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NIリサーチャーコラム #15 Present and future ~ターニングポイントは突然に~(2021年7月執筆)

執筆者: NIマーケティング研究所(集計分析担当) T.A
※NIリサーチャーコラムでは、当社の各リサーチャーが日々の業務等で感じた事を自由に紹介しています。

1)2020年という年

新型コロナの影響で1年延期となった東京オリンピックが、いよいよ始まりました。

ところで、元々オリンピックイヤーとなるはずだった昨年2020年は、日本の統計史におけるメモリアルイヤーの1つでもあり、国勢調査開始から100年目の節目にあたる実施年でした。

2020年は、私たちリサーチ業界においても、様々な対応を考え、各種感染対策を講じたとしても、それでも対面での調査はストップ、縮小せざるを得なかった未曽有の新型コロナ禍の真っ只中で、その中での国民全体を対象とする国勢調査の実施はかなりの困難が予想されました。

国勢調査は「日本に住む人や世帯」について知ることで、生活環境の改善や防災計画など、私たちの生活に欠かせない様々な施策に利用される、5年に一度の重要な調査です。

また、私たちリサーチ業界においても、2次データとして活用する機会は多く、実態に即した調査結果を導きだすためにも、正確な統計データはなくてはならないものです。

しかし、国勢調査の実施・運営においては、この新型コロナ禍における困難だけではなく、ここ数年で巨大に顕在化してきた情報氾濫社会という課題もありました。

SNSが広く活用され、個人からも多種多様な情報が発信される現代社会においては、必ずしも正しい情報ばかりで溢れているわけではなく、正確ではない情報や、エビデンスのないデマのような情報まで、あっという間に広まっていく様子が見られたりもします。

国勢調査に関するあらゆる情報も例外ではありませんでした。

その重要性が捻じ曲げられて伝えられたり、間違った情報が拡散されたりしていく様子も目にしました。

そういった様々な困難、課題が山積みの中、リサーチ会社としてできることがないかと考え、弊社も”国勢調査サポーター”として名乗りを上げ、微力ながら啓蒙活動に努めさせていただきました。
「2020年国勢調査」のサポーター企業となりました」

そうして、2020年10月20日、100年目の国勢調査は終了しました。

2)意識なのか、本能なのか

このような異例の新型コロナ禍で実施されたこともあり、10月1日時点での回答率は36.2%と出足はかなり鈍く、最終的にどの程度の回答率に着地するのか非常に心配もされました。

しかし最終的には80.2%と、前回の71.0%を10ポイント近く上回りました。

夏休みの宿題を終わり間近になってから一気にスパートをかけるような、そんな気質が大人になっても残りつづけるものかしら、と、そんな想いも少し巡りましたが、実際には、今回は調査員の感染防止策をとりながらの実施でしたので、いつも以上に調査票の配布に時間がかかったことが要因の1つだったかとも思います。

調査は9月14日から始まっていたものの、実際に私の手元に調査票が届いたのは実に29日になってからでしたので、このあたりも出足の悪さに影響したのかもしれません。

それでもこの状況の中で、結果として回答率が大きく上がったのは、素晴らしい結果だったかと思います。

尚、前回よりインターネットでの回答もできるようになっているのですが、インターネットからの回答率は前回の36.9%に対し今回は37.9%と微増に留まりました。

回答率の上昇はネット回答の効果が大きいとばかり思っていたので、この結果はかなり意外でした。

私自身もスマートフォンから回答をしましたが、回答時間は10分足らずで済んだと記憶しています。

ログイン時のパスコードにフリガナがついていたり、各設問には留意点・用語解説などの説明がついていたり、また回答終了後の一覧画面での回答確認と修正が容易にできるようになっていたことなど、幅広い年代が容易に回答できるように、とても親切な仕様になっていたかと思います。

私には紙の調査票の方がかなり複雑に思えたくらいです。

しかし、弊社で公開したコラム「寄り添い型オンラインで高齢者のインタビューもお任せあれ!」の中でも触れられているように、高齢者をはじめ、まだまだ新しいことに苦手意識がある方が多いのも事実です。

いかに中身が分かりやすく親切になっていても、それが伝わらないことにはなかなか手を伸ばしてもらえない。

まずは、いかにとっつきやすくするか、初期の中のさらに初期段階の導入フェーズも重要なポイントであるということは、あらゆることに通ずることではありますが、この結果を見て改めて思った次第です。

3)日本のイマとミライ

調査終了後、結果が公表されるまでには少し時間を要し、また新型コロナの影響もあり通常より長めになっています。

最初の基本集計としての「人口等基本集計」が2021年11月公表予定ですので、もう数ヶ月先になりますが、先月25日に速報集計が公表されたこともあり、今回のコラムに取り上げさせて頂きました。

速報の大きなトピックとしては、

・2015年に引き続き日本の人口は減少
・東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)はさらに増加し、全体の約3割を占める
・一方で、地方の人口の減少が目立ち、全国の82.4%の市町村で人口が減少
・1世帯当たり人員は2.27人で引き続き減少

などが上げられ、速報だけを見ても、気になる内容が多い結果です。

※総務省統計局「令和2年国勢調査  ー人口・世帯数(速報値)」より
https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2020/kekka/pdf/summary.pdf

ただ、これは今回のこの新型コロナ禍真っ只中で実施された国勢調査の結果であり、日本がここ数年で進んできた、あくまで”今”の形に留まります。

今回100年目の節目となる国勢調査のデータは、将来的には結果としてターニングポイントになっている可能性もあるのではないかと考えたりもします。

この1年、リモートワークの普及、生活スタイルやコミュニケーション手段の変化など、半ば強制的に急激な変化を受け、これからも様々な影響を受け、少しずつ違った方向に進み始めることも多いのではないかと。

事実、リモートワークの普及で、地方、郊外への移住などもトレンドとして芽生え始めていることなどもあります。

だからと言って今回の結果を活用するのが難しい、そのまま受け取るのは難しい・・ということではありません。

そうした未来を予測し考えるためにも、”今”をしっかり押さえておくことは非常に大切なことであると考えます。

ただこれは、国勢調査のデータだけの話ではなく、日々の調査のデータにおいても同様です。

最新の“今”の情報を活用し現状把握に努め、未来に繋げる情報・データを提供していくこと。

それが私たちの役割であり、責任であり、求められていることと考えます。

今も未来も、時には過去も、各種調査をご検討の際には、是非ご相談下さい。

執筆者プロフィール

NIマーケティング研究所(集計分析担当) T.A

大学時代は社会調査を専攻するも、ロスジェネのさきがけ世代で、大学卒業時は就職氷河期真っ只中。
一度はシステムエンジニアとしての道を歩み始めるも、IT不況のあおりを受け、勤めていたSIerは倒産。
路頭に迷っていたときにネットリサーチの存在を知り、今までの経験をハイブリットできないかと調査業界へ転身。
ロスした分を取り戻すべく、デスク~現場をがむしゃらに走り続けて10余年。現職に至る。
現職では、主に消費財メーカー様の商品開発、市場分析などのテーマに集計分析から報告まで担当している。
ロスした分を取り戻すべく、デスク~現場をがむしゃらに走り続けて10余年。現職に至る。
現職では、主に消費財メーカー様の商品開発、市場分析などのテーマに集計分析から報告まで担当している