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猫を抱いて象と泳ぐ:小川洋子

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「そう、だからチェスを指す人間は余分なことを考える必要などないんです。自分のスタイルを築く、自分の人生観を表現する、自分の能力を自慢する、自分を格好よく見せる。そんなことは全部無駄。何の役にも立ちません。自分より、チェスの宇宙の方がずっと広大なのです。自分などというちっぽけなものにこだわっていては、本当のチェスは指せません。自分自身から解放されて、勝ちたいという気持さえも超越して、チェスの宇宙を自由に旅する……。そうできたら、どんなに素晴らしいでしょう」


名作「博士の愛した数式」の著者の作品。

なんだろうこの不思議な世界観は…って感じで始まります。主人公の少年が「チェス」に出会うことをきっかけに物語が展開していく。

作品全体を貫いているのは、1手1手で戦況が目まぐるしく変わるチェスのような登場人物たちの環境や心の動きからあらわされる「変化」です。

常なるものはないこの世において、登場人物たちはチェスの盤上の駒のようにそれをなんの抵抗もなく自然に受け入れていく。その様はただ潔く、だからこそどこか哀しくもある。

そんな変化の物語の中において、静かで味のあるセリフが随所に散りばめられます。これがまた心地よい。

加えて、五感(特に音)に関する描写が多いのも心地よさに一役買っている。普段の生活では気にも留めないような細かな世界に引き込まれる。

チェスのルールがわからない人にも楽しめるので、ぜひ。

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