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「らんまん」裏話!ドラマ支えた“SKT”の存在

ついに最終回を迎えました。
最後までご視聴いただき本当にありがとうございました!
「らんまん」最後のnoteは、「植物」についてのお話です!
劇中で登場したさまざまな草花は、季節の移ろいとともにいろいろな顔を見せてくれたり、新たな発見をさせてくれたり…さらに登場人物の心に寄り添い、ときには愛しい人を思い出させてくれるような存在でした。

ここまで「らんまん」に登場したたくさんの植物の裏には、
植物考証チーム、略して「S(植物)K(考証)T(チーム)」という存在がありました。今回は、そんなSKTのこだわりがいっぱい詰まった裏話をお届けします!

こんにちは。
ディレクターの畠山です。2022年に入局、東京のドラマ部に配属となり「らんまん」の助監督をしていました。助監督にはさまざまな担当がありますが、私は植物担当、SKTの一員になりました。メンバーは5人の助監督と、日本のトップオブ植物学者7人。みなさんはこの「植物担当」と呼ばれる私たちが何をしていたと思いますか?
 
ドラマの舞台裏を、SKTの先輩たちと語り合ってみました!

「らんまん」の植物考証チーム3人
「らんまんSKT」の畠山(今回のnote進行役)・寺井・廻田
SKTプロフィール:畠山桃子・廻田博思・寺井純玲

「このドラマは大変なことになる…」

畠山:チームを引っ張ってきた廻田さん、寺井さん、本当にお疲れさまでした!

廻田:お疲れさまでした!ドラマが始まってからはSNSや視聴者の反応に勇気づけられた半年間でしたね。

寺井:正直、最初は植物に詳しい人たちからの厳しい目を恐れていたけど、実際はすごく応援してくださることのほうが多くて、その声は本当に原動力になりました。

畠山:私は撮影が始まってからチームに合流しましたが、番組立ち上げから関わっている廻田さんはどうでしたか?

廻田:僕が「らんまん」チームに入ったのが2022年1月。まだ主要な演出陣、上司や先輩と僕の5人くらいしかいなかったときです。
いま考えたら当たり前なんだけど、植物ってそれぞれ年中あるわけじゃなくて、決まった季節や場所に咲くものじゃないですか。でもそのことに当時は全然気づけていなかったというか…。 

およそ1年かけて撮影するわけですけど、物語の設定時期と必ずしも同じ時期に撮影するわけではないですからね。つまり撮影したい時に必要な植物がないわけです。これには困りました。

それでも「開花調整とかできるんじゃないの?」などと甘いことを考えていたら、植物監修の田中伸幸先生から一言「開花調整をしたいなら2年前から準備しないと、とてもじゃないけど間に合わない」って言われて絶望しました。植物をテーマにどう映像化できるのか、まだ真剣に考えられていなかったんですね。
 
畠山:雲行きが怪しくなってきました…。

廻田:「このドラマは大変なことになるよ、きっと」って先輩がポロッとらした言葉が今でも忘れられません。牧野富太郎は魅力的な人物なのに、今まで映像化されてこなかったワケ、そりゃ植物がネックだったのか、ってなりました。そのあと先輩の言葉は現実となり、我々は大変な思いをするわけですけど…。

高知に自生するバイカオウレン
思い出の植物:バイカオウレン
廻田「高知で見た、一面のバイカオウレンの景色が今でも忘れられません。
一番最初に作成したレプリカでもあり、ここからすべてが始まりました」

改良を重ねたレプリカ

畠山:植物を扱うことは試行錯誤の連続でしたよね。

廻田:本当にそう。植物担当って植物の準備だけって思われるかもしれないけど、そんなことはなくて、【標本や生植物の準備】【レプリカ作成】【小道具作成】【植物に関わるお芝居の細かい設定】【植物の先生方と台本考証】…と幅広く担当しているんですよね。
 
畠山:撮影時期によっては実際の植物は使えないのでレプリカに頼らざるを得ないですよね。

廻田:全部で29種類作りました。
レプリカを作るためには型をとる必要があるから実物を用意しなくてはいけないんですよね。でも冬にしか咲かない花だとしたら、冬に採れなかったら次のチャンスは1年後になっちゃう…。だから使う植物は早い段階で決めてどんどん準備しないと間に合わないんですよ。

劇中写真:バイカオウレンを見つめる少年時代の万太郎

あと役者さんが植物を持った瞬間、レプリカだと視聴者にバレてしまったこともありました。できる限りのことはしていたのですが、しなやかさが足りていなかったんですね。
植物のレプリカ1つで、自生している時の表現と手に持った時の表現を同時に実現しなければならなかったわけですけど、森の中で自立させるにはどうしても強度が必要になってきますし、かつ運んでいる途中に壊れてもいけないので頑丈に作る必要がありました。
 
ただ、そういう視聴者からの反応があったからこそ、「しなやかさをもっと追求したい。どこからどう見ても本物に見えるように作ろう」と考えるようになりました。
製作所の方にはたくさん無理難題を言いましたが、少しでもドラマが良くなればと文句一つ言わずに付き合ってくださいました。レプリカを使ったシーンの映像を確認するなかで、作り方も変わっていき、第6週(東京編)以降はクオリティが飛躍的に上がったと思います。

メイキング写真:植物考証にあたる廻田ディレクター
レプリカの準備をする廻田

オレンジ色の羽織を着た彼を覚えていますか?

畠山:ドラマでは週ごとにテーマとなる植物が登場し、サブタイトルにもなっています。実は廻田さんのアイデアが生かされたものもあるんですよね!

廻田:第2週の「キンセイラン」ですね。
万太郎が通う名教館めいこうかんの池田蘭光先生(寺脇康文さん)が登場する週で、子どもの万太郎が自分の人生を決める分岐点になる話だと思いました。
蘭光先生ですし、「ラン」で探したところ、万太郎のモデルとなった牧野富太郎が命名した植物のなかにキンセイランという植物があることがわかって脚本の長田育恵さんに提案しました。

それを受けて長田さんが考えてくださったのが、蘭光先生が万太郎にかけた「心が震える先に金色の道がある。その道を歩いて行ったらえい」という言葉。結果、この「金色の道を歩く」というのが最後まで通底する1つのテーマにもなったので、物語のキーとなる部分に関わらせてもらえたと思っています。
 
あとは第5週「キツネノカミソリ」も提案しました。牧野富太郎にゆかりのあるものでオオキツネノカミソリという植物があります。

オレンジ色のオオキツネノカミソリの花
「キツネノカミソリ」

この植物は花の色が目立つオレンジ色で名前もカミソリ、鋭くていいじゃん!って。というのも、大衆の前で演説を行う自由民権運動のリーダー早川逸馬(宮野真守さん)が出てくるんですよね。
だから華やかで人の目を引く、求心力もあって頭がきれる、そう思って長田さんにキツネノカミソリを提案したら採用してもらえました。そこから衣装が決まっていき、彼の身につける羽織やネクタイがオレンジ色になりました!

劇中写真:オレンジ色の羽織を着て演説する早川逸馬(演・宮野真守さん)
自由民権運動のリーダー早川逸馬(宮野真守さん)

気づきましたか?実はこんなところまで作っています!

畠山:実はドラマに出てくる論文や雑誌などの小道具も我々が作っているんですよね。

寺井:論文や検定に必要な本も全部作っています!
例えば、田邊教授(要潤さん)に東京大学へ通うことを許された万太郎が、藤丸(前原瑞樹さん)のノートを興味津々で見るシーンがあります。そのノートに書いてある内容も、実際に私とSKTの先生で考えたものです。

劇中写真:筆記体の英語が細かく書き込まれた藤丸次郎のノート
第8週「シロツメクサ」に登場した藤丸次郎のノート
小道具の「藤丸次郎のノート」を作るための原稿
「藤丸次郎のノート」の原稿

廻田:SKTの先生から「これで本物の修士論文が書ける」と言われたのは第20週「キレンゲショウマ」のシーンだっけ?

寺井:田邊教授と万太郎が同時進行で新種検定をするシーンですね!
 あとこれも伝えたい(笑)。第17週「ムジナモ」で登場する「日本植物学雑誌」。万太郎がムジナモを発見したという内容の論文を書くものの、田邊教授の名前を入れずに怒られて破門になる場面で登場します。
万太郎は論文を書き直すことになるのですが、最初の論文と修正した論文の2パターンちゃんと作っているんです。

畠山:これはぜひお見せしましょう!

万太郎が修正する前の「日本植物学雑誌」
修正前。執筆者名は「槙野萬太郎」のみ
万太郎が修正した後の「日本植物学雑誌」
修正後。執筆者名だけでなく本文も修正されている。

廻田:こうした植物学にまつわる小道具の作成は、もう寺井さんにしかできない領域になっていたよね。植物分類学って専門用語も多くて難しいし、最後の方はみんなから「寺井先生」って呼ばれていたもんね(笑)

寺井:そんなことないんですよ。

廻田・畠山:そんなことあるんです!
 
寺井:ほぼ映らないと思っても真剣に作ります。
論文を作るときには、基となる牧野富太郎の論文を必ず読むようにしました。そうすることで、私からSKTの先生方に「こうした方が『らんまん』の内容に沿うのでは」と提案することができました。

最終的には、絶対アップで撮らないようなところも、「牧野先生なら手を抜かないだろうな」と思うようになり、役者さんが雑誌のどこを開いても演技ができるように作りこみました。

SNSの反応を見ながら頑張れました

畠山:SNSってチェックしていましたか?

寺井:めっちゃエゴサーチしていました(笑)。

廻田:視聴者の方々って本当に細かいところまで見てくれていますよね。
桃ちゃん、印象的だったものはある?

畠山:「オナモミ」です!
佑一郎(中村蒼さん)が渡米する前に十徳長屋を訪ねた際、採集から戻ってきた万太郎と出会うシーンなんですが、演出のメモに「くっつき虫をつけて帰ってきた万太郎」って書いてあったんです。

劇中写真:十徳長屋で笑いあう佑一郎と万太郎
十徳長屋で再会した佑一郎と万太郎

実は現在、国内で多く見られるオナモミってオオオナモミという外来種なんです。SKTの先生と「せっかくだから、当時はよくあったけど今はもう珍しい在来種のオナモミを使おう」となり数粒ほどお借りすることになりました。
環境省のレッドデータブックによると絶滅危惧種Ⅱ類に指定されているほど貴重な個体なので、傷つけずに先生にお返しできるよう、本当に細心の注意を払いました(笑)。
役者さんにも「貴重なものなので、一粒でも落ちたら教えてください!」ってお願いしました。

劇中写真:万太郎の背中に付いた在来種のオナモミ
「くっつき虫」は、貴重な在来種のオナモミだった

廻田:すごく小さいんだよね。

畠山:「本当にこれ落とせないんで、すみません!」って(笑)役者さんも笑っていましたよ。その様子を見ていた演出も、「そんなに珍しいんだ」と言ってアップで撮影してくれました。演出が私たち植物担当チームの努力をくんで撮ってくれたことがうれしかったです。

誰も気づくはずないと思っていたら、SKTの先生からSNSの反応が送られてきて、「これは外来種じゃない!|棘《とげ》のまばらな在来種のオナモミだ」「仕込みが細かい!」と気づいてくれた視聴者がいたこともわかりました。
ドラマの放送と同時並行で撮影もしているので、SNSの感想を見ながら頑張れるのっていいことだなって思いました。 

会議の様子がそのままドラマになっちゃった

畠山:SNSでも好評だった第15週「ヤマトグサ」検定のシーン。こちらも大変でしたよね。

劇中写真:植物学教室で検定する万太郎たち

寺井: そもそも牧野富太郎の論文には、どういう文献に当たってヤマトグサがセリゴナム属の一種だと認定したのか書かれていません。
でもSKTはその過程を台本チームに提案する必要があります。どこから手をつけるか、なのですが、当時は写真がないので絵を頼りにしなければいけなかったはずです。

SKTの先生がギリシャの植物が載った本を探し当ててくれて、そこに、“ヤマトグサに似た植物”の植物画が載っていました。今度は”ヤマトグサに似た植物”について書いてある20冊以上の文献をさかのぼって探して…。牧野富太郎たちが至った結論から逆算して、彼らの思考のプロセスを再現するという作業をしました。
 
廻田:SKTの先生方とはドラマで必要な植物について話し合ったり、矛盾むじゅんが出ないようにセリフを考えたりするため、台本が届くたびに毎回3~4時間、植物考証会議を開きました。

第15週の時にも会議を開き、遅くまで先生方と本を探していたのですが、静かに黙々と探すというよりは、「次は、この本のここに書いてあるこの本を探せ!」「ありました!」「イエーイ!(拍手)」「ヤマトグサに似た植物が載っている本が見つかった!」「うぉぉおお(歓喜)」とこんな熱い?やりとりを会議中ずっと繰り返したんです(笑)。
そうしたらその様子を見ていた演出が「この様子を撮れば新種検定の熱量が伝わるんじゃないか」って言っていましたね。
 
寺井:ヤマトグサの検定シーンで大窪(今野浩喜さん)と万太郎がやっていたことは、まさに我々が会議室でやっていたことだと思っています!
 
畠山:また、植物が関わるシーンの撮影には必ずSKTの先生の立会いが必須で、現場で細かくアドバイスをいただくんですよね。「この近くにこの草は生えません」とかそのシーンの時代と季節の設定に合わせて細かくチェックしてもらい、SKT一丸となって臨みました。

劇中写真:植物学教室内の万太郎と大窪

ドラマを支えてくれた全国の牧野富太郎“愛”

畠山:「らんまん」は本当に多くの方々に支えられて、ここまで来ました。

廻田:牧野富太郎のファンが全国にいっぱいいて、そこに救われたと思っています。
第17週で登場したムジナモは実は絶滅危惧種なんですが、今も大切に育て保存していらっしゃる人たちがいるんです。その方々が「牧野先生のためならば」と無償でムジナモを貸してくださいました。
また、高知県の牧野植物園の協力なしでは番組を立ち上げることはできなかったですし、練馬区の牧野記念庭園にもたくさんお世話になりました。

熱量の高いファンの方たちがいっぱいいる牧野富太郎が主人公だったからこそ成り立ったドラマだと思います。

畠山:私は、最終週に出てきた「スエコザサ」の撮影の段取りを担当したのですが、いざスエコザサを探してみると、一般に売っておらず本当に入手が難しい植物でした。
しかも何もないところにスエコザサの群生を作らねばならないため途方に暮れていたのですが…、練馬の牧野記念庭園さんがスエコザサを快く分けてくださいました。
それだけでなく、長時間の撮影にも耐えられるように、スエコザサの保存方法をテストしてくださり、おかげで何事もなく撮影を終えることができました。

メイキング写真:スエコザサの群生を作る畠山ディレクター
思い出の植物:スエコザサ
群生を作る畠山とSKTの先生

寺井:私は、ドラマに登場する本や雑誌などの小道具を主に担当したのですが、「こんなところまで見てくれるの!」ってくらい細かいところに気づいてくれる視聴者もいて、我々の9割の知られていない努力が報われた気持ちになりました。

自生するキレンゲショウマ
思い出の植物:キレンゲショウマ
寺井「検定シーンは、SKTの先生に『これで論文書けます』と言わしめた難しさ」

廻田:入局2年目で朝ドラを担当して大変だったと思うけどどうだった?

畠山:個人的な話になるんですけど、「らんまん」の植物担当に任命されたとき、これは縁だと思いました。
というのも、私の祖父は薬草や菌類の研究をしていて、「らんまん」の担当になったら祖父を喜ばせられると思っていたんです。ですが、担当に決まった矢先、祖父は亡くなってしまいました。
亡くなったあと祖父の家に行ってみたら、牧野富太郎の本や植物の本がいっぱいあったんです。その本をごっそり自分の家に持ち帰り、撮影に臨みました。祖父に見守られている気がしてここまで頑張ることができました。
そんなこともあり今回の作品は自分にとって大切な作品になりました。
「らんまん」に関わることができて幸せです!

最後に

植物だけでなく、スタッフ一同、いろいろな部分で本当にこだわりを持ってみなさまにお届けしようと頑張ってきました。
「らんまん」は最終回を迎えましたが、馬琴先生の八犬伝・牧野先生の植物図鑑のように、何年経っても人々の心に残るような作品になることを祈っています。
10月2日から始まるブギウギもよろしくお願いします!

らんまん植物考察チームの3人記念写真
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