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『呼吸で探る』

本当に伝えたかった言葉は飲み込んで、
それでも私は懸命に貴方を欲した、はず。
真偽のほどは別として、
存在を肯定した二人は、
この先も変わらずに求め合えるだろうか。

事後。
風呂場の電気はいつも、
私が恥ずかしいから消してしまう。
そのくせ、あまり目が良くないから
耳と指で貴方の輪郭を探る。

聴こえるのは、
湯船の水面の「ちゃぷん」と息遣いだけなんだけど、どうしてソレが無性に昂らせる。
速くなる鼓動と裏腹、
ゆっくりと流れる首筋の滴がどちらかなんて、
そんなことどうでもよくなる。

『現状の理由』を問われたら私はなんて答えるかな。

悩んで悩んで悩んだフリして

「だって、触りたかったんだもん」

ってとこかな。

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今まで、
特別"正しくあろう"と思ったことはない。
人間なんて不完全で、
そんなことは当たり前のことだと、
年齢として大人になった今でも思う。

よく言われる「許されない」事柄は、
一体誰が許してくださらないのかね。
分からないよな、分からないんだよ。
だから、良くね?って考える。

"満たしてもらえそう"が目の前にあるなら、
迷わず口付けするのが本能で本質ではないか?
夢を語るより、現物に縋るのは世の常だろう。

君が爪を立てて抱き締めた私の背中は、
果たして傷を残すだろうか。
この暗さでは知る由もないな。
欲張りな人間だからさ、
ある意味では"現在の君"を既に求めてはいないのかもしれない。
変わることのない水深より深く、深く。

体が半分出てしばらく経つから、
二人とも湯冷めしてしまった。
何故だか気付かれないように、
少しでも温かい場所を探しながら頬を撫でる姿は、きっとちょっと可笑しい。
大げさに息を吐いてみせる。
真剣な顔を作ろうとすればするほど、
愛しさに拍車がかかって綻んでしまう。

『現状の理由』を問われたら、なんて答えよう。

まあでも、結局あんまり深く考えずに

「いやぁ、触りたかったからですけど」

とかだろうな。

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過程は違えど着地が同じなら、そのままでいい。

...ええ、このままで。

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