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マイクラをしていると富のことを考えさせられてしまう

Minecraft世界の通貨=エメラルドの飽和が、現実で味わうのは難しい多すぎる富の使い道について考えさせてくる。

友人とRealmsにてサーバーをレンタルしてMinecraftを遊んでいる。私はそこそこの経験者で、友人のうち1人が更に技術・知識のあるソロプレイヤーだった人、もう1人が完全な初心者だった。基本的にはこの3人で世界を回している。

はじめのうちは初心者もいるし資材も多くないしということで、原始的なというか、いわゆるマイクラプレイヤーが必ず通る普通のやり方、つまり伐採と農耕と探掘を繰り返していたが、知識と経験の豊富な友人は一通りの農作物の栽培施設や植林場が整うと、徐々に商業的な方面に舵を切り出すことになる。

各種自動化設備と村人の拉致監禁及び繁殖を一手に担った友人は、瞬く間に生産物をそれぞれの職種についた村人に売りつけ、また通貨であるエメラルドによって必要な物品を多く購入することが出来た。また、取引によって経験値を得られるシステムがこのゲームには備わっているため、経験値を消費して自身の防具や道具を強化エンチャントすることもスムーズになり、Minecraftでの生活はどんどん利便性を増した。

自動化設備の中でも一際功績の大きかったのはカボチャとスイカの自動回収装置であり、二番目にはニワトリの自動繁殖装置がある。カボチャ・スイカの回収機械は、ある程度近くにプレイヤーが居さえすればほとんど際限なく、管理不要でこれらをアイテム化させて回収し続ける。これは農民の職種についた村人なら誰もが購入を余儀なくされる上、他にこれといって使い道がない(食料には出来るが、後述する自動繁殖されたニワトリの鶏肉が余るほどあるし、これの方が腹持ちもいい)ためにほとんどエメラルドへの換金(換翠玉)用であった。商業作物である。

ニワトリの自動繁殖装置のほうは、ニワトリの、ほかの家畜動物にはない特徴を利用している。ニワトリは定期的にタマゴをアイテムとしてドロップする性質があるが、このタマゴは壁や地面に投げつけると、一定の確率で子ニワトリを排出する(ヒヨコではない)。つまり、ニワトリを柵の中で放置すると、そのうちタマゴを勝手に産んで、そのタマゴを回収して投げつけることで更にニワトリの数が増えるのだ。自動装置である以上、ここで自動化しなければならないのは「タマゴの回収」と「タマゴの投擲」である。勿論技術的には比較的簡単にその装置を作ることができ、当該友人は無事常にタマゴが投げつけられている状態を作り出すことに成功した。ニワトリも際限なく増える。ニワトリには、換金にしか使えないカボチャとスイカよりも更にいくつかの使い道がある。例えば、プレイヤーが増えすぎたニワトリを間引きするとき、つまり屠畜時に経験値を入手出来る。また、肉は食料としてそれなりに優秀であり、羽は矢の素材になる。勿論肉も羽も換金することができる。作り得しかない装置だ。

こうして無限と思えるほど増えたカボチャ・スイカと鶏肉、その他の自動化装置によって大量生産された種々の物品は、我々は全員はじめの頃は盛んに取引によって換金していた。なにしろ、金の減らない魔法の財源を手に入れたような興奮があったからだ。しかし、いつしかカボチャもスイカも回収装置の中に取り残されるようになり、かなり大容量に作っていたはずの集積地点がいっぱいになるほどになった。そのころには我々は専ら経験値のために取引とニワトリの屠畜とを行うようになっていて、エメラルドの獲得は副産物だったのだ。つまり、モノが飽和した。

普通現実世界では経済が回ればある程度まで社会は拡大し続ける。しかしMinecraftにおいては、取引先の村人とてNPCとさえ言いづらい動物とさして変わらないMOBであるため、居住の問題とか食料の問題とか福祉の問題とかはなく、ただただエメラルドと物資の供給だけが増大していくわけだ。最初の頃はダイヤモンド製の道具などを有難がって鍛冶屋から購入していた我々も、今では必死にエメラルドや物資を消費しなければならない状態に追い込まれている。エメラルドもアイテムのひとつだから保存場所を圧迫するし、建築にしか使えないブロック群などは我々に創造を強要してくる。

消費者が増える見込みのない供給の増大は不毛なのだ。モノで世界(我々の行動範囲)が埋め尽くされてしまう。こんなにエメラルドを手に入れても、消費する先が増えるわけではない。現実においては、消費する先が全く見当たらなくなるなんてことは破格の富豪でもなければ絶対に起こりえないが、その違いゆえに、Minecraftにおける過度な商業的成功は、却って我々に冷酷な資本主義の虚無性を突きつけてきたわけだ。

ゲームは捨象の網目を通った現実の追体験だが、時折世界の本質的な不安定さを示してくる。現実において一般人として生きていれば絶対的に消えることのない金銭欲も、それはある種の身体的ないしは精神的な不満の存在という例外的な条件の中でまどろんでいるうちに見る幻想でしかないと言われているようだ。

そういうわけで、Minecraftで商業的な活動を積極的に行い、私と同じ気持ちを皆さんにも味わってもらいたい。



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