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ドラマ10「大奥」時代劇の照明の作り方

こんにちは。「大奥」で照明を担当しています髙橋温志と申します。
第2回楽しんでいただけたでしょうか? 

ここでは、「時代劇の照明手法」と、実際に1月17日に放送した第2回の「有功が素振りをするシーンでの照明手法」を例にドラマの照明は何をしているのか、ということをお話しさせていただきます。

内容がマニアックかもしれませんが、ご容赦ください。

私はこれまで朝ドラ「スカーレット」「おかえりモネ」や大河ドラマ「鎌倉殿の13人」など、主にドラマの照明を担当してきました。
今回の「大奥」では「フロア」という役割を担っています。

ドラマ番組では、収録現場にある電球などが発する光だけで撮影できているわけでなく、照明で光を作り足しています。
カメラで撮って映像として成立させるのに必要な光量を加減し「不自然さを感じさせることなく」物語にいざなうのが照明の役割です。

NHKのドラマ番組の照明チームには大きく3つの担当があります。

■LD(ライティングディレクター):照明チーフ。番組のクレジットに「照明:〇〇」と表記される人。
■LSC(ライティングサブチーフ):現場に配置されたライトの明るさや色味を調整して画を作る人。
■フロア:実際に現場の最前線でライトを配置するなどして作業をする人。「大奥」では現場に5人くらいいます。

LDが照明プラン作成→それを基にフロアが作業→LSCがコントロール→LDが確認、という流れで作業を進めています。

光はどこから当たっているのか

ドラマ照明の仕事をするうえで、意識しなければならないのは「光源」です。
わたしたちの周りは光源であふれているはずです。明るい部屋の中なら天井にあるシーリングライトや蛍光灯が、机の上ならデスクライトが光源になります。
暗い部屋、もしくは顔を画面に近づけてこの文章を読んでいるのならば、まさにその目の前のスマホかPCが光源です。
日中の屋内ならば窓から差し込む日光が光源になることもあります。
同様に、晴れた屋外ならば太陽が、曇っているのならば空全体が、夜の公園なら街灯が光源になるかもしれません。

実際の現場では、そのシーンの設定や、周囲の環境を鑑みて光源を考えます。
なぜなら、ナチュラルさやリアリティを重要視しているからです。
あるはずのない方向からの明かりがあると、それだけで不自然さが異常に際立ってしまいます。
あくまで物語に視聴者をひきこむことが最重要事項ですから、光源にこだわり、あたかもそこにそのような光源があるかのように、我々は照明の仕事をしています。

こうやって偉そうに書いていますが、全て先輩方から教わってきたことで、私はきちんと理解するのに3年くらいかかりました。この仕事をするまで光源なんて気にもしたことがなかったです。
日常生活では、街中の切れかけている電球や蛍光灯は気になってしまいますし、外を歩いていても雲の流れの早い日は「こんな日にロケはしたくないな」とか思ってしまいます。
日々の暮らしに役立ちませんが光源に敏感になってしまいました。

時代劇と現代劇の違い

時代劇と現代劇の照明の大きな違いはこの光源にあります。
屋外の場合、現代劇も時代劇も光源は太陽です。ですから照明的にもアプローチの仕方は基本的に変わりません。
一方で屋内の場合、現代劇と時代劇で照明的にアプローチの仕方が大きく変わります。
「大奥」の舞台となる江戸時代にはまだ電球などは当然普及しておらず、ロウソクが光源になります。

では、現代人の身近にあるシーリングライト(天井にある電気)とロウソクの違いは何でしょうか。それは“光源の高さ”です。
現代では天井からの明かりで部屋全体が明るく照らされますし、さらに言えばどこにでも光源があります。一方で江戸時代の明かり=ロウソクは、基本的に低い位置にあることがほとんどです。

例えば、時代劇の屋内のシーンで高い位置から照明を強く当てると違和感が生まれてしまいます。
なぜ違和感が生まれてしまうのでしょうか。それはみなさんが、この時代に電気がないことを当たり前のように知っているからです。
顔に上から下方向への影が出ると、上から明かりがあると脳が認識します。この時代に電気がない(=上からの明かりはない)ということを現代人は知っているので、上からの明かりがあるとリアリティが損なわれ違和感が生まれてしまいます。
時代劇の照明は低い明かりで作っているのです。

有功の素振りシーン 照明でどう見せるか

では実際にこのシーンを例に照明手法を3つのポイントに分けて紹介していきたいと思います。

劇中写真
劇中写真

このシーンの(照明的な)ポイントは、
①ロケだが日光の差し込まない室内
②日中→夕方→夜というように同じ場所で時間経過が発生している
③カッコいい有功をカッコよく撮りたい(意外とこれが重要)

①ロケだが日光の差し込まない室内

このシーンはロケで撮りました。ロケでは太陽が光源とお伝えしましたが、今回のこのシーンのように陽の光が差し込まない(=太陽が利用できない)環境である場合もあります。
このような場合は、太陽の代わりを照明チームが作ります。有功が素振りをするこの道場には窓が4つありました。ここに日差しの役割となるような照明を作りました。
時間帯によっては、本物の太陽が差し込んでしまうのですが、影などがややこしくなるため差し込んでくる直射日光は塞いで対応しました。
ロケは太陽との戦いでもあります。晴れたり曇ったり、位置が変わったり(=影の方向が変わる)、こちらがコントロールできないものなのでいつも悩まされます…。

②日中→夕方→夜というように同じ場所で時間の流れが発生している

時間の流れも照明で表現していきます。夕方になると日差しはオレンジ色の赤みを帯びてきます。
変わるのは色味だけではありません。地球にいる我々視点では、日が暮れるにつれて太陽の位置・高さ・角度も変わります。
時間の流れは、先程お伝えした光源を変化させることによって表現していきます。

この撮影シーンを簡単に図式化するとこんな感じです。

図解

日中のシーン➡4つの窓
夕方のシーン➡有功の後ろにある障子
夜のシーン➡ロウソク

このように3つのそれぞれ時間帯の異なるシーンに対して光源を考えました。

図解

日中のシーンです。実際の現場はこんな感じでした。

メイキング写真

窓の横に立っている白い板状のものは、部屋中に入ってくる本物の太陽を遮る役割をしています。照明器具と本物の太陽の影が2つあると、ややこしくなってしまうためです。 本物の太陽を利用したいところですが、太陽は安定しない(曇ったり、位置が変わったり…)のでこのようにしています。

図解

夕方のシーンです。昼から夕方になったことを“4つの窓→有功の後ろにある障子”へと光源を変えることによって表現しました。

実際の現場はこんな感じです。

メイキング写真

夕方という設定ですが、写真の通り快晴の青空(午前中)に撮影しています。

図解

夜のシーンも同様です。この道場にはロウソクがあるという設定だったので、同じくらいの高さ・色味の照明器具を用いてライティングしました。

実際の現場の様子です。

メイキング写真
メイキング写真

有功の素振り回数や表情や汗が、時間の流れを物語っています。気づきにくいですが、このようにして照明からも時間の流れのアプローチをしています。

③カッコいい有功をカッコよく撮りたい

シンプルなことですが、これが意外と一番重要だったりします。このシーンは大奥のなかで、有功のポジションが変わるきっかけとなる重要なシーンです。将軍の男になるのですから説得力を持たせるためにも、とにかく有功をカッコよく撮る必要があったのです。

では、どのような照明手法で人をカッコよく撮ることが出来るのでしょうか。基本的にはカメラアングルと異なる方向で照明を作ると、カッコよくなります。
分かりやすい例は逆光です。ヒーローが登場するシーン、何か大きな成功を収めたシーン、感情的に何かを訴えるシーン、つまり気持ちがたかぶるシーンでは逆光を入れることで印象的になります。

例えばこのシーン(夜)の光源はロウソクです。ですからロウソクがあたかもあるかのような照明を作ります。
ロウソクの高さ、カメラアングルの関係から、完全な逆光を入れることは難しいので、カメラの邪魔にならないギリギリのところから強い光を当てることで、有功のカッコよさを際立させようとしました。(細かいことを言うと、そのような照明だけだと肝心の表情が見えなくなってしまうので、正面からも照明を当てます)

劇中写真

こちらのシーンは、NHKプラスで2023年1月24日午後10時44分まで見ることができます

さいごに

今回は具体的な照明手法を紹介させていただきました。
いろいろと書きましたが、一番大事なことは、視聴者の方が物語に集中していただき、それを楽しんでくれることです。
ですので、視聴者が「照明のことなんて気にもならない」となっていれば我々の仕事は成功したといえます。「あのシーンの照明は〇〇だ」など、照明が気になってしまって物語に集中させることが出来なかったら我々の仕事は失敗したといえます。

しかしときには、ここぞというシーンで印象的な照明を作りシーンを演出することもあります。そういったところのさじ加減が難しいところだと感じています。
照明がリアリティやナチュラルさを重要視しているのも、光源にこだわって仕事をしているのも、すべてそのためです。
 
明かりを1つ作るのにもさまざまな手法があります。歴代の先輩方が培ってきたスキルをしっかりと継承しつつ、よりよい映像表現ができるよう日々いろんなことを吸収していきたいと思います。 
これを読んだ皆さんが少しでも「大奥」を楽しんで見ていただければ幸いです。

「大奥」照明フロア担当 髙橋温志
2018年入局。大阪局でドラマ照明に携わりはじめ、2020年から東京で引き続きドラマ照明に従事。担当番組は、「スカーレット」「閻魔堂沙羅の推理奇譚」「光秀のスマホ」「おかえりモネ」「鎌倉殿の13人」など。今回の「大奥」で初のフロアチーフを担当。
大奥で好きな将軍は三代・家光。有功に心を開いていく過程が可愛いから。お恥ずかしながら台本を読んでキュンキュンしました。
劇中写真
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