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たかが読点(コンマ)、されど読点(コンマ)①

こんにちは。

新学期が始まって、新社会人や学生の方も新しい環境にそろそろ慣れてきた頃でしょうか。と言っても近年は業界を超えた中途採用や、就職せずに学生のうちから起業している方も多いですし、リクルートスーツに身を包んだ新社会人という共通認識は薄れているかもしれません。
かくいう私も、そういう意味での新社会人だったことは一度もありません(笑)。

さて、そんな一匹狼や、集団生活を始めた新生活の慌ただしさに一休み、ということで今回は、「一呼吸のコンマ」の話。

日本語にも読点があるように、ドイツ語にもコンマがあるのですが、そもそもコンマや読点がなんのためにあるかといえば、文章の内容を読み手にわかりやすく伝えるためです。ドイツ語のコンマは、日本語の読点と同様、文章中で何かを列挙、羅列するときに使用されたり、また文の補足的な残りの部分を区切るとき、そして主文と副文を区切るときなどに使用されます。また、文献引用、日付、住所の表し方にもコンマの使い方に関する細かいルールがあります。

休憩(コンマ)場所はどこ?

読点の場所やその有無は、文章の内容を左右するばかりか、時に決定的ですらあります。

日本語の例。

うん、このケーキ美味しい!
うんこのケーキ美味しい!

ひらめいた!
ひらめ、いた!

くるまで(車で)待ってて。
くるまで(来るまで)待ってて。

ここで、はきもの(履き物)を脱いで下さい。
ここでは、きもの(着物)を脱いで下さい。

この類のものなら日本語の場合は漢字表記で意味の判断が付きますので、言葉遊びとして楽しめるのですが。

ではドイツ語はどうでしょう。

“Komm, wir essen, Papa!” 「パパ、来て〜、ご飯だよ!」
“Komm, wir essen Papa!” 「来て〜、パパを食べよう!」
コンマがあるかないかで、だいぶ違う^_^。

“Ich liebe dich, nicht Margrit liebe ich.”
「僕の愛しているのはマーグリットじゃない、君だ」
„Ich liebe dich nicht, Margrit liebe ich.“ 
「君のことは愛していない、僕の愛しているのはマーグリットだ」

コンマの場所で、だいぶ違う^_^。

もう少し深掘り・・

上記の例は、コンマの位置によって意味がかけ離れすぎてしまうため、流石に文脈から正しく理解できそうですが、これがもう少しだけ複雑な文章になると、どうでしょうか。

Er hofft, jeden Tag einen Brief von ihr zu bekommen.
彼は、彼女からの手紙を毎日もらうことを望んでいる。
Er hofft jeden Tag, einen Brief von ihr zu bekommen.
彼は毎日、彼女からの手紙をもらうことを望んでいる。

次の文は、同じ文章でもコンマの位置の違いだけで3通りに意味が異なります。
Christian rät seinen Freunden, nicht immer alles zu erzählen.
クリスチャンは友人たちに、なんでも話すことを時には控えるようにと助言する。
Christian rät seinen Freunden nicht, immer alles zu erzählen.
クリスチャンは友人たちに、いかなるときも全て話すように、とは助言していない。
Christian rät seinen Freunden nicht immer, alles zu erzählen.
クリスチャンは友人たちに、全て話すようにと、常に助言しているわけではない。

このように読点の位置によって文の構造が変化し、意味が変わってくる例は、以下の日本語と比べてみてもわかりやすいと思います。

女は嬉々として尻尾を振る犬を抱きしめた。
女は嬉々として尻尾を振る犬を抱きしめた。

男は寂しそうに去っていく娘を眺めていた。
男は寂しそうに去っていく娘を眺めていた。

このように、コンマや読点は文章の構造に決定的な役割を果たすことがあります。
コンマについては、DUDEN(ドイツ語正書法辞典)にもその用法に関して17ページを割いて記述があるほど重要で、英語やフランス語と比べると、ドイツ語のコンマの使用頻度は非常に高く、文の構造を理解する上でかなり重要な役割を果たしています。DUDEN(ドイツ語正書法辞典)については以前にも書いているので興味のある人はどうぞ。

もちろん、ドイツでも小学生がコンマの置き方を学習しますが、大人になってからも、はて? となることがあり、特に細かい決まり(引用の書き方、優先ルールの有無)を知る必要があるときには、正書法の辞典に立ち戻る、ということは少なくありません。

日本語の中に, コンマ?

実は、日本語でもコンマが重用されている場面があります。
それは教科書や役所の公文書です。

実に71年前にまで遡る、こんな政府からのお達しによって。

句読点は,横書きでは「,」および「。」を用いる。

公用文改善の趣旨徹底について 内閣閣甲第 16 号 昭和27年4月4日 各省庁次官宛内閣官房長官依命通知

そう言われると、自分が学生の時に使っていた歴史の教科書、読点ではなくコンマだった気がして来ました(笑)。
しかしこの慣習、今は変わりつつあり、コンマではなく読点で統一する動きがあるようです。

つい2年前の公文書作成のガイドラインではこのように変わってきています。

句点には「。」読点には「、」を用いる。横書きでは、読点に「,」を用いてもよい 
新 句点には「。」(マル)、読点には「、」(テン)を用いることを原則とするが、横書きでは事情に応じ て「,」(コンマ)を用いることもできる。ただし、両者が混在しないよう留意する。学術的・専門的 に必要な場合等を除いて、句点に「.」(ピリオド)は用いない。欧文では「,」と「.」を用いる。

新しい「公用文作成の要領」に向けて(報告) 令和3年3月 12 日 文化審議会国語分科会


とはいえ、まだ目にすることが出来る日本語の中のコンマ。
いずれなくなる前に、お子さんの、また学生さんなら(横書きの)教科書を、一度点検してみてください。

ちなみに私は、コンマ書きを子どもの保健体育(!)の教科書に発見しました。

また、外務省、法務省、宮内庁のHPの一部や公文書にもコンマが見られます。

コンマを取り入れた背景には、なるべく広くあらゆる公式文書を横書きで作成するようにという戦後の方針があったようですが、言葉(句読点)が時代によって変化していく様子は言葉のジェンダーニュートラルの回でも書いたので、関心のある方はどうぞ。

学習者には覚えることが増えるけど、言語って変化していくから面白いですね😁。

次回は、続いてドイツ語のコンマの具体的な約束事について少し書こうと思います。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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