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倭人は暢草を献じる33(小説)(エッセイ・とんぼ)

エッセイ・とんぼ < 静なる美しき世界 >

先週は一週間で20度も気温が下がり、私はまんまと風邪を引いてしまいました。
さらに、ずっとそのままにしていた体のあちこちに痛みが…。
子供達の行事や年越しの支度とやる事は沢山ですが
思うように進みません。
それでも昨日は注文していたお正月の子餅や鏡餅を何とか取りに行きました。
皆様はお変わりありませんか。

一段と冷えた日の朝、粉雪が舞いました。
粉雪は静けさと共にさらさらと椿の上に舞い降り
束の間ですが、ほんのり白い世界を愉しませてくれました。
不純物が一切含まれないもの同士の線。
椿と粉雪の線が互いを際立たせているようです。

すぐに溶けてなくなってしまう粉雪を眺めて儚さを感じますが
鮮やかな白を纏い私たちを雪の世界へ連れ出してくれる
その一瞬の印象は鮮明です。
鮮明で且つ儚く美しい瞬間。
華やかさや派手な印象はありませんが
静かで美しい
白く冷たい無音な世界。
ずっと眺めていられます。
静寂の中に広がる。静なる美しき世界。
いいですね。
落ち着きます。

ここに留まるわけにはいきませんが
儚くも美しき一瞬を静かに愉しむ時間を
日頃から大切にしたいと思います。


♢「湊の利権が争われているのか。天子も王も形なしであるな。」
 
大陸では、各部族の間で湊の奪い合が激戦していた...
浪響と昆迩は、大陸の状況を恐る恐る阿津耳へ報告した。

🌿秋津先生の著書で、難しい漢字や言葉、興味を持った事などは
 辞書やネットなどで調べながらゆっくり読んでみて下さい。
 きっと新しい気づきがあり、より面白く読み進められると思います。


原作 秋津 廣行
  「 倭人王 」より
 
 浪響(なみひびき)は、阿津耳(あつみみ)の反応を窺いながら
恐る恐る、流民を受け容れていることを話した。
流民の受け入れについては、豊浦宮の独断で進めたことで、高天原には伝えていなかったのである。

 浪響(なみひびき)もまた、喉のどに何かが閊つかえたかのような口調になり、それ以上のことを語ることはなかった。

 流民のことについて、阿津耳(あつみみ)は、内心、驚いて聞いたが、「倭人との交流がある豊浦宮(とようらみや)や知佳島宮(ちかしま)のみやならばありうることだ」と、ことを荒立てることはしなかった。

 「奄美西方(あまみにしかた)の衆は、千年前から、黒潮に乗っては、南海の子安貝を蓬莱湊(ほうらいみなと)へ運んでこられた。
百越(ひゃくえつ)の国ともうまくやって来たではないか。
倭人(わじん)が豊浦宮を襲うには、なにか特別の理由でもあるのか。」

 と、わざと鷹揚(おうよう)な態度で応えた。
すると、今度は昆迩(こんじ)が阿津耳(あつみみ)の気持ちを察するかのように実情を話した。

 「先般、蓬莱湊(ほうらいみなと)より戻ったわが一族の者が申すには、『行く先を見失った越人が暴れ出し、蓬莱湊を占拠した。』と報告してきました。蓬莱湊(ほうらいみなと)は古来より、天海(てんかい)のとまり宿として、誰もが利用できる湊でありました。ところが、もともと海戦に強い越人らは、敗残兵を集め、蓬莱湊を占拠すると、たちまち渤海沿岸の湊の領袖(りょうしゅう)を襲いて、その利権をひとり占めにしたそうであります。内陸での戦いに敗れた者たちが加わり、折あらば力を蓄えて、再び、戦いの場に乗り込もうとの魂胆で、湊の利権を抑えたのであります。」

 「湊の利権が争われているのか。天子も王も形なしであるな。」

 「まこと、その様であります。大陸では、海も陸も河も各部族の報復の最前線となっております。特に、湊の奪い合いは甚だしく、裏切りやいわれなき怨恨が渦巻く殺戮の場となっております。豊浦宮を襲撃した海賊は、そのような輩が海を渡ってきたのでありましょう。」

 阿津耳(あつみみ)は、想像以上に、大陸の戦いが拡大し、海を越えて、西の海、大海原に影響をもたらしていることを知った。

                         つづく 34 





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