱していたのは私だけではなく、こんな優良企業の方々も同じで苦しんでいるのだという事実を知り、私は「組織開発」の地図を書こう、体系的にわかりやすく説明した書籍をつくろうと思いました。その組織のお役に立つために、そしてかつての私のような人事担当者を助けるために。

どうやって書いたのか?

各章(Chapter)ごとにワーキンググループをつくり、その領域のプロである仲間たちと、対話と議論を繰り返して執筆を進めていきました。

また、ありがたいご縁が重なりました。組織開発の研究者である南山大学教授の中村和彦さん、ティール組織解説者の嘉村賢州さん、学習する組織の実践者である福谷彰鴻さん、デリバリング・ハピネス・ジャパンの島田由香さん、そして一橋大学名誉教授の野中郁次郎さん、など多くの見識者からアドバイスをいただいて論に磨きをかけ、完成させることができました。1年間かかりました。

前書『図解 人材マネジメント入門』は人事の「型(仕組み)」を理解するための入門書でしたが、今度は、組織に「血」を通わせるための本となりました。密接に関連していますが、それぞれ独立して読める内容です。

どんな地図になったのか?

出来上がった地図がこちらです。

坪谷邦生『図解 組織開発入門』より

どうやって:組織開発のやり方・あり方

人事制度だけでは組織はよくならない。研修だけでは人は育たない。・・・どうやら「組織開発」が重要らしい。私を含めて、多くの人事担当者は、そこまでは辿り着くのです。しかし組織開発とは「どうやって」行えばよいのかが、まったくわからないのです。Chapter1から4では、組織開発のやり方とあり方を押さえました。

Chapter 1. 組織開発:そもそも組織とは何か、組織開発とは何か、組織開発の目的、歴史、哲学など、組織開発の概論です。
Chapter 2. チェンジエージェント:チェンジエージェントとは実践者のこと。組織開発においてもっとも重要とされる実践者のスタンス、あり方について考えます。
Chapter 3. サーベイ・フィードバック:組織開発の代表的な手法であるサーベイ・フィードバックについて解説します。
Chapter 4. 対話型組織開発:組織開発の新しいアプローチである対話型組織開発を、理論と具体的な方法を交えて紹介します。

どこに向かって:組織モデル

多くの人事担当者は、今の日本企業の「組織」に限界を感じています。そして「ビジョナリー・カンパニー」や「ティール組織」や「学習する組織」などに、そのヒントがあるのではないかと気づいています。しかし、なかなか理解できないというのが現状ではないでしょうか。

理解できない原因は、それらの組織モデル1つひとつがそもそも難解だということもあります。しかしそれ以上に、それぞれの違いがわからないこと、そして自組織はどのモデルを目指すべきかわからない、つまり理解したとしても、どこに向かえば良いかわからないのではないでしょうか。

たとえばビジョナリー・カンパニーとティール組織は何が違うのでしょう? そしてお互いにどう関係しているのでしょう? この書籍では、その位置付けを示すことで、組織モデルを、あなたが「自組織はこっちに向かうべきではないか」と考えるための地図となることを目指しました。

Chapter 5. 学習する組織:1990年代に組織開発のバイブルと呼ばれ、多くの企業が取り入れたピーター・センゲ『学習する組織』を紹介します。「組織の学習能力」を伸ばすメソッドです。
Chapter 6. ティール組織:発達という概念を組織自体に取り入れたフレデリック・ラルー『ティール組織』を紹介します。組織が進化するという兆しを見せた「希望の書」です。
Chapter 7. ビジョナリーカンパニー:経営者が入れ替わっても長期的に成果を出し続ける「偉大な企業」の特徴を調査したジム・コリンズ『ビジョナリーカンパニー』を紹介します。
Chapter 8. デリバリング・ハピネス:ザッポス社が実践してきた「幸せ」な企業の文化づくりのノウハウと、永続的に続く企業を目指した「ティール組織」への挑戦を紹介します。
Chapter 9. 心理学的経営:リクルート社が創業期から行なってきた「個をあるがままに生かす」自主経営の理論と実践を紹介します。
Chapter 10. ワイズカンパニー:日本でもっとも有名な経営書『知識創造企業』の続編である『ワイズカンパニー』を紹介します。個と組織、内的と外的を統合する「知恵の書」です。

これら6つの組織モデルの関係を、ケン・ウィルバー『インテグラル理論』の四象限で整理し、構造化しました。このように組織開発の向かう先を示したものは、世界初の試みだと思います。

あなたが組織開発という言葉の混乱に負けず、進み続けるための地図となることを願っています。

私のお伝えしたいことは以上です。


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